俳優が「感情」を演じるには?前編では以下の3つの方法について解説しました。
① 感情を演じない(ニュートラルで撮影して、感情はモンタージュで作る)
② 感情を込めて演じる(ポーズや表情で情熱的・説明的に感情を演じる)
③ 俳優自身の「感情の記憶」を掘り出して演じる(アクターズ・スタジオ流)
そもそも①②だけだった映画の演技の世界に③のメソード演技が登場して脚光を浴び始めたのは1950年代、「世界に対する個人の反乱」があちこちで起きていた時代です。
マーロン・ブランド主演の『欲望という名の電車(1951)』そしてジェームズ・ディーン主演の『エデンの東(1955)』『理由なき反抗(1955)』、スクリーン上での彼らのやむにやまれぬ感情の爆発が、当時の若者たちの心をとらえました。彼らに憧れた俳優たちがメソードを学び1960年代、アメリカン・ニューシネマの流れの中で若きメソード俳優たちが輝きまくります。ジャック・ニコルソン、ダスティ・ホフマン、アル・パチーノ、ロバート・デ・ニーロetc.etc.
こんな勢いで一世を風靡した「感情の記憶」を使ったメソード演技法は感情の「爆発」を演じるのに秀でていた反面、欠点もありました。それは「内向しやすい」こと。ひとり芝居になりやすい。そりゃそうですよね、俳優は自分個人の過去の記憶の世界にダイブしてるんだから、目の前にいる他の人間とのコミュニケーションは疎かになりますよ。
優れたメソード俳優だったジェームズ・ディーンですら感情が爆発するシーンになると下を向いて目線を相手役からそらして、もしくは焦点を前か奥にずらして、完全に自分の世界に入ってセリフをまくし立てます。自爆タイプのメソード俳優ですね。
でもね、これって現実的に考えるとおかしいんですよ。相手に強烈に訴えかけたい言葉があるのにその相手を見てないなんて・・・普通自分の言葉を聞いた相手のリアクションが気になるじゃないですか。そして相手のリアクションを見ていないので当然感情のキャッチボールは始まりません。(この点を改善しようとしたのがスタンフォード・マイズナーでした)
ジェームズ・ディーンは恋人と抱き合うシーンでも彼は孤独で、2人の心の交流は描かれていません。まあ、その孤独が彼の魅力でもあったのですが(笑)。
それに対してマーロン・ブランドは相手に向かって感情の爆発をぶつける攻撃タイプのメソード俳優なので、爆発してる間は相手をガン見してます。してますが…それは相手のリアクションを気にしている訳ではなく相手を圧迫するためのガン見なので、キャッチボールは投げつけるばかりで基本返球を受け取らない。実はやはり内向してるんです。
パチーノやデ・ニーロもこのタイプで、でもたぶんその豪速球をバンバン投げ続ける感じがまた彼らの魅力になってることは間違いないですw。
そして時代は21世紀に飛びます。21世紀の人々の最大の悩みというか関心事は「人間関係」らしいですね。映画は世の中の人々の関心事を反映するので、映画はクライマックスシーンで感情やり取りのディテールを描写する時代に突入します。
たとえばこの手の映画の金字塔『ダークナイト(2008)』のクライマックスシーンはアクションではなく、ジョーカーやバットマン、ハービー・デントたちの感情のやり取りでした。
観客はアクション以上に、ジョーカーが登場人物たちに仕掛ける奇妙なコミュニケーションのディテールに興奮しました。そして世間はヒース・レジャーの演技に注目しました。新しい演技・・・「感情」を演じる4つめの方法の登場です。
④ コミュニケーションから生まれた感情のまま演じる
ヒース・レジャーのジョーカーは感情を爆発させながらも内向しません。そして相手のリアクションをしっかり観察し、それに対してまた感情を爆発させるというキャッチボールのラリーをやってのけました。なぜそんなことができたのか?・・・ヒース・レジャーは「感情の記憶」を参照してないんです。あくまでいま目の前で起きてることを使って自分の感情に火を点けているんです。
1989年のジャック・ニコルソンのジョーカーが過去の恨みを燃料にバットマンに対する怒りを爆発させていたのに対して、2008年のヒース・レジャーのジョーカーは過去にこだわってません。ヒースのジョーカーが語る過去のエピソードは全部口から出まかせです。シーン毎言ってることが違うw。彼が燃え上がるための燃料にしているのは過去ではなく、その言葉を投げかけた相手が返すリアクションです。彼は相手をじーっと観察し、そこに人間の欺瞞の匂いをかぎ取って怒りを爆発させるんです。
この21世紀に生まれた新しい④の演技法、その仕組みをボクがハッキリ理解したのは『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)(2014)』を劇場で観た時でした。うおおおお!これだあああ!と(笑)
登場人物同士の感情のラリーの激しさ、そしてそれをすべて1カットで撮影するその緊張感に興奮しすぎて、つい3日連続で映画館に観に行っちゃいましたw。で、そこで学んだことを実験するために『セッションズ』という即興動画シリーズをYouTubeで始めちゃったくらい興奮してたんですw。
そしてこの④の演技をアップの長回しでエキサイティングに描写する映画はどんどん増えてゆきました。
『リリーのすべて(2015)』では自分の秘密を語りたい、でも語れない男の切なさをエディ・レッドメインが演じ切り、『マッドマックス 怒りのデス・ロード(2015)』ではアクション中の人物同士の複雑な感情のやり取りが素晴らしく、『サウルの息子(2015)』では見るという行為でさまざまな感情のやり取りが行われ、『レヴェナント:蘇りし者(2015)』ではディカプリオがほぼ無言でありとあらゆる感情のキャッチボールを演じ切り、『沈黙-サイレンス-(2017)』では日本人キャスト達が邦画では見せないようなコミュニケーションベースの素晴らしい演技を見せ、そして『ありがとう、トニ・エルドマン(2016)』では30代の娘と父の愛憎入り混じる複雑なコミュニケーションを描き切りました。
かくして人物の顔のアップのショットは「表情」を説明する短いカットから、「表情の微細な変化」を描写する長めのカットに意味合いが変わり、どんどん長尺化していったのでした。
この④の感情の演技、ヨーロッパ映画やハリウッド映画ではもはや定番です!
日本の映画は②か③が多く、④は年々増えてはいますがまだ少数派みたいです。テレビドラマやCM・VPはほとんど②・・・あ、2017年の朝ドラ『ひよっこ』はなんと④にチャレンジしてましたけどね!中途半端に終わったけど最高だったなあ。
いや④の演技って、一度やってみると分かるんですけどすごく難しいんですよ。まず脚本がよく書けてないと無理だし、その場にあるものだけに反応するのでものすごい集中力が必要。「感情の記憶」を探る方がぜんぜん楽にできますw。反応するための罠を仕掛けるというか、コツさえつかめば誰でもできることではあるんですが・・・。
…というように「感情」の演じ方にもさまざまな種類と歴史があります。職業俳優はいろんなタイプの作品で演じる必要があるので①②③④すべてを学んでおく必要があるとは思いますが・・・でも素晴しい④の演技、日本映画でももっと見たいですねえ。
小林でび <でびノート☆彡>
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