Mexican Resort Style ~スパな生活~ -2ページ目

111.日本への旅立ち

trueプエルトバジャルタの空港には今日も強い日差しが照りつける

ついにその日がやってきた。日本への帰国だ。

旅立ちの日、空港へ向うために車に荷物を積み込んだ。1年半の間、僕達をいろいろな所へ連れて行ってくれたVolkswagen Pointer。彼ともお別れだ。あとは彼女に託していく。ふと見上げると、住み慣れたアパートが隣にそびえる。初めて越してきてから3年間。数え切れないほどの思い出が作られ、僕達の様々な感情が蓄積されている場所だ。ふと我に返ると、周りの風景はいつもと変わらず、暑い日差しが何事もなかったかのように降り注いでいた。

空港について搭乗手続きを済ませた後、カフェテリアに向う。彼女とその息子コルドと僕の三人で食べる最後の食事。この3人でい何十回といろいろなところへ出かけた。楽しいこと、悲しいこと、この3年でいろいろな出来事があり、食事そのときどきの3人の心模様も様々だっただろう。そんな感慨にふけながらコルドの食べっぷりを眺めていた。育ち盛りの彼はカリフォルニアロールをぺろっと平らげたのでもう一つ頼んでやる。自分がいなくなったら母親の収入だけでは今までのように外食は出来なくなるだろう。せめて今だけでも好きなだけ食べさせてやりたい。こうして3人で食事をするのもこれが最後だと思うと箸が進まない。残された時間が刻々と少なくなっていく。本当につらい最後の食事だった。

会計を済まして出国のためのゲートに向う。彼女も僕も無言だ。もうそれっきり会えないときには、人はどんな話をすれば良いのか、それまでの人生で僕達はあまり経験したことがなかったことだ。やがてゲートに着いた。イミグレーションの役人が無表情に立っている。目の前のゲートをくぐれば、10年続いた僕のゲームは終わる。本当にこれで良かったのか。僕は彼女とコルドと固く抱き合ったあと意を決してゲートをくぐった。振り向くと、未練を残した表情の彼女が、遠ざかる僕をいつまでも見つめていた。
 
ロス行きの機内は空いていた。窓際に座った僕は離陸してからもうずっと窓の外を眺めたままだ。自分の住んでいた町から徐々に離れていき、やがて赤茶けた大地をむき出しにした乾燥地帯に入っていく。そこに住む人々のちっぽけなドラマなどまるで意に介さないかのように、圧倒的な大地が永遠と続く。

僕は少し眠くなった。ロスへの到着まではもう少しある。眠りから覚めたら、今までのことは何も覚えていないことを祈りながら、僕は深い眠りに落ちていった。