信義(シンイ)二次小説 -18ページ目

信義(シンイ)二次小説

りおのシンイParty☆

  
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「ウンスの取り扱い説明書」

ぬくぬくへの道 目次
※連載ものです、順番にお読みください

0.ぬくぬくへの道(序章編)
1.ぬくぬくへの道1
2.ぬくぬくへの道2
3.ぬくぬくへの道3
4.ぬくぬくへの道4
5.ぬくぬくへの道5
6.ぬくぬくへの道6
7.ぬくぬくへの道7


  お話

ウンスは寝台に横たわるが、おもむろに胸の中に収まるのは躊躇われ…

くるりと丸まって背を向けた

今にも爆発しちゃうんじゃないかと思うくらい、心臓がバクバクと音を鳴らす

手に汗握るとはこの事を言うのだろう

覚えてないくらいだ。こんなに緊張したのは、いつ以来の事だろうか…

現代で過ごした日々を思い浮かべた

そう、初めて執刀したあの時…

人の体にメスを入れたあの瞬間

こうやって過去を思い返しても、思い浮かぶのはあの日くらいじゃないかと思う

学生時代に先輩と初めてした時は、緊張よりもむしろ好奇心が強かったのよね

ふふっ

幼かった自分を思い出し笑った

それからも、どう考えてみても、ここまでドキドキした記憶はない

だって今夜は私にとって特別な夜

全てを懸けてやっと手に入れた幸せ

心から大好きだと思えた人と過ごす、初めての…二人きりの夜だもの…

今までの人生を思い返してみても、それに勝るものがあるわけがない

後ろの人に肩越しに意識をやれば、あなたの息遣いを直ぐ近くに感じる

私達は今、それ程近い距離だ

見られている…そう思うだけで、恥ずかしさで胸が押し潰されそうだ

背からはズキズキと突き刺さるような、あなたの強い視線を感じる

あの大きな目でじっと見られている

あぁ、駄目…

げっ、限界だわ…

もう思考が追いつかない…

逃げ出したようなそんな気分にさえなる

子猫のように丸めた体にキュッと力を入れ、ウンスはもっと小さくなった

いっその事、一思いに…

こんなじれったい余韻もなく、今すぐに始まってくれればいいとすら思った

 
イムジャは寝台に乗りあげ、俺に背を向けると、小さくなり身を強張らせていた

緊迫した空気と、困惑が俺を悩ませる

何時もであれば俺の気も知らず、平気な顔をし擦り寄ってくるこの方が…

今宵はまるで、何処ぞからか借りてきた、猫のように大人しかった

大人しいどころか、姿も丸く猫のようだ

どうにも不自然なウンスの恰好に、チェヨンの鼻先から笑いが漏れる

実の所、俺の思いは複雑だった

何故なら、困惑の裏には、言葉では表せない程の悦びもあったからだ

その、脆そうな小さな躰は、俺のものだと…俺だけのものだのだと…

そう思うと、抑えきれない想いと、それを越える欲が、全身を渦巻くようで…

己の中の男が増々昂るのだった

よくよく見眺めてみるとイムジャの躰は、小刻みに震えを帯びていた

それを見て様々な思いが錯綜する

何かを強く求め欲するという事を、イムジャと出会うまで忘れていた

なんの考えも持たずに、手放しで、ただ、ただ、欲しいのだと…

それは周りだけでなく自身すら見えてやしない、まるで幼子のような感情

俺はこの先、満たされるのだろうか?

一瞬、そんな馬鹿な事を考えた

満たされる事を知れば餓えも知る

ゆえに俺は…イムジャに満たされ、そして、また餓え続けるのだろうか…

キチョルあいつと変わりない

こんな俺に欲が無いと?誰がそんな嘘を後世に残したんだ

腹の底からくっと笑いが込み上げた

そう天界にいい伝わったのは、俺に呆れた周りの者らが、真実を捻じ曲げたのか

そうに違いないと薄笑いを浮かべる

少しの間イムジャの背を見ながら、俺はそんな事を考えていた

イムジャ、いいだろう?

俺はもう、十分待った…だから、もうこれ以上待たずとも…どうか、良いと…

目の前に息づくイムジャの呼吸を感じ、上下する躰の動きにすら、惹きつけられた

 
「イムジャ…」

チェヨンは何度か宙を舞い行き来させた手を、覚悟を決めウンスの肩に乗せる

しかし、ウンスは微塵も動かなかった

おかしい。反応がない。体の緊張が、ウンスからまったく感じられなかった

妙な違和感を覚え、少し焦りを感じ

「こちらを向いてください」

動きのないウンスに置いた手へ力をかけ、自分の方に躰を向けさせようとすると

ウンスの躰がごろりと転げ落ちた

「えっ…」

力なく転がったウンスに、短く驚きの声をあげ、チェヨンは素早く身を起こす

一体、何が起きたのか

「イムジャ!どうした!」

一瞬、嫌な予感が背を走った

頬に手をあてがい状態を見る

体は温かい。そして、耳の下に手を当ててほっとした。脈もある

今度は、もう少し柔らかい口調で、心配そうに、その名を呼びかけた

「イムジャ!イムジャ!どうしました?」

その時わが耳を疑う音が聞こえてくる

それはス~ス~と安らかな寝息だ

えっと驚き、よく顔色を窺い見れば、安らかな表情で、赤い唇が薄く開いていた

即座に、事の次第を飲みこんだ

「ハッ…」と短く息を吐くと、何とも言えない顔の、苦い笑いを浮かべた

あり得ぬ…この状況で寝る女が?

まさか、嘘だろうと思う

しかし、嘘どころか、たった今目の前に…俺の目の前に居るではないか

チェヨンだけでなく、この状況を見た誰しもが、冗談じゃないと思うだろう

嘘だろ、勘弁してくれ…

何度も見ても信じられ難く、顔を顰めた

イムジャ、どうか起きてくれ…

縋るような思いで、心の中で強く願った

さすがに辛抱強いチェヨンでも、そのウンスの状況は許容し難かった

「イムジャ!起きてください」

ウンスの鎖骨近くを手のひらで擦る

しかし、う~んと、鼻から抜けるような声を出すだけで起きる気配がない

さらには、男心もなんのその…

悲痛な表情を浮かべたチェヨンから、ふんと顔を背けたのだった


ウンスの気持ちよさそうな寝顔を、唇を噛みしめながら、横目で睨み付けていた

あまりに酷くはなかろうかと…

すやすや眠りこける、あどけないウンスの寝顔に向かって…

先程からずっと、細めた視線で責め立てるよう睨み付けていた

男の欲など知った事かとでもいうよう、時々「んっ」「んぁ」と短い声を出した

その度に、うっと、胸が突かれる

それが増々苛立ちを増長させる

「冗談じゃない…」

と、大きなため息と共に言葉を吐いた

「私、寝つきが悪くて…」

それが、最近のイムジャの口癖だった

天界に居れば決して受けずにすむ、多々の衝撃が心を蝕んでいったのだろう

ここ高麗に来た事で、そして百年前の荒れた時代を、女一人過ごした事で

イムジャは眠りに落ちる時、過去に受けた恐怖が思い返されるようだった

此の地に戻って来たばかりの時は、誰かが側に居てやらねば、眠りつく事が出来なくまでなっていた

無防備になる瞬間が怖いのだという

それでも俺と再会し共に眠る事で、もう警戒をせずともよいと、最近はイムジャの体が思い出したようだ

そのため、もう眠りはそう解かれない

今度は「寝が浅くて」そうとも言うが、俺と共に眠り、起きた試しが無い

不満げに、じとっと睨み付ける

イムジャが此の地に戻って以来、今宵も何もせぬのだと、毎夜強い覚悟を決めた

そして、共に床についた

無理をし添い眠る必要はないとも思うが、そうまでしても傍にいてやりたかった

なにより、腕の中にイムジャを包み込み、眠りに落ちるのが俺自身も幸せだった

しかし、欲に塗れた男が、愛しい人を胸に抱けば、必然と訪れる闇が甘く唆す

愛しい女と共寝し「あわよくば」そんな気持ちが無いわけではない

むしろ、そんな思いばかりだ

疾しい思いを抱え、ちっぽけな悪戯を仕掛けてみても、まったく起きやしない

ウンスがどれ程起きないかという事は、今までの経験から既に身に染みていた

「そんな顔して襲っちまうぞ…」

悔し紛れにチェヨンは言い放つ

しかし、なにを偉そうな態度で言っても、負け犬の遠吠えでしかない

それは自分がよく分かっていて虚しい

「くそっ…」

こうなれば「闇討ち」だと囁きかける煩悩を、イムジャとの初宵がそれではまずかろうと責める己がいる

辛うじて残っている理性が邪魔をした

「八方塞がりだ…」

チェヨンは、ハァと大きなため息をついた後、「あ~」と声を立て、どさっと寝台に背から倒れ込んだ

天井を見上げ、意識を出来るだけ向けぬよう、やり過ごそうと努めるが…

相変らず柔らかに漂う寝息に、鼻から舞い込む香りは誤魔化すことが出来なかった

今宵は諦めよと、イムジャの口から、そうはっきり言われれば諦めもつく

しかし、この状況はどうだ?

いいでもないが、駄目でもない

これでは、まるで蛇の生殺しじゃないか

股の間が張りつめズキズキ疼く

遣る瀬無さを抱えたまま…俺はこのままどうやって朝を迎えよと言うのか

下唇を前歯で強く噛みしめ、苦虫を潰したような顔で、虚しくため息をつく

だが、「据え膳食わぬは、男の恥だ」という言葉もあるだろう?

少しだけ、少しだけだ…

そんな馬鹿な浅知恵が浮かんでくるほど、俺はこの状況に耐えかねていた

チェヨンはそそっと、ウンスに近づくと、顔を不躾に眺めまわした

眸から鼻筋へと視線を落としていくと、ぷるんと、色づいた唇で目が止まる

ほんの少し、唇を合わせるだけだ…

ウンスに気づかれてしまわぬかとの緊張から、押し殺した息が小さく荒ぐ

俺は一体何をやっているんだと呆れるが、止められないでいる自分もいた

そして理性があっさりぶっ飛んだ

チュッと、眠るウンスに唇を合わせると、あの柔らかな感覚が伝わってくる

それは、胸が詰まるように狂おしく、もう一度…と、今度は軽く吸い上げた

「んっ…ん~」

ウンスの鼻息が、唇の上を掠めていき、擽られたようにむず痒かった

うっ、ハッ…

胸焼けしそうなほど、胸がざわめいて

もっと、もっとと、下から膨れ上がり、それがじりじりと焦げ付くように熱い

まさか、俺が、こんな事をする男だったとは、自分でも想定外だった

少しだけと、味わった唇では、あっという間に、満足できなくなって

「イムジャ、すまない」

そう思いながらも、止められなかった

ウンスの胸元に、恐る恐ると手を忍ばせるが、払しょく出来ない罪悪感も過り

ぴんと開いた指先を握りしめる

しかし、次の瞬間には、甘い誘惑から逃れられず、またぱっと開かれて…

ついに、胸元ではらりと零れ落ちた

ぐらぐらと眩暈がするようだ

いけない事をしていると分かってはいても、余計に興奮していく自分に戸惑う

再びそっと唇を重ね合わせ、胸元に置いた指先に、ほんの僅かに力を入れる

「ん~」

ウンスがまた小さく声を立てる

その瞬間、ハッと我に返った

これでは、まるで夜這いだ

俺が、安心し眠るイムジャに、夜這いをかけているようではないか…

チェヨンは慌てて身を起こすと、頭を激しくぶんぶんと左右に振り立てた

脳裏を支配した煩悩を振り払おうとする

喉が渇いた…口がカラカラだ

せめて喉の渇きを潤そうと、寝台から立ち上がり卓へと足を向ける

置いてあった瓶を荒く鷲掴み、大きく顔を天井に向け、瓶の中の水を煽ろうとした

ぽとっ、ぽとっと、水滴が落ちてきた

何度か便ごと振ってみたが、どうやらその数滴で事切れたようで空だった

そうだ…思い出した

先程すべて飲み干してしまったのか

全てが上手くいかず、「あーーー!!!」と、発狂したい気分に

「くそっ!!」

ぶつける当てもない遣る瀬無さ

哀れな男はたった一人、腹いせ交じりに、椅子を蹴り上げた



 ヒイィィィィィィ!!!!(゚ロ゚ノ)ノ
闇討ちだけはご勘弁を

宮のシン君が好きでした。松潤の、君はペットのモモも…
寝ている相手に悶々とする、男の人の姿大好きなのです
皆さんはお嫌いですか


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5.ぬくぬくへの道5
6.ぬくぬくへの道6


  お話  


囲炉裏の弾けるような音が耳に残る

ただでさえ、私は火照りやすい

火の温かさと極度の緊張で、冷えた躰はあっという間に熱くなっていった

しっとりと汗ばむくらいだけど、ここから移動するその先に悩んで動けない

必要最低限の物しかない宿屋の部屋は、卓が一つ、椅子二脚と寝台が一つ

もう一つの椅子に移動するのは不自然だ

だからって…寝台に座るのも…

絶対、できないわよ

あ~ん、なんで何も言ってこないの?

部屋の中を包み込む無言があまりに重苦しく、押し潰されてしまいそうだった

黙ってないで何とか言ってよ…

誰かにすがるような思いだ

あの人は私をここに座らせ、足早に離れて行くと、卓にあった水を飲み始めた

まじまじ見るのが躊躇われた

私は首を向けずに横目で、何度もチラッ、チラッと行動を覗き見ていた

これじゃ、怪しい人だわ…と、顔を曇らせた。こんな自分が情けない

それでも直視できずにいると

杯に注ぎ一気に飲み干したと思えば、立て続けに瓶を握り今度は直に飲みだした

余程勢いよく一気に流し込んだのか、ごほっ、ごほっと、苦しそうにむせた

くすっ。笑いが漏れでた

やだっ、おかしい

もしかして、すっごく緊張している?

いつも冷静なこの人の、見て分かるほどの不審な挙動から何となくそう思った

口から零れた水を袖口で拭って、急に押し黙ったあなた。今、何を思っている?

ウンスは心の中で問いかけた

いっその事はっきり聞くべき?と思うが、そうそう踏ん切りがつかない

今夜…どうするつもりか…その頭の中で考えている事が、気になって仕方ない

あっ、座った!!

チェヨンの動きに敏感に反応する

瓶の水を全て飲み干して、チェヨンは寝台へと足を向け、無造作に腰を下ろした

指を絡め両手を合わせ膝の上に置く

前かがみの視線で頭を少し擡げた

とにかく一挙一動が気になる。緊張でざわめく胸。奏でる音がうるさい程だった

目が合ったらどうしようと思うと、そちらを向けず、ウンスは顔を小さく歪めた

無意識にキュッと唇を噛みしめると、先程された口づけを思い出した

触れ合った唇の感触が湧き上がってきて、どこか居た堪れなくなった

誤魔化すよう、上下の唇を強く押し潰した

あんなキス…今までされた事ない…

さっきの、あのキスって…

きっと、そう言う意味だよね?

そんな風に思ったら、私、馬鹿みたいに期待しちゃうじゃない…いいよね?

期待しちゃ…駄目なのかな?

今夜じゃないの?

私の覚悟はとっくの昔に出来ている

むしろずっと、待って、待って、待って、待ちくたびれているくらいだ

あ~ん、本当に、最悪だわ

せっかくいい感じだったのに…

あのエロオヤジ達のせいで、これじゃ、まるで振りだしじゃない!!

ウンスは部屋の中を包み込んでいた、無言の重圧に押しつぶされそうだった


パチッ、パチッと赤い火の粉が舞い、弾ける音が妙に耳障りだった

相変らず体が熱い。持て余した熱が、じりじりと我が身を焦がすようだ

ハァと息を吐き、昂る己を落ち着かせようとするが、何の足しにもならない

イムジャと狭い部屋に二人

今度こそ、邪魔する者はもういない

そうなれば、突き上げるよう、押し迫ってくる、劣情はもう止めようがない

しかし沈黙が部屋の中を覆っている

煩いくらいのあの方が、黙りこんでいた

それを打ち破る第一声を、どう声をかけたらいいかも分からなくなってしまう

あの時また横道にそれてしまった

自分の行動を今更ながらに悔やむ

「俺がイムジャの躰を温めます」とでも、冗談混じりに言って…

俺は大人しく己の気持ちに従い、馬鹿な男に成り下がれば良かったんだ

寒い廊下で冷えた体をまず温めてやろうと、火の傍に座らせてしまった

両肩に手を置いて椅子に座らせた。白い項から、視線が動かせなくなった

途端に、先程まで交わしあった情欲が嘘のように、喉が激しく乾き、潤いを欲す

俺はこんなものを飲みたいわけではない

そう思いながらも、渋々水を手に取って煽り、目先のそれを誤魔化した

しかし一向に満たされやしない

唾液を交わし合うほど深かった。つい今しがたの口づけ。柔らかな感覚が過る

そしてその大きな眸を閉じれば、揺らめく長い睫が頬に影を作る

口付けを交わした時に目にした、この方の表情が瞼の奥に浮かんできた

あの時イムジャは確かに…俺の想いに応えて求めてくれた

そう思ったのは思い上がりだったか

イムジャは今、何を思っておる?

視線を向けるとそっぽを向き、火の粉を飛ぶのをじっと見つめているようだ

それは見ようによっては、頑なな態度にも思え、胸がチクンと痛んだ

婚姻もしておらぬのに…と、厄介者たちに、言い放った言葉が思い返される

イムジャが待てと言うのなら待つ

しかし、待たずともよいのならば、俺はもう一秒たりとも待ちたくないのだ

イムジャ俺はどうすればよい?

天界では…そしてイムジャの気持ちは…

困惑したように眉を寄せた顔。ウンスの表情が強張っている事が気がかりだ

無理を強いてしまっているのだろうか?

あぁ、俺としたことが、うじうじと情けない。これでは一進一退だ

優柔不断な己自身に腹が立つ

そう思った時不意に、男達から浴びた野次が、追い打ちのように思い返された

肌に指一本触れる事すら敵わぬというのに…何がだ。くそっ。冗談じゃない

考えてみたら、あいつらのせいだ

いつか街で出会ったら覚えておけ…イムジャを伴わねば、ただではおくものか

遣り切れない思いを怒りに変え、チェヨンは腹いせ交じりに、拳を強く握りしめた


「イムジャ、温まりましたか?」

いい加減こうしている訳にいかぬと、張りつめた沈黙を破ったのはチェヨンだった

イムジャを放っておいたら、いつまでたっても、仏像のように動かなそうだ

そう思い、腹をくくる事にした

「あっ…う…ん」

「そろそろ…」

そろそろ、夜も更けた

寝ようと、そう言いたかった

しかしどうにも、白々しく思え、言いかけたが口籠る。次の言葉を言えない

言葉に詰まって戸惑っていると、口の中いっぱいに生唾が充満する

それを、思わず飲みこんでしまった

「ごくり…」

明らかに不自然に強張った面持ちに加え、喉が露骨に音を立てる

馬鹿な。

これでは疾しい考えを、みすみす明かしているようなものではないか…

自分の分かり易すぎた行動に呆れ、チェヨンは心の中で頭を抱えこんだ

だが幸いウンスも、チェヨンの事を気にする余裕すら持ち合わせてなかった

目線を合わせずウンスは問いかけた

「その…寝台は一つよね…?」

自分のことで精一杯で、深くまでチェヨンの腹の底を探ろうとはしなかった

「えっ?それは…どういう」

驚いたように目を丸くしたチェヨンに

自分がおかしな質問をしたのだと気づき、一瞬にし頭がぼっと点火した

あ~、やだっ、恥ずかしい…!

私の馬鹿、馬鹿!!

私ったら、あり得ない…何を、意味深な事をいっているの?

「ほっ、ほら…どうやって…その…寝ようかなぁ…なんて」

なにか言い繕わないと…と思ったが

「えっ、あぁ…その事なら…」

言った矢先から、チェヨンがどういう男か、自分が誰よりも知っていた事を思い出し、ウンスは激しく後悔した

うわぁ、ドツボだ…

こんな聞き方をしちゃったら、真面目なこの人の事だから、きっと…

「俺は椅子で寝ます」

そう、言いかねないじゃない

なんて聞き方をしたのだと悔やむが、言ってしまったものは取り返しがつかない

そんなつもりじゃなかった!

せめて次の言葉を言わせる前に訂正しないと…とウンスは焦った

もう後先の事を考えず言葉にする

「一緒に寝よ」

「共に…」

二人は、ほぼ同時に声を揃え言葉にした

互いの声のあまりの大きさに驚いて、二人はこれでもかと目を丸くする

一息おいて、たった今言われた、その人の言葉を心のなかで繰り返した

「共に…」って…

嬉しい、とにかく、嬉しかった

嬉しすぎてじわりと涙がこみ上げてきた

勿論チェヨンも同じ気持ちだ

チェヨンがウンスを見つめ、ウンスがチェヨンを見つめ返す

暫く二人は微笑みを浮かべ見つめ合う

そして、少ししてから、喜びで胸が苦しくて、チェヨンは大きく咳払いをした

「うん…一緒に寝ましょ」

先に言葉にしたのはウンスだった

表情がぱっと華やいでいる

聞こえちゃわないかと思うくらい大きな音で、心臓が激しく鳴り響く

ウンスの明るくなった表情を見逃さず、内心ほっと肩を撫で下ろした

チェヨンは座ってた姿勢から、寝台に乗り上げると、隅に身を寄せて横たわった

寝台はくっつきでもすればいざ知らず、二人寝るのがやっとな大きさだ

一緒に寝るのに慣れてないわけじゃない

「イムジャ、ここに…」

ポンポンと空いた場所を叩くと

「うん…」

ウンスも、こくこくと、二度ほど頷く

そして、そろり、そろりと、不自然な動きで、そこに近づいて行った

もうウンスが高麗に戻り、何度も共寝はしたが、今宵はそれとは違う

とても冷静ではいられそうになかった



このままパロディに行ったら、皆さんに闇討ちされますか


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皆さんこんばんは

過去になんどか呟いたんですが、きっと忘れている方も多いと思うのでもう一度言いますね…

ふざけたタイトルでしょ

もうしばらく続きますが、最終的にはパロディになります。なんてったってぬくぬくですから



  お話

濡れた内側と内側が触れ合い、躰がもっと、もっと熱くなっていく

ずっと待ち望んでいたこの時を…

背に回された細い腕が嬉しかった

どくん、どくんと、心臓が飛び出るかと思うくらい、激しい音を立てて打ち鳴る

イムジャが俺を囲いこみ、俺がイムジャの頬を包み込んでいる

やっと一つになった想い

直ぐに居てもたってもいられなくなり、触れ合うだけの口づけは少しの時も耐え兼ね

深く貪るように注ぎ込めば、小さな柔らかな唇がそれに応えてくれる

この想いが一方的ではないのだという事が、嬉しくて、嬉しくて…

己が与え、己へ返される反応

全身の血が逆流したのではないかと思う程、激しい胸の高鳴りを覚えた

もう、俺は一人ではないのだという事が、改めて実感できたのだ


唇が重なりあなたと触れ合って、ただでさえ熱い躰がもっと熱くなる

ずっとあなたとこうしたかった

私の顔があなたの手の中に包み込まれ

トクトクトクトクと、煩いくらいに、胸が耳の側で鳴り響いているようで…

部屋に戻ってくるなり、ぶつけられた溢れんばかりのあなたの想い

私達はもう結ばれてもいいんだって

やきもきして悩んでいたのが、その瞬間頭の中からすべて吹き飛んで

あまりの勢いにびっくりしたけど、そんな余裕ないようなあなたの行動が

馬鹿な事を悶々と考えていたのが、私だけじゃないんだって思ったら

涙が出そうなほど嬉しかった

心臓が激しく音を鳴らし、胸がきゅぅと苦しくて、でもそれでいてドキドキして

この場所に…あなたの居る場所に帰ってこれたんだってやっと実感できた…


チェヨンはウンスの髪を耳の後ろから掻き上げるように抱え込むと

激しかった口づけがもっと激しくなり…

思わず後ろに身を反らせると、それを追いかけてまた包み込んだ

逃げては追われて捕えられ、再び逃げては直ぐにまた捕まってしまう…

ウンスは、息苦しくなり握った拳で、とんとんと胸元を叩いてそれを知らせた

しかし、チェヨンは一向に気づかない

今度は追いかける唇を避けるよう、顔を小さく左右に振るとやっと離してくれた

はぁ、はぁと、震える息を吸い吐きして、少し許された呼吸もまた直ぐに奪われた

何度も、何度も、そんな事を繰り返す

それは思わず「もう少し落ち着いて…ね?」と言いたくなるような勢いだった


***********


気づけば長い時間二人は、開いた戸の側で立ったままでいた

愛を交わし合う二人の間を邪魔をする者は、もう誰もいないと思ったはずが…

偶然今まで誰も通らなかっただけで、そこは宿に泊まる者ならだれでも通る廊下

湯上りの男達の目に留まってしまう

若い男女が公衆の面前で、激しく睦みあって居れば、男達の格好のネタになるだろう

「よぉ~!!何だ、何だ!お二人さん方、見せつけてくれるね~」

「姉ちゃん困っているじゃねーか」

「もっと優しくしてやらにゃ」

ひゅう~うと、口笛の音が聞こえ、男達の不躾なヤジが耳障りに飛び交った

野次を投げかけた相手を確認する前に、身を起こし俊敏に構えの姿勢を取る

チェヨンにとっては常套手段

ウンスが顔を上げるより先に、チェヨンが護らんとウンスの前に立ちはだかった

「なんだお前たちは」

視線を向けた先に映ってきたのは、体格のいいタチの悪そうな五人の男達だ

強く睨み付けて威嚇して見たものの、相手の表情からは特に敵意は感じず

単なる通りがかりの野次馬のようだ

少し安堵し、チェヨンが鬼の形相を崩したのを良い事に、男達は二人に絡み続ける

「その勢いだ。これからあれか?今夜は寝かさねぇぞ~ってか?」

「そりゃ、そうだろ。こんな別嬪さんに、男前の兄ちゃんだ。やるこた一つだろ」

「体もデカいから、そっちもさぞかしデカくて、姉ちゃんもよがっちまうだろうな」

卑猥な言葉を浴びせられ頭に血が上るが、チェヨンは冷静さを保とうと努めた

取るべき手を、頭の中で思案をした

今宵は忍びでこの宿屋に泊っておる故、民相手に無駄に身分を知られても面倒だ

相手にするまでもないならず者

ならばこの場は、下らない野次に乗って大事になるほうが得策でないと思った

五人程度どうってことはないが、仲間が他におる可能性もないとは言い切れない

何人おろうが負ける俺ではないが、イムジャの身の安全を第一に考えるべきだ

此奴らは運悪く居合わせただけで、敢えて関わる必要もない小者達

そう判断し、厄介事が自然に過ぎさるのを、奥歯をぐっと噛みしめ耐える事にした

ウンスはチェヨンの背に隠れ、両目だけ腕と体の間に出来た隙間から覗かせていたが

それに目をつけた一人の男が、態々その隙間を覗き込んで問いかけた

「姉ちゃんどうなんだ?やっぱり、こいつのそりゃ、好いのか?」

チェヨンが絡む男達を相手にせず押し黙っている事で、ウンスも自分がどう行動をすべきか悟っていた

後ろ手にした手で、私の手をぎゅっと握りしめ「心配するな、俺が護るから」と、思いが伝わってきた

男達から恥辱を掻き立てる言葉を浴びせられるたび、真っ赤になって唇を強く噛みしめてそれに耐えた

「姉ちゃん厭らしい顔してんな。この男で満足してないなら、どうだ?今晩、俺が相手になってやろうか?」

だけど、あぁ、もう、我慢が…

ギリギリのところで思いとどまっていたが

胸元を舐めまわすように、にやけた顔を向けられて、ひとっ跳びに頭に血が上る

いい加減、限界だわ!!

流石に腹が立ち過ぎて耐えかね、後の事を考えるより先に体が動いてしまった

今度はウンスが虚勢を張るよう、胸を突出しチェヨンの前に立ちはだかる

「イムジャ、なにを!!」

突然、手を振り切り、飛び出て来たウンスに、チェヨンは焦って叫びかけたが

時すでに遅く、ふんと顎を突出し、両手は腰にあてて、もう戦闘モードだ

しまった…イムジャを甘く見てた…

チェヨンは事なきを得る事に意識を向けすぎて、ここ暫くの間ウンスの気性をすっかり忘れていた自分を悔やむ

ひやっと嫌な汗が湧き上がった

「イムジャ、行きましょう」

ウンスの手首を掴んで、部屋の中に押し込めようとするが、それを払いのけると

「ふんっ。馬鹿にしないでよ」

荒いだ鼻息はもう止まる事を知らない

あんた達!!と、立てた人差し指を、男達の顔の前でちらつかせた

ぐるると喉を鳴らし敵を威嚇する動物のように、ウンスは上半身を左右に揺らす

「デカい?満足?冗談じゃない。私達婚儀もしてないんだから、そんなの知るわけないわ!!」

大きな声で怒鳴り、ハンッと、鼻の穴を膨らませて、男達を睨み付けた

男達はウンスの勢いと、言われた言葉に呆気に取られ、口をぽかんと大きく開いている者もいる始末

婚姻も結んでないから知らない

からかっていた相手が、至極まともな答えを返してくれば、絡み甲斐がない

男の一人がゴホンと大きく咳払いをする

我に返った男達は互いに顔を見合わせ、面白くねぇなあとぶつぶつ文句を言いながら

「怖えぇ、姉ちゃんだな…」

「あの男も、あんな気の強いのを嫁に貰ったら、苦労すりゃぁ」

口々に言って、ウンスを何度も振り返り眺めながら、その場を立ち去っていった

完全に去ったのを見届けてから、チェヨンはウンスの目の前に立ち顔を覗き込んだ

「イムジャ。大丈夫ですか?すまなかった…あそこまでしつこく絡むとは」

「大丈夫。あなたも?」

頷いたチェヨンの表情は曇り、何もしなかった自分を責めているようだった

「本当にアッタマにくる。いいのよ。あなた、大事にしたくなかったんでしょ?」

分かっていたから大丈夫よと微笑む

仔細を説明せずともウンスが理解をしていてくれた事に安堵の色が広がり…

チェヨンは「はい」と頷いてから、ふぅと一度息を吐いて、話を続けていった

「ここで下手に揉めては、かえって厄介な事になり、イムジャに迷惑をかけるかと」

ウンスも分かってたと何度か頷いてみせる

男たちがもし、イムジャに手を出そうとしてくれば、制裁を加えるつもりだった

だが護るべきものがあると行動も変わる

相手にせねばそのうち立ち去るだろうと思ったが、案外しつこく纏わりついてきた

もういい加減、堪忍袋の緒が切れる寸前、という所まで来ていたが…

あろう事か俺より先に、イムジャのが先にそれがプチンと切れた

はっ、そう考えると…

チェヨンは呆れた様子で「あり得ぬ…」と、小さく首を左右に振ってから

腹に手を当てくっくっと笑いだした

「なっ、なに??」

突然、声を立てて笑い出したチェヨンに、ウンスはきょとんと目を大きくした

「あなたという方は…」

俺が飛び出すより先に、風体の悪い男相手に食ってかかるとは…

女人のくせに度胸があり過ぎるだろう…と大きなため息を落とした

俺が側にいたから良いものの…そうでなければ、頼むからやめてくれ…

と、今後への懸念も過り、強く見つめる

嵐が去り気分を持ち直し、途端にチェヨンの胸の中に呆れと、笑いがこみあげてきた

心痛な表情を目に浮かべながらも、柔らかに口を引き微笑むと

「イムジャ。頼むからやめてくれ」

突然チェヨンから浴びせられた、それは一種の懇願ともつかぬ言いように

「えっ?何の事??」

ますます怪訝な顔になって、先程の武勇伝はすっかり他人事のような面をしていた

「心当たりはあるでしょ?」

チェヨンは叱責するよう、ウンスの目をじっと覗き込んで、その諸因を指摘すると…

「あっ…え?あはは…うん…だって、頭にきちゃって…つい…」

何を指摘されたか心当たりが有り過ぎて、ハハハと苦笑いを浮かべ誤魔化した

「ついではありません。言って素直に聞く男ばかりではない。頼むから…」

「でも…」

「でも?もしも、相手が手出しをしてきたら、どうしたのですか?」

「えっ?…どうしただろう」

やはりな答えがかえってきた…

普通の女であれば、俺が傍にいたから大丈夫だと思ったとそう言っただろう

しかし、この方は違うのだから厄介だ

「俺に護ってもらうつもりだったと言った方が、まだましです!」

チェヨンの強い口調に怯む

「ヨンァ…」

「イムジャが腹に据えかね、やり返して欲しいと言うのであれば俺がそうします」

「……」

「イムジャ。あなたは、もう一人ではない。だから俺も…」

何が言いたいかすぐに分かった。あなたは、私のために耐えたのよね…

それは痛い程わかっていたのに、あぁ、私ったらやっちゃった

「ヨンァ…」

漆黒の眸が真っ直ぐに私を見つめる

「分かったのですか?返事は?」

ウンスはチェヨンを一度見上げた後、しゅんとなって小さく俯いて

「はい。ごめんない…」と素直に謝った

チェヨンが本気で怒っているわけではなく、心配している故だと、手に取るほど伝わってきたからだ

女だてらに頼もしすぎるのも玉に傷だが、心のほんの片隅でそんなウンスを誇らしく思える自分もいた

チェヨンは半ば諦め交じりに、まるで自分の肩を叩き自身を慰めるよう、ウンスの肩をぽんぽんと叩いた

「中に入りましょう」

今度は、落ち込むウンスの背から腰へと腕を回して、部屋の中へと促していった

ウンスはぶるるっと一度身震いする

湯上りと諸々で熱かった体が、すっかり冷めてしまって、体に寒気が走った

それに気づいたチェヨンは、ウンスの手を引いて部屋の中に入ると

ウンスを立たせたまま、椅子を囲炉裏の傍に持っていって、ウンスの元に戻る

また手を引いてその椅子に導いた


 

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「ウンスの取り扱い説明書」

ぬくぬくへの道 目次
※連載ものです、順番にお読みください

0.ぬくぬくへの道(序章編)
1.ぬくぬくへの道1
2.ぬくぬくへの道2
3.ぬくぬくへの道3
4.ぬくぬくへの道4

また小声で言います。私がブログを始めたのは9/27。序章を書いたのは10/3です…

平謝り &土下座

=========  


  お話

薄い板一枚で隔てられていた二人

扉を開けるため手をかけ落としていた視線、開いたと同時に顔を上げ前に向けると

「あっ…」
「イムジャ…」

同時にその場に居合わせした、イムジャの姿が目に飛び込んできた

二人の口から驚きの声が上がる

どくりと大きく胸が鼓動する

覚悟なく目に映り込んできた、部屋で一人焦れ求めたウンスの、艶やかな様相

湯上りの上気した肌に、上品な淡い薄紫の地の、見慣れぬ衣を身に纏っていた

濡れた髪が艶めかしく映る

ひたと絡み合う二人の視線

キチョルの魔の手から逃れるため、天門へと手を取り合い向かったあの日のように…

二つの磁極が強く吸い寄せられるよう、顔を動かせないまま、二人の動きが止まる

まず先に、ウンスを目にした途端、息をつく事が出来ず、チェヨンの動きが止まる

それにつられウンスも動けなくなった

互いに眸と眸を合わせたまま、まるで時間が止まったようにその場に立ち尽くした

秒針の音が聞こえてくるようだ

もう湯をあびてからだいぶ経つと言うのに、体がぽっぽと火照ってくる

チェヨンはごくりと喉を鳴らす

ウンスの視線が大きく動いた喉仏に向く

この人も自分と同じように、とっても緊張をしているのだと思ったら…

かえって緊張が大きくなり、胸の音がますます大きくなっていく

止まってしまっていた呼吸に胸が苦しくなり、小さな音を立て空気を吸い込んだ

暫くすると、口の中に充満した唾を飲みこんで、ウンスが先に時を刻み始めた

「ごめんね。待った?」

ウンスから浴びせられた言葉に、我に返ったチェヨンは、自分がウンスの姿に釘付けになっていた事を知る

凍りついたように硬直させていた、肩をふっと息を吐いて落とすと…

「いえ…」

あれ程、胸焼けしたかと思うくらい、悶々とした時を一人部屋で過ごし

待って、待って、待って…

しかし辛抱の限界まで待ったとは言えずに、思わずついて出た言葉がそれだった

「中に入りましょう」

廊下との間切りを境に、廊下にはウンスが、部屋の中にはチェヨンが居た

「うん」

頷き中にウンスが入ろうとした時

胸にぎゅうと抱え込んだ衣の合間から、何かがポロリと落ちて転がった

落ちたのは小さな髪飾りだ

それは、チェヨンとウンスが再会した折り、市で共に買い求めた物だった

その時の光景が思い浮かんだ

好きな物を選ばせてやりたかった

ウンスは至極真剣な面持ちで、あ~でもない、こ~でもないと呟きながら…

手にとってはうーんと悩んで戻し、また手にとっては悩んで戻す

時折、気に入ったものを、赤い髪に宛がうと「どう?」と微笑みかけた

何を見ても愛しく思えるのだから

「似合います…」

と俺は言うより他なく素直に口にした

しかし、それがどうも、イムジャにとっては気に入らなかったようだ

終いには「今日は、もういいわ…また今度にする」と言い出す始末だった

長い間それすら叶わなかった事だ

イムジャのためというより、むしろ俺がイムジャに買ってやりたかった

横目でチラリと顔色をみると、小さく口許が尖っているのに目がいく

何故か少し不満げな顔だ

「似合うと」本心を語ったのが不服とは、女心とはよく分からぬと思いながら…

選ぶことが出来ぬなら幾つか求め、後で気に入ったものを着ければいいと思った

店の主に視線を向けて言った

「ここにあるのを全部貰おう」

ウンスが悩んでいたであろう、数個の髪飾りを買い求めようとした所、慌ててウンスが店主とチェヨンの間に入る

首をぶんぶんと横に振り

「やだ。そんなにいらないわ。アジュッシ。今のキャンセルで」
「きゃんせる…?ですか」

店主はもちろん意味が分からない

「あぁ、ごめんなさい。キャンセルは、つまり、無しって事。また来ます」

思わず出た天界語を、ウンスはいつものように慣れた様子で訂正した

「ヨンァ、ほら、行くわよ」

後ろ髪を引かれる俺の袖をつんと引き、イムジャはその場から立ち去ろうとした

引き摺られるように連れていかれ、数歩、歩いた所で俺は立ち止まって言った

「イムジャ。なに故…要らぬと…」

困惑するチェヨンを見上げウンスは思う

あなたが似合うって思ってくれる、私はそんな髪飾りが欲しかったのに…

口を開ければ、どれもこれも全部「似合います」ばかりじゃ埒が明かないじゃない

私は別に髪飾りが欲しい訳ではない

あなたが可愛いって思ってくれる、そんな髪飾りが欲しかっただけだ

だったら無理に買う必要もない

「いいの」と、首を小さく振ると、口をきゅっと一文字に引いて、怪訝な顔をしているチェヨンに、にっこり微笑んだ

少し寂しそうに伏し目がちに微笑んだ、ウンスの表情を見逃さなかった

「いいのよ本当に。行きましょ」

「しかし…せっかく…」

「ヨンァ」

「だが…」

踏ん切りがつかぬのはむしろ俺の方だ

何度か押し問答をした後、そんな俺の心の内を知ってか知らずか

「じゃぁ、あなたが選んできて」

ウンスは閃いたように言った

「え…?」

「あなたが、一番私に似合うって思ったものを選んできて。ね?」

にっこりと笑みを浮かべて言う

「俺…が…ですか?」

言葉に詰まったチェヨンに、ウンスはうんと、首を大きく上下させる

まあるく開いた目がキラキラと輝き、期待に満ち溢れているようだ

あぁ、そういうことか…

先程の不満顔の訳にやっと気づいた

チェヨンから、くすっと笑いが漏れる

「しばしお待ちください」

そう言って店へと向き直る

ウンスの目の前で、高麗の長い藍色の衣の裾がふわりと膨らむ

そしてチェヨンは颯爽と脚を大きく開いて、元居た店へと戻っていった

あっ、そうだ!言っておかないと…

「一つよ!一つだけだからね!」

口の両端に手のひらの淵を当て、ウンスはチェヨンに念を押した

その声に答えるように後ろに小首を回し、柔らかに微笑みを返した

しかし…それから先が長かった

ウンスはチェヨンの性格だと、さっさと決めて、すぐに戻ってくると思ったのだ

即断即決と思われたその男の、予想外の行動にウンスは驚かされた

そして、散々悩みぬいてチェヨンが選んだのは、透き通るように白い木蓮が描かれた髪留めだった

これは、あなたの心がこもった、私にとって何よりも大切な髪飾り

ウンスは手元から零れ落ちた、髪飾りを拾おうとしゃがんで手を伸ばした

チェヨンもウンスとほぼ同時に、それを拾ってやろうと身を屈めた

一足先にウンスがそれを拾い手に取り、立ち上がろうとした瞬間…

目の前にチェヨンの顔があった

動き出した時が再び止まる

しかし、今度はウンスより早く、チェヨンが止まった時間を再び大きく動かす

ウンスの肩を両手で掴み、身を起こさせると、戸口の壁へとその身を押しつけた

驚いてウンスは手に持った衣の束と、髪飾りを床に落としてしまった

落ちた物を拾う事も出来ないまま、両頬が大きな手の平の中に包み込まれる

行く当てを失ったウンスの両手が、戸惑いがちに宙を何度か行き来したが…

一呼吸おいた後、ウンスはチェヨンの背へ、ゆっくりゆっくりとその手を回した

唇と唇が触れ合う

あの日のように…この想いを断ち切らねばと、視線を外す必要はない

二人を阻むものはもう何もなかった

 

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こんばんは

疚しさ全開、超小声で言いますね…

2014年12月に書いた、お話の完結のお話です…本当に、済みません…

最初から読み直して頂けれれば幸いです

夜に鳴くヒナ鳥1
夜に鳴くヒナ鳥2


  お話

ヨンァったら…恥ずかしいじゃない…

胸を擽るむず痒いような想いに、ウンスは少しの間酔いしれていた

「もう…あなたったら…帰ってるなら、起こしてくれれば良かったのに…」

ウンスは恥ずかしさを誤魔化すため、眉間に皺を寄せ、少し困った顔をして見せた

もう信じられない…

恥ずかしいったらありゃしない

自分が知らぬ寝ている間に、この人に見つめられていたと思うと…

とっても照れくさかった

嫌んなっちゃうわ…

照れ隠しに態と、困り顔を作り微笑む

そうしながら、辺りに視線を送る

うとうと眠ってしまった夕方にはまだ明るかった部屋の中が、すっかりと灯を落としている事に気づいた

この時代の夜は本当に暗い

外の街頭もなければ、勿論部屋の中に電気なんてなく、人工的な光は一切ない

ウンスは窓の色に目を向けた

それでも、星や月が出ている夜は、真っ暗ではなく部屋は、ぼんやりと薄ぼける

今夜はきっと天は綺麗なんだろうと思う

現代に居た時は、月が明るいなんて、特段意識したこともなかったが…

自然と共存しているような、この時代にいると月の明るさが身に染みる

この時代だからこそ知る事が出来る、自然の有り難味の多くを私は知った

昔の人が天の惑星たちに特別な思いを寄せるのも分からなくはないと思うのだ

窓もとに向けた意識を部屋の中に戻すと

「暗いわね。今灯りをつけるわね」

ウンスは部屋の隅に歩いていき、消えた灯篭に火を灯すと、部屋がぽっと明るくなる

よしっ、これでいいわと頷く

チェヨンは後ろ姿を見ながら思っていた

あどけなく眠るイムジャの唇に魅せられて、起こす事すらすっかり忘れてしまったなど、俺にどうして言えようか

ウンスは寝ぼけ眼を手の甲でごしごし擦り、両手で頬をぱんぱんと二度ほど叩いた

いつ間に寝ちゃったんだろう

小一時間うたた寝をした事で、怠かった体もだいぶ楽になっているようだ

ぐっぐっと両肩に手を宛がい、それぞれに重みをかけ肩をならすと

ん~と鼻から抜けるような声を出し、両腕を天井へと大きく伸ばして体を伸ばした

そうしているうちに、ウンスの起き抜けの頭も、大分はっきりとしてきた

よしっ、起きよう!
と、自分に気合を入れる

ふと、後ろのチェヨンの事が気になり、様子を窺おうと振り返ったら…

「あらっ」と小さく声をあげ、ウンスはその姿に視線を釘づけられた

夫チェヨンは相変らず無言で俯き、その位置から微動だにしていない

気取られた事が気まずいのか、その表情はどこかふて腐れた様子だった

見れば見るほど何だかおかしくて、思わずプッと吹き出しそうになった

あはは、おかしい

下唇をギュっと噛みしめ、一向にこちらを向こうとしない男がいる

頑なな態度の夫の姿があった

しかし、なんだか無性に愛しく思える

愛しさ余って、つい苛めてみたくなった

恥ずかしい思いをさせられたお返しとばかりに、ちょっとからかってみようかなと、ウンスの悪戯心を擽った

「ねぇ、ヨンァ。見てたんでしょ?」

からかう様に下から覗きこむと、ウンスからさらに首を背けて視線を逃す

「知らぬ…」

増々ムッスリふて腐れていく

「ふふっ、見てたのね?」

揺らいだ視線がそうだと物語っている

「知らぬと…」

言っただろう。と次の言葉を聞く前に

「見てたんでしょ??」

小首を傾げて、逃げた視線を捕まえた

「……し…らぬ…」

羞恥の念でウンスの言及から逃げ纏うチェヨンの顔を、右へ、左へ、さらには上へ下へと、くるくると追いかけた

「ねっ?」
「ヨンァ~!」
「んんっ?」
「教えてよー」

言葉をかけながら、ウンスは主人にじゃれる子犬のように、悪戯に追い立てる

動かす小さな体と共に髪が揺れる

ウンスが体を上下左右に振る度、柔らかな髪から心地良い香が鼻先を掠めていった

はじめはウンスの動きを避けていたチェヨンだったが、意識が違う所に向き始めるとそちらばかり気にかかる

最後は、もうどうでも良くなってきた

「ねぇってば~」

相変らずしつこく追い立て続けてた、ウンスの頬を両手で挟み動きを制止させた

「ひょっとぉ、らにすんのお~」

素っ頓狂な声で潰れた顔が可笑しかった

もっと、強く両頬を内側へと押し潰すと、さらにウンスの顔が拉げる

「あはは…イムジャ。なんて酷い顔だ」

ぷるんとした唇は姿を変え、上下に尖ってまるで鳥の嘴のようだった

それは、チェヨンの興味をそそった

試しに…やってみようと…

力を入れ押し込み緩めるを繰り返してみると、嘴のように小さく上下する

おっ、見事に上手く動いたぞ…

顔を潰され間の抜けたウンスの顔が、あまりに面白すぎて見るに耐えない

思い描いたままに、嘴が上下に動いた事に気をよくし、肩を震わせて笑う

「イムジャ。試しに鳴いてみてください」

チェヨンは悪戯っ子のように眸を輝かせ、ウンスの目を覗き込んだ

「らんのころよぉ、はらしてよぉ~」

試しに鳴けと突然言われ、ウンスは意味が分からず、困った顔をしてそれに答えた

唇は相変わらず尖ったままだ

ぷるると艶めいて誘い、チェヨンはその姿勢のままで、唇を重ね合わせた

「はらひてよぉ~」

離せと情けない声で訴えても、尖ったままの唇を、親鳥のように啄んでいく

愛おしんで、愛おしんで…

ゆっくり何度も、唇を挟み込んでは、顔を少し離し、そこを見ては、くすくすと笑う

完全にウンスの顔で遊んでいた

「ひろいじゃらい~(酷いじゃない)」

自分の顔で遊ばれてムスッとする

「イムジャ、そのように、ぷうとふて腐れては、もっと唇が尖ります」

堪えきれずチェヨンは両手を離し、右の手の甲を口許に当てて笑い出した

今にも転げまわりそうな勢いだった

大笑いをされて、むかっとする

仕返ししてやる!!と思った

「そんな笑うなら、私も!!!」

ウンスは今度はリベンジタイムよと、チェヨンの顔をめざし飛び掛かった

「あなただって、そんな風にしたら、美形台無しのおかしな顔になるのよ」

しかし、力の差は歴然だった

あっと言う間に手首を掴まれ、そしていとも簡単に体が回された

気づけばウンスの背は寝台に添ってた

「力技なんてずるい!!」

ふんと、口を大きく膨らませて、見下げたチェヨンを睨み付ける

「イムジャ…疲れてますか?」

先程、ミンスから聞いた言葉が、耳の奥にしっかり残っていた

無理をさせたくないと思う気持ちと、もう止められないという気持ちが錯綜する

許しを乞うように深く見つめる

急に映す色を変え始めた、我が夫の表情にトクンと胸が高鳴る

さっきまで人の顔で遊んでいたくせに、と思う不満げな気持ちも無くはないが…

その目には抗えないのよ…とウンスは思う

熱を持った視線にウンスは、小さく「うんうん大丈夫よ」と微笑んで表情で答えた

だが、そう答えるのは分かっていた

この状況で、否と言う方でない事も

チェヨンは少しの間押し黙り、なにか思いを巡らせると体を起こしたのだ

「えっ、どうしたの?」

ウンスは驚いて目を大きくし、突然止め急に起き上がった夫き問いかけた

「風呂の準備をしてまいります」

「えっ??」

「しばしお待ちくだされ」

そう言い残すと、チェヨンはウンスの答えも聞かず、部屋から出て行ってしまった

そして、少しして戻ったチェヨンは満足そうに微笑み、ウンスを抱き上げると…

「参りましょう」

再び熱の籠った視線でウンスを見下ろして、口の両端を上げもう一度微笑んだ

「もう…あなたったら…」

何を意味するのか分からない私ではない

私が疲れていると言うのを、この人はきっと気にかけてくれているんだ

そんな優しさが胸を締め付ける

ちりちりと燻った心の中の灯

私だって、お留守番寂しかったのよ…だからあなたを起きて待ってたかった

ウンスもそれに応えるように、チェヨンの大きな胸元に顔を寄せ

すうと息を吸って、数日ぶりのチェヨンの香りを胸いっぱい吸い込んだ

 

  翌朝の事

「奥様、昨晩は大変失礼いたしました」

今日も遅くなるだろうと言い残して、あの人は朝早く出て行ってしまった

仕事とは違った疲れに全身がだるい

結局こうなるんだから、体力勝負なのよと、ウンスは顔をくしゅりとさせた

よくよく考えてみたら、昨日のお昼から何も食べていなかった

朝餉を取るため廊下に出ていく

すると、下働きのミンスが慌てて駆け寄ってきて言ったのだった

「えっ、なんの事??」

「奥様…その…昨夜、湯がだいぶ温かったのではなかったですか?」

「えっ?お風呂?」

「えぇ…新しく奉公に入った者がまだ慣れず、薪が切れてしまっていて…その事は、旦那様にはお伝えしたんですが」

「えっ?ヨンァに?」

「はい。旦那様に、その旨をお伝えしたら、俺が温めるので気にするなと…」

「はっ…えっ??なにそれ、どういう?」

ウンスもチェヨンの言葉の意味が分からず、ミンスと一緒に首をかしげたが

「しかし、薪も足りない状況で、どのように、温められたのかと…」

遠まわしに窺うようチロリと見上げた

次の言葉で、その意味を悟ってしまった

「…………」

「奥様?どうされましたか?」

急に無言になったウンスを怪訝に思い、ミンスはウンスの顔を下から覗き込んだ

「あはは、やだ。ミンスさんったら、別にどうもしないわ。あっ、ほら低温反復浴って冷え性にいいのよ」

「えっ??」

「あっ、えっと、低い温度のお風呂って何かといいっていうか、つまりはノープロブレムよ。ドントウォーリーって事」

「はぁ…」

疾しい時に天界語が出る癖は抜けない

心なしかミンスの疑いの眼差しが、じっとりと突き刺さるように感じる

ミンスさん…さっき、あの視線?まっ、まさかね、気づいているなんて事…

ミンスは思ったのだった

「坊ちゃまの、あのような表情を、拝顔出来るとは…長生きはするものだ」

ウンスは上下の唇をぎゅっと噛みしめ、頭の中でチェヨンの顔を思い描いた

もう、あの馬鹿…最悪だわ

昨日から何かと赤面しっぱなしじゃない

私の体面も少しは考えてよ…

と、脚の先から頭のてっぺんまで、真っ赤にしたウンスさんなのだった

(完結)


 
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  お話


ふと部屋の隅に視線を送ると、窓の外からは薄明かりが差し込めてきていた

もう、そんな時間か

薄目で部屋の隅から隅を一度見渡すと、横向けた顔をチュンソクへと戻し

「もう、寝るか?」

無意味に手に持っていた杯を、とんっと卓の上に置き立ち上がった

夜通し飲み続け少し体が怠い

しかし、それが大して気にならぬほど、もうずっと気が高ぶっている

「そろそろ、いくぞ」

寝るのが趣味と思われているチェヨンだったが、それも時と場合による

一日や二日寝ずとも、どうともない

この場を閉めるため、付き合ってくれた友に、寝ようと声をかけておきながら

内心寝るつもりはなかった

眠気で少し頭が鈍い位のほうが、平常心を保ちやすいのではないかとすら思う

それ程、全身の血が沸き立つような、抑えきれない高ぶりを感じていた

身を翻し戸口へと足を向けた時、チュンソクに呼び止められた

「大護軍、お待ちを!」

立ち去ろうとしたチェヨンを、慌てた様子で背に声を投げかけ引き止める

「んっ?」と喉元から声を出し振り返った

「大護軍これからが正念場です」

その顔はまるで戦の戦況を報告する時のような、至極真剣な面持ちだった

丸く目を見開いた顔が妙におかしかった

何を言いたいのか直ぐに気づいたが、ここは敢えて知らぬ素振りをして見せた

「何の事だ?」

「イッ、イイェェ?」

ご自分から申し出された事なのだが…と、チュンソクは裏返ったような声を出した

「その…指南は…」

反応を窺うように言葉を漏らした

「もう夜が明けるのも近い。お前も少しは寝たほうがよかろう」

それに答えて、踵を返そうとしたチェヨンに、チュンソクは硬い口調で言い返した

「いえ。寝ずに参ります。俺にどうかやらせてください」

チェヨンは再び後ろを振り向き、その顔を見つめ、チュンソクの表情から察す

こいつなりに考えた、俺への贐(はなむけ)の心づもりなのだろう

ならばそれに応えるべきだ

自分から求めた事を棚に上げ、手短にしてくれ…と鼻先で笑い再び腰を下ろした


*********


チェヨンが腹を括ったのを確認すると、執務台にあった筆と紙、硯を持って戻る

「まずはこれをご覧ください」

手早く墨を擦り手に取った筆にたっぷりと含ませると、つらつら筆を動かしていく

チュンソクは真っ白い紙の上に、大きな二つの文字を描いたのだった

書かれていたのは次の二文字だ

「余裕」

チェヨンは眉間に皺を寄せた

「何だそれは?」

意味が分からず小首を傾げながら問いかけ、さらに怪訝な顔で顔を曇らせた

チュンソクは息を飲み姿勢を正す

「僭越ながら、これからこの極意を…大護軍に、伝授させて頂きます」

極意??どうにも嫌な予感が過って、チェヨンは苦笑いを浮かべた

只ならぬ様子に逆に胡散臭さを感じる

「では…」

苦笑いを黙認と捉え、再び改まった様子で唾を飲み、ゴホンと大きく咳払いをする

チェヨンもつられ思わず息を飲んだ

チュンソクの大きな声が響き渡る

「えー。一に余裕、二に余裕。三四も余裕で、五に余裕です」

「……はっ?」

呆れなのか呆気にとられたか口が開く

声の主を見上げてみれば、どうだと言わんばかりの顔をしていた

どうやら本気で言っているようだ

「何だそれは?」

若干、面倒だと思いながらも、どう答えが来るのかも多少興味があった

それに対しチュンソクは

この年まで女も知らぬこの方には、きっと分かるまいと、腹の中で笑っていた

少々鼻を高くしニヤけそうになるが…それを気取られてはまずいと慌て改める

どんと卓の上に手をつき、己が悟りを伝授する師の心境で、チュンソクは告げた

「つまりは、急いては事を仕損じると言う事です」

「………」

チェヨンは言葉に詰まった

ハァ…と大きくため息を吐きたい気分だ

湧き上る呆れを腹の中まで飲みこんだ

俺はその瞬間知る事となった

つまりは…此奴は仕損じたのだ…

どうやら俺は、聞いた相手を間違えたようだと、師を見誤った愚かな自分を笑った

笑いを必死に堪えながら

「良く意味が…分からぬが?」

ここは一つ話を合わせるのも一興だと、悪戯心も生まれ、乗った素振りをして見せる

至って真面目なこの男への同情もあった

「いずれ理解される事でしょう…俺のこの極意を胸に刻み付けておいてください」

大層な悟りを開いた境地だった

チェヨンの頬がぴくりと痙攣する

「で?どうすれば良い?」

「余裕を持つには、予めその…何と言いましたでしょうか…その…えっと」

チュンソクは言いかけて、顎の髭に指先をあてると、思い出さんと天井を見上げた

暫く考え抜いて手を叩き、やっと思い出したその言葉を、閃いたと口に出した

「そうだ、ちゅみれーちょんです。そう、ちゅみれーちょんが重要です」

以前イムジャが言ってた天界の言葉

どうやら、天から大層有り難い教えが、我が師チュンソクの上に振ってきたようだ

確か…その意は…

ある現象を模擬的に現出することだ

それを事前に反復すると…

だがしかし、本当に『ちゅみれーちょん』、そんな言葉だったか?と思いつつも

そこには触れないで見逃した

天界の言葉の真偽を、今ここで議論しても、無駄な時間だと思ったからだ

チュンソクは話を続けていく

「念入りに、ちゅみれーちょんを。さすれば、余裕も出ましょう」

それが、『ちゅみれーちょん』であるかどうかは、さておいても…

事前に予測し模倣するのは悪くない

此奴がいう事も、一理あると思う気持ちもあり、素直に従って話の続きを聞いた

「で?どうやってそれを?」

「では、次は具体的に…」

チュンソクの言葉に頷いた

「大護軍。おなごの好い場所を覚えてください。しばしお待ちを…確か…この辺に」

そう言うと、先ほど持ってきた例の本を、指先をぺろりと舐めてから頁を捲りだした

そして、何頁か捲る指を進めていくと、目的のものを見つけ手を止めた

「あっ、ここです」

チュンソクは、その頁を此処ですと、指で叩いてチェヨンに見せた

首を動かさず、視線だけ向けてみると、女人の全身が描かれたものだった

「良いですか?今から俺が話す事を、よく覚えてください」

一度チュンソクは、本の上を滑らす様に指先でつらつらとなぞってから

今度は指さし確認を念入りにする

独り言をぶつぶつと呟き、何度か自分でも確認してから、よしっとチェヨンを向いた

横目で見ると、ちらりちらりとチュンソクの視線が動くのが目に映り

それに合わせて視線を送ると、女人図の各部位に、番号が振られていた

ぶっ、と吹き出しそうになる

く…ならぬ…腹が…よじれちまう

「まずは、一に、口づけをしてください。それは…経験がおありでしたね」

口づけどころじゃないと思った

チェヨンは吹き出しそうになった己の唇を、ぎゅっと閉めて耐える

そんな気も知らずにチュンソクは、今度は二について力説していった

「そして二を取るのは、目安としては女人の力が抜けて来た頃を見計らい…」

ごくりと大きく生唾を飲みこんだ

しかし、勿論飲みこんだのは、チェヨンではなく、チュンソクの方だった

「二は此処を。女人を耳の付近です」

図でその場所を指でまた叩いて示す

その姿は教鞭を取り黒板を叩く教師だ

一の次は二だと?く…ならぬ…

笑いを耐えるのも容易じゃない

チェヨンは歯茎を食いしばった

「御耳へと…己が息をかけてやりながら…その付近を、こう舌で…」

チュンソクは尖らせた舌先を、唇の合間からにゅるりと差し出した

「ブッ」

「どうしましたか?」

もう駄目だこれ以上は我慢ならぬ…ついに吹き出してしまった

「そこまでは聞いておらん。そんなの、どうとでも…」

しかし、甘い事を考えている若輩者に、チュンソクは食いかかった

「大護軍!!なりません。本番は頭に血が上り、思うように行かぬもの」

そんな不勤勉なチェヨンを叱咤する

俺はその瞬間知る事となった

此奴は思うように行かなかったのだ…

目に映る男の背に哀愁すら見えるようだ

「甘く考えてはなりません!」

御前に言われたくないと失笑する

そんなチェヨンの気も知る由もなく、それを一喝するとチュンソクは続けた

「で…?なんだ?」

どうやらすっかりと舞い上がっていき、高みに上り詰めた様子のチュンソクに

チェヨンは、床に這い笑い転げたくなるのを、卓の下で拳を握り必死に耐えた

「ここからが肝心です。女人から悩ましげな声が出てきたことろ見計らって…次は御胸へと…手を」

俺はいい加減此奴に、問いかけねばなるまい…というより、早めに知った方が俺のためでもあるだろう

「チュンソク。ちなみに聞くが、まさか、いつもそんなか?」

遠回しに歯に衣を着せ窺った

しかしその言葉の意味を、チュンソクは都合よいほうに解釈をした

「はっ。何事も、手抜かりがあってはなりませんので」

副将として『何事』も着実に進める

しかし着実というのは時として、周りから見れば先が読めるという事

敵に次の手を読まれる事に他ならぬ

それが男と女の睦事に例えるとすれば、面白みにかけるわけだ

つまりは、想定内だという事を、今だ我が副将殿は学習してないようだ

残念ながら目の前の男の高い鼻を見て、俺は妙に納得をしてしまった

「で?どうする?」

こうとなったら、この高麗随一の、最高の喜劇を楽しむとしよう

婚儀の前座にはもってこいだと思う

「次に三です」

一が唇、二が耳だ。では、次の三はどこだ??違った意味で期待が高まる

「三を教えてくれ」

従順な弟子の振りをして問うと

「三は御胸を…こう、女人の御胸へと、手を宛がいまして…」

途中まで言いかけて、ほんの少しの間を空けた後、ごくりと喉を鳴らして

「こう、手のひらで弄り…」

チュンソクはくるくると回して見せた

しかし、ここから先が、チェヨンにとっても”想定外”の出来事だった

「んっ?医仙殿は、このくらいか?いや、このくらいだったか…」

チュンソクは手のひらをきゅっと小さくして見たり、大きく指を開いてみたり…

リアルに手のひらで形取り、ちゅみれーちょんをし出したのだ

目の前の師の姿に唖然とすると同時に、一気に頭のてっぺんまで血が上った

「おい。今、想像したろ?」

ぼそりと低い声が部屋に響き渡った

「えっ?」

「イムジャを妄想したな?」

チェヨンは卓の下で対峙していたチュンソクの脛を思いきり蹴り上げた

「はっ?あ…イテッ!!なっ、なにをなさるんですか!!」

「あーもう、こんな下らん事は、止めだ、止め。もう、行くぞ」

チュンソクへと唾を飛ばすと、チェヨンは立ち上がって、部屋の出口へと向かう

「大護軍!!なりません!!まだ、御胸の先が!!此処からが肝心で、あぁ、あぁ、お待ちください」

何歩か進んだ後、一度すくと立ち止まる

それは、チェヨンは駄目押しで、と、ある事を確認すべく歩を止めたのだ

後ろを振り返り問いかける

「念のため聞くが…まさか、今も、あの順番を厳守しておるのか?」

「当たり前です!!」

「……一点の抜けもなく?」

「完璧です」

「そうか…そうなりゃ、お前の事だ…事の始めには、膝を付け合せ、手合せの礼など…」

半分皮肉のつもりだったが

「もちろん抜かりありません」

やっぱりな答えが戻ってきた

「……俺が間違えていたようだ」

それは確信へと変わった

「大護軍?ちょっ、どこに、まだ話は終わっておりません!!」

くるりと踵を返し再び戸口へと…

「まだ、其の四以降を…」

「もう、十分だ。いい反面の師となった。チュンソク、助かった…」

「大護軍!!反面の師とは、一体何の事ですか!お待ちください」

必死に止めようとするチュンソクの手を振り切ると、その場から逃げるようにチェヨンは立ち去った

「これからが肝なのだが…」

チュンソクの悲しいぼやきが零れた

こうしてチェヨンは、チュンソクが身を以て学習した「チュンソクの指南」を身に染みて知る事となった

そのおかげで過ちを犯す事なく、ウンスとの晴れの日を迎える事ができたとさ

それはまた別のお話で~♪

 

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