自分が余命いくばくもないと知ったリチャードは、あてもない旅へ出る。
サンディエゴで偶然立ち寄った歴史ある優雅なホテル、ホテル・デル・コロナード。
ギャラリーで見かけた古い女優の写真に、リチャードは心を奪われるのだったが――
- リチャード マシスン, Richard Matheson, 尾之上 浩司
- ある日どこかで (創元推理文庫)
およそ75年の時を超えたラブストーリー! です。
過去の女優に恋をしたリチャードが、思い込みだけで(このへん本来はツッコミどころかと……)過去へ飛び、ひとときの恋におちる、という物語。
舞台はホテル内に限られているのですが、それでも1896年という時代の空気を再現することに成功していて、読み手をリチャードとともに過去へと連れて行ってくれるのです。
わからない俗語や、使えない剃刀などに戸惑いながら、夢にまで見た女優エリーズと恋をする、という素敵なファンタジー。
ただですね、この物語のコンセプトからして、タイムトラベルものとしてのハッとするような展開がないのは仕方が無いと思うのですが、これがラブ・ストーリーとしてもですね……
「こんだけ?」
というくらいの、ささやかな出会いなのですよ。
リチャードは数日を過去ですごしただけで、すぐに現代へと引き戻されてしまう。
そして意気消沈したまま、お亡くなりになるのでした、完。なわけです。
えー、これだけ?
これでエリーズは彼の思い出を胸に生きていかなきゃならなかったの?
えー、そりゃないだろ……。
ふたりの恋が、あまりにささやかで、そして報われない。
これはつまり感情移入している「読み手である私が報われない」のですよ。
大問題です。
この作品が書かれた時代、リチャードが生きる作中時間の「現代」とは1971年という、今の我々からすればすでにかなりの過去であるわけなのですが。
そういった時代性もあるかとは思いますが。
これがこの時代の「ロマンティック」とゆーやつなのかもしれませんけど。
ええー、もう1回!
神様マシスン様、
もう1回奇跡をおこしてくださいよ!!
とお祈りしたくなるような物語でした。
実際にはリチャードとエリーズは、再会を果たしてはいるのですよね。
ただ一度だけ、リチャードがまだ少年のころに、年老いたエリーズに会っているはずなのです。
当然ながらエリーズは何も告げられず、リチャードは彼女が誰かも知らずにいたのですが。
ああ、このエピソードをいっそ最後に語ってくれたらいいのに!!
なんかこー、こういう時間モノというのは、エピソード自体というより、その並べ方が大事だと思うのですよ。
それによって印象がガラリと変わってしまうという部分はあると思います。
……とかなんとか、自分が納得したいあまりに「この小説をどうしたらいいか」まで考えてしまいましたが(よけいなお世話)。
愛らしいファンタジーの小品(実際には結構長いけど。過去の描写に筆を割いているせいでしょうか)で、マシスンがかかわって映画化もされているそうです。解説によると、そちらも原作のイメージを大事にしてつくられた名作のようで、観てみたいなーと思います。
- ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン
- ある日どこかで