第一話はこちら⇒だいなしかもしれない
第二話はこちら⇒だいなしかもしれない②
第三話はこちら⇒だいなしかもしれない③
第四話はこちら⇒だいなしかもしれない④
第五話はこちら⇒だいなしかもしれない⑤
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お姉ちゃんは、ゆうくんのアパートに引っ越した。
仲良しのアイちゃんは実家だったし。
自然の流れってやつですか?
☆
ある日の土曜日、ゆうくんより先に家に帰っていたお姉ちゃん。
ピンポーン
ドアホンが鳴った。
お姉ちゃんは、「はーい」なんて
素直には出ないのだ。
こっそり、誰が来たか覗く。
「んん?」なんか見覚えがある、中年のおじさんだった。
でも、すぐには思い出せない。
眼鏡かけててスーツきて、ネクタイしてる。ちょっと小太り。
どうしよ?って思ってたら、アパートの階段を駆け上がる軽やかな音。
「す、すみません。」ハァハァと息してる、ゆうくんだ。
お姉ちゃん、慌ててドアを開ける。
「おかえり~」
「た、だいま」
おじさんをチラ見しながら、お姉ちゃん、「誰?」
「レコード会社の人だよ」「え?」
おじさん、にこりと笑いながら名刺を出した。
ん?名前も見覚えが。
「あ!!延滞金の!!」
おじさんも思い出したみたいだ。
「あーレンタル店の。」
ゆうくんのデビューが決まったのだった。
お姉ちゃんと付き合いだして、更にゆうくんの
ギターと歌声はよくなった。
そして、自分で作った曲も。
お姉ちゃんの事を想って作った曲。
それが、音楽業界の人の目にとまったんだって。
僕は探していた ずっと
落していた物にも 気付かずに
探せば探すたびに どんどん落していた 色んな物を
けれど今は 安心して探すことができる
君が僕の後ろで 落とした物を全部拾ってくれるから
口から出ては 消えてしまう 言葉のかけらも
君が全部 捕まえてくれるから
安心して 歌う事ができるよ
曲は、ダウンロードランキングでも上位に入り
ゆうくんはテレビの音楽番組にも呼ばれるようになってた。
「今日、何時に帰るの?」
お姉ちゃんが、ゆうくんに聞いた。
まだ、あのアパートにいたけど、近いうちに引っ越す予定だ。
「うん、今日、お昼からHEYHEYHEYの収録だから」
「そっかぁー。放送楽しみ」
「うん、終わったら行くから」
「うん、じゃぁ、終わったら待ち合わせ忘れないでね」
「ああ、メールするよ」
そして、ゆうくんはギターを持ってアパートを出た。
ぴんぽーん。
「おす、おねいちゃん」
「おす」
今日は3人で一緒に動物園に行く。
虎に会いに。
「もう、かなり大きくなったよね?」
「うん」
お姉ちゃんは、虎のいる動物園がわかったらすぐ
様子を見に行ったんだ。
虎はちゃんとお姉ちゃんを覚えてた。
お姉ちゃんが帰る時には、泣きそうな顔をした。
だから、お姉ちゃんは決意したんだって。
動物園で働くって。
すぐに園長さんのところに行って、無給でいいから
手伝いたいって言った。あの子のそばにいてあげたいって。
園長さん、わかったって言ってくれたんだって。
でも大学は卒業しなさいって。
それまでアルバイトで給料は少ないけどって。
そしてお姉ちゃん、レンタル屋は辞めて、すぐ始めたんだ。
今日はバイトお休みの日。
「じゃぁ、行こうか」
「うん」
2時半に、ゆうくんからのメールも届いていた。
「もう収録終わったから」って。
「よし、待ち合わせの駅に行こう!」
アパートを出た。なんか階段の下が騒がしい。
え?なんか記者なの?何人かいるみたい。
お姉ちゃんと私、階段を下りる。
お姉ちゃんが手を握ってきた。汗かいてるよ?
あの人達、こっちを見てる?近づいてくる?
「あのー水原さんとは、どういう関係ですか?」
「話をちょっと聞かせてもらえませんか?」
「一緒に住んでるんですか?」
マイクとカメラ。何?何なの?お姉ちゃん?
この人達煩いよ?
お姉ちゃんの手、ぎゅっと、握った手に力が入った。
「走るよ!!」
「うん!お姉ちゃん」
しばらく走って、商店街に入ったら、振り切れたみたいだった。
はぁはぁ。二人とも、結構走ったね。
お姉ちゃん?
「ハハハ、あはは」
笑ってる。
「げ、芸能人みたいだね」
「そうだね」
「これから、面白くなりそうだね」
「うん」
待ち合わせの時間はもうすぐ。
ゆうくんも無事に来れるかな?
なんかあったら、虎に食わせちゃお。
あの記者たちも、ね。
<おわり>