逆上がり | Commentarii de AKB Ameba版

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 何もかもうまく行かなくて、もうどうしたらいいかわからなかった。
 
 僕の手の中にあるものから、どういうものが生まれるべきなのか、それは頭の中で鮮明にわかっていた。
 全ての材料はそこにあった。
 
 でも、どうやって実現したらいいのか、皆目見当がつかなかった。誰も教えてくれなかった。知っている人はそこにはいなかった。僕しかいなかった。
 そして僕も何も知らなかった。

 「これ使ってみな」とボスが言ったのが、Macintosh IIcxだった。何かで獲ってきた百万単位の予算をつぎ込んで揃えたばかりの最新機種。System7、メモリは128MB。
 モニターの前に座って角形のマウスを手を伸ばした。
 ボタンはひとつだけ。それをクリック。

 世界がぐるりと回るのがわかった。

逆上がり
足で地面を蹴って
太陽がぐるりと回った

 それから数日徹夜が続いた。
 やり方は相変わらずわからなかったが、もう途方に暮れてはいなかった。
 やり方はわからなくても、やれることがわかったから。
 何も読まなくても、そこにある「景色」がやり方を教えてくれた。
 時々システムがクラッシュしても平気だった。やり直せばいいだけのことだから。

 そしてある朝、僕の頭の中にだけあったものが、カタチをなしてできあがった。僕の想像以上の出来映えで。

 その日以来、僕はいつもMacintoshと仕事をしてきた。何台ものMacが僕の相棒となった。

 Appleを作ったのは彼じゃなくて、Wozかもしれない。
 彼は決して「いいヤツ」でもなかった。「いいヤツ」のWozを騙したこともあった。彼の近くに寄ると、現実が歪むとまで言われた。
 でも、いつも僕に信頼すべき(ま、ときどきクラッシュするのは仕方ないよね、機械じゃないんだから)相棒を僕に届けてくれたのは彼だった。彼は僕のヒーローになった。
  
 彼がAppleに戻った時、僕はアドレスを知っている限りの友人にメールを打った(まあ、当時メアド持ってる友人なんて10人もいなかったけどさ)。チャーチルの海軍大臣復帰にイギリス海軍省が打った電文にならって、
 "Steve is back!"と。
 僕の最初の大きな仕事の謝辞には、両親、ボスとならんで彼の名があった(あと一人、Charles M. Schulzさん)。

 今僕の自宅とオフィスには9台のMacと17個のiPodがある。
 わかってる。これはとてもfoolishなことだ。

 でも「それら」を使って、あのころ出来なかったことを、今、僕は息をするようにたやすく行っている。

逆上がり
なぜか泣けてくるのよ
知らぬ間にちゃんと回れること

 もちろんそれは、僕が大人になったから、だけじゃない。

 ありがとう、Steve
 いつかiCloudの上のどこかで。