『小麦を食べると不調になる私たち』(1)
私は病院、診療所で約30年間、患者さんの食事相談をしてきました。もっとも多いのは、乳がん、子宮がん、子宮筋腫、子宮内膜症、生理不順、そして不妊症など婦人科系疾患の患者さんでした。
食事相談をする際、2回目にお会いした時に聞くのは「便通」です。ある程度、食事が変われば便通が良くなる可能性が高いと思っているからです。食事は薬や注射ではありませんから、病気そのものへの影響は中々わかりません。
ところが、いつ頃からでしょうか?「食事が薬のようだ」と思う事が増えてきました。わずか1か月も経たないで、疲労感、脱力感が少なくなった。ならともかく、生理痛がなくなりました。筋腫が小さくなったような気がします。肌のトラブルが解消しました。体重が落ちました。などという患者さんが増えてきました。
女性ですから、極端な例ですが、朝は菓子パン、昼はドーナッツ、夕方にケーキ、夜はパスタなどという人もいるでしょう。
食事になっていないのですから、試験でいえば、マイナス200点。そのような人が、ごはんと味噌汁を食べるようになれば、プラス30点、あるいは0点に近づきます。上げ幅が200も300もなれば、短期間で体調が変わることもあるかもしれない。実際、その思いは今でもあります。それにしても、早い!?
グルテン(小麦などに含まれるタンパク質)を14日間だけやめてみて、どういう気分になるか試してみてほしい。そして、15日目に、パンを少しだけ食べて様子をみてほしい。体が発する声に耳を傾けてほしい。14日で体重5kg減、そして世界制覇―テニス界絶対王者が語る“人生好転・肉体改造のための設計図”。―(本文より)
「グルテン過敏症」
グルテンフリーは以前から知っていました。日本で有名になったのはテニスの世界チャンピオン、ノバク・ジョコビッチの上記著書でしょう。
ただし、「グルテンフリーダイエット」や「グルテンフリー健康法」という言葉を耳にし、スーパーに行くと「グルテンフリー食品」の売り場を目にするようになって、あまり関心が向きませんでした。
グルテンが合わない人もいるというならわかりますが、それがダイエットや健康法になると違和感しかありません。
今回の新刊は祖母(音楽家)、母(著者・通訳)、娘(園児)、女性三代のグルテン過敏症との戦いを漫画にしたものです。私は出版社の依頼により、著者と対談しました。監修ということになってなっています。監修と言っても「グルテン過敏症」について詳しいわけではありません。
出版社の意図は、2つあったと思っています。食物アレルギーの教訓です。
検査によってアレルゲンとされた食品を止めることで様々な症状が緩和される。それはいいいのですが、中止する食品が多くなり、継続して行ったとき、貧血や低体重、栄養失調、無生理などになり、問題が指摘されるようになってきました。
全身栄養の問題を抜きにした食物アレルギーの考え方は危ない。もう一つは、小麦アレルギーなどが増えたことで、代替食品として米粉パンなども増えています。それが徐々に大きなビジネスになってきました。
そして、それらの食品は決して安くありません。そこまでしてパンを食べる必要があるのか?日々の食事をごはん中心の和食にして、たまにパンを食べるなら、そのような食品を利用するのもいい。と考えるべきだと考えたのでしょう。出版社としては、そこらに心配があったから対談の依頼があったんだと思っています。
「14日」で変わる!??
漫画の原作を読んでみて驚いたのは、ジョコビッチも書いているように
グルテンが合わない人はそれを止めると、短期間で体調が変わると言う事です。
2週間程度でそれを試すことができると言います。しかも、その症状は胃痛、胸やけ、下痢、便秘、頭痛、歯牙の弱さ、集中できない、鬱、湿疹、肌荒れ、生理不順、口内炎など多肢に亘ります。
私は婦人科系疾患の患者さんの食事指する際、もっとも重視してきたのが、
1に「カタカナ主食(パン・菓子パン・ピザなど)」2に「スイーツ」です。
どこまでやめさせるかは別にして、それらを減らすことを勧めてきました。スイーツの場合は、ケーキやクッキーなどの洋菓子です。
考えてみれば、きちんと守った人はかなり「グルテンフリー」になっていたと言う事になります。もしかして、短期間に症状が軽くなった人は、グルテン過敏症だったのではないか?漫画を読み終わってその思いが強くなっています。
そして、今や一部の人の話ではなく、かなりの患者さんがいるのではないかと考えています。なぜなら、途方もなくグルテンの摂取量が増えているからです。
アメリカ小麦戦略
日本に小麦が入ってきたのは弥生時代だと言われています。当初は、山梨県県の一部に残っているように、麦そのものを煮て食べていたようです。やがて、多くの国がそうであるように、「粉」にして食べるようになります。その粉から、お焼き(長野県)やすいとんなどが作られてきました。
そして、「うどん」、「素麺」、「冷や麦」などの麺類が作られるようになります。私が子どもの頃は、小麦粉を「うどん粉」と呼んでいました。実際、それまで日本で栽培されてきた小麦はうどん向きでした。小麦粉は大きく4つに分けることができます。
「強力粉」食パン用(タンパク質含量・主にグルテン13.0~11.5)
「準強力粉」中華麺・餃子の皮(12.5~10.5)
「中力粉」うどん(10.5~7.5)
「薄力粉」カステラ・ケーキ・天ぷら粉(9.0~6.5)
日本産の小麦は、現在でも中力粉、薄力粉が84%を占めています。ただし、品種改良などによって強力粉も約15%に増えています。
それが変わってきたのは、ご存知のように戦後のアメリカの小麦戦略でした。その象徴が学校給食のコッペパンです。その後のことは説明するまでもないでしょう。米の消費が減り、今や「カタカナ主食」だらけになってしまいました。
その多くが食品名、商品名はちがっても、「パン生地」を使ったものです。それらの消費拡大に貢献したのは、二大エンプテイー・カロリー「精製糖」と「精製油脂(食用油・硬化油など)」の力です。それが最大の健康問題だと指摘してきました。この考えは今でも変わっていません。
「カナダ産の小麦」の品種がもっとも多くなっている
そして輸入小麦粉が普及した最大の理由が、価格です。香川県の「さぬきうどん」など、かけうどんが200円前後で食べられる。カップ麺が100円台で買えることでもわかる通りです。だがゆえに利益率が高く、マクドナルド、ドミノピザ、ミスタードーナッツなどが世界中に増えることになっています。
日本の山崎パンや日清食品が大企業に成長したのも同じ理由です。
その結果、今や日本の小麦の自給率は約14%にまで減っています。輸入小麦粉をそのまま流通してしまうと、日本の小麦農家が壊滅状態になってしまうため、政府が買い上げ、そこにマークアップと言い、価格を上げて、製粉メーカーなどに売り渡しています。
それでも安いから国内の小麦は太刀打ちできなくなっているのが現状です。
今、輸入小麦粉は約493万トン入ってきています。もっとも多いのはアメリカ(240万トン)、次いでカナダ(168万トン)、オーストラリア(74万トン)になっています。ただし、品種別ではカナダ産のウエスタン・レッド・スプリングが149万トンで断トツです。
この小麦はタンパク質の含量がもっとも多く、ほぼパン専用に使われています。いや、パンに向いていたから輸入が増えたと言うべきでしょう。
ちなみに「さぬきうどん」のほとんどがオーストラリア産になっています。写真は一般のスーパーで販売されているものです。
「表示」を見ればわかるように、「カナダ産」でありタンパク質は(13グラム)も含まれています。なお、この小麦粉には「高級食パンに使用」と書かれています。実際に高級食パンと呼ばれるものにはカナダ産が使われています。
それが一般のスーパーでも購入できるようになっています。日本人と小麦との付き合いはかなりの年月が経っていますが、「小麦」そのものがとてつもなく変化してしまいました。そのことでグルテンの摂取量は比較できないほど増えています。
そして、グルテンの摂取を増やしたもう一つの要因は、「製粉技術」の進歩にあります。(つづく)