本日のテーマ写真:
ウンスの取り扱い説明書(ぬくぬくへの道1)





◆ウンスの取り扱い方法その2


イムジャは「ぬくぬく」に弱い
しかし、イムジャは現金なところが玉に傷なのだ。きっと寒さに弱いイムジャは、うかつに”他の熱”を与えると目先の熱にすぐ惑わされてしまうだろう

「下手に他の熱を与えないよう留意する」 これは、食欲を満たすことの次に重要な要件である

臣チェ・ヨン。これを王命と同様に死守せねばならぬのだ


チェヨンの家は高麗きっての名家。チェヨンの父である崔元直はとても実直な人であった

幼い頃から活力に満ち溢れ威厳があったと後世に語り継がれるチェヨンの人柄も、そんな父から受け継いだ物も大きかったのかもしれない

しかしチェ家には「黄金を石ころのように思う人間となれ」という遺言はあるものの「冬の寒さを耐え忍べ」という家訓はどうやら存在していなかったようだ

名家なりに不自由ない程度の暖房器具はもちろん備えられており、チェヨンが当主になったその時も勿論そのまま受け継がれていた

しかし何故だろうか…
チェヨンの妻ウンスは寒さを抱えながら、日々チェヨンの帰りを心待ちにしているらしい

一つを捨てていくつもの利を得る
高麗の重鎮と言われた、名将 崔瑩(チェヨン)の類まれなる知略がそこにあったのだった


ある冬の日

その日、チョナに2日間の休暇を申し出、チェヨンはウンスとそこに向かっていた

婚姻前にどうしても…ウンスと共に訪れておきたかった場所があった
馬をチュンソクに用意させ、共に山道をすすんでいく

今は亡きチェヨンの父 崔元直と母が眠るその墓前に…
17年ぶりにチェヨンは足を運んでいたのだった

再会後は帰郷の手筈を整えるため、大軍を率いる大護軍であるチェヨンは慌ただしい日々を送っていた

チェヨンとウンスにとってそれは2人きりの旅路であり、久しぶりの2人きりの時間を穏やかに心地よく過ごしていた

その旅路を行く二人の心は、澄んだ青空のように誇らしげで、そして晴れ晴れとしていた

馬で半日から1日かかるその道中。それぞれの思いを胸に1歩また1歩と歩を進める

父はチェヨンが16歳の時に遺言を残し他界した。その後、赤月隊に入ってからはこの17年間、ただの一度も墓前に行くことはなかった

厳格な父 崔元直 は幼心にも大変誇らしい存在だった。それが故に「胸を張って訪れる事ができるその日まで、決してここには戻りません」

確固たる思いを胸に抱いたまだ16歳の若きチェヨンは、亡き父の墓前にそんな誓いを立てていたのであった

時々、チェヨンはウンスを見る。ウンスもチェヨンを見つめ返し微笑む。
目で語りあいながら、馬を走らせ二人はそこへ向かった

これから人生を共にする…結婚相手のご両親にあいさつに向かう
ウンスはそんな旅路に心を躍らせていた

「お義父様と、お義母様に気に入って頂けるかしら…」
心配そうに、そして少しおどけたように微笑む

そんなウンスを愛しそうな目で見つめる
勿論です…そう、チェヨンは目で優しく頷き答えた

「むしろ、このような男おやめなさいとおっしゃるかもしれませんよ…」
少しからかうようにチェヨンは言う

クスッと笑ったウンスは
「あら、じゃぁ、やめようかしら…♪」

チェヨンの反応が見たくてわざと強気に言い返してみる

予想をしなかったウンスの回答に少しチェヨンはあわて訝しげに

「イムジャ…それは、なかった事にされると…?」

予想通りのチェヨンの回答に、ウンスは満足げに笑った

自分が仕掛けたことを、ウンスにやり返されて少しむくれる

そんな俺にあの方がまた笑う

ウンスは「もうすぐかしら…?」 と言いながらニコリと微笑み
馬でチェヨンを追い抜き去っていった

チェヨンはそんなやり取りに幸せを感じつつ「ハッ」と馬の腹を蹴り、先を行くウンスの後を足早に追いかけて行った


墓前に着いた頃は既にもう夕刻であった
少し薄暗くなった墓前へとウンスと手をつなぎ共に進む

将来を共にする伴侶である愛しいウンスを連れ、父の墓前に歩み寄る
チェヨンはどこか誇らしげな気持ちと、そして少し照れくさいような
また、奥底からこみ上げるような感動に胸が熱くなる

二人で花を手向け手を合わせる
目をそっと閉じる

ウンスは心のなかでつぶやく

-お義父様、お義母様。初めまして。ユ・ウンスと申します。私、この人と二人で幸せになります…この人がいつも穏やかに笑っていられるように…国を束ねるこの人が無事でいられますように…どうか天から見守っていてください

チェヨンは心のなかでつぶやく

-父上、母上。こに…ここに今やっと帰ってくることができました。御二人にはさびしい思いをさせたでしょうか…?

今なら胸を張って自分をお見せする事ができるのです…。俺はこの人を絶対幸せにします…そして、俺が幸せになります。どうか、どうか…そこから2人をお守りくださいますよう…

まるで、それぞれの思いが天にいるチェヨンの両親に届く様に…その日の空はいつにもまして青く冴えわたっていた

「今宵はもう遅くなりました」
チェヨンは辺りを見回す

冬の太陽はそのころには沈みかけ、辺りは既に薄暗さを漂わせていた

「本日はこのまま山道を帰るのは危険ですゆえ宿を取りましょう。近くにチェ家が懇意にしていた宿があります」

チェヨンは、振り返り深々と墓前にお辞儀をし「また、この方と時々参ります…」そこに眠る両親を見つめつぶやいた


続く…



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