箱がテーブルの上に置いてあった。
それは黒い箱。
誰がそこに置いたかわからなかった。
「お母さん?」首を振る母。
「お父さん?」まだ会社から帰ってきてない。
妹でもないと言う。
箱には鍵がかかっている。
「なんだろう?」
「鍵はどこかな?」
「何が入ってるのかな?」
3人はただ、箱を見つめていた。
秘密は家族みんなにあった。
携帯の着メロが鳴った。金爆だ。
「あ、ちょっと待って」
お母さんはそう言うと、嬉しそうに2階に上がった。
「最近電話多いみたいだよ」と妹。
僕はちょっと知っていた。
それより箱はいつからあるのか。
「お父さんのだよ、きっと」持つと軽かった。
振ってみると音もしない。
「振っても何も音しないから、空かもよ?」と妹。
「そうかもね。」
しばらくして、お母さんが降りてきた。
「鍵あったんだけど」
「どこに?」
「お父さんの引き出しの中」違う鍵かもしれない。
「試してみようよ」と妹。
鍵は入った。カチャ。開いた。
その時、玄関のチャイムが鳴った。
「お父さんだ」
変だった。
お父さんは、朝、会社に出かけた時とは違っていた。
「お帰りなさい」
「・・・ただいま」
お父さんは、箱を見ると僕から奪った。
「!」
「どうしたの?」「何が入ってるの?」
しかし、お父さんは箱を持ち、
黙ったまま2階に上がっていった。
お母さんも、追いかけるように2階に上がっていった。
「本当なの?」
お母さんの声がする。
僕達は、気になって2階の様子をうかがった。
「ああ」
「家を出る」
しばらくして、お父さんが降りてきた。
手にはスーツケース。
「お父さん、どこへ行くの?」「出張?」
「あぁ、そうだ」
着替えてもいなかった。
嘘だ。僕は知っていた。お父さんは愛人の所に行くって。
まもなく、お父さんは家を出て行き、
次の日から家族は3人になった。
「お父さんいつ出張から帰るかな?」
妹の口から出る言葉は、そればかりだった。
お母さんも日に日に変わっていった。
毎日帰りは遅く、お酒を飲んで酔って帰る事も多くなった。
ある日学校から帰ると妹が呼んだ。
「お姉ちゃん、来て」
見ると、テーブルにまた黒い箱があった。
「お父さんの?」
「違うよ」
この前の箱ではなかった。また鍵がかかっている。
「なんなの?これ?」
すると妹が手に持っている物を見せた。
「これ?」
「それどこで?」
「ポストに入ってたの」
鍵を箱に差し込むとカチャリと音がした。
その時、チャイムが鳴った。
夢中で箱を開けようとしていた僕は、
チャイムの音で手を止めた。
「待って、ぼくが出る」
玄関に行き、小窓から覗くと、そこには男が立っていた。
「宅急便です、ハンコお願いします」
「あ、はい」
宅急便を受け取り、居間に戻ると妹が箱を開けていた。
そこには、お母さんと若い男のプリクラが入っていた。
めったに見る事のなくなった、お母さんの笑顔。
すごく若く見える。
「これ、お母さんだよね?」
妹は泣きそうな声で言った。
小学5年生なら、もう、このプリクラがどういう意味かわかる。
しかもデコ文字で、二人はラブラブとか書かれている。
その夜お母さんはメールを1通くれただけで帰ってこなかった。
もう家に帰りたくない。妹がそう思っても不思議じゃなかった。
僕だって本当はそうだ。
妹を探すと、ランドセルを背負ったまま
近所の公園でぶらんこに乗っていた。
「よかった」
僕は妹に声をかけようとして驚いた。
あれは?あれは!
プリクラの、お母さんと一緒に写っていた男の子が
すぐそこを歩いていた。
やはりそうだ、あの男の子だ。
僕と妹は目配せして男の子の後を付ける事にした。
携帯で話していて全く尾行に気付いていない。
やがてアパートの2階の部屋の前で鍵を出し
扉を開け、中に入ろうとした。
その時僕は階段を駆け上がり閉まる扉に足を掛けた。
「だ、誰?」
男の子は目を丸々とさせて驚いていた。
ゆっくり階段を上がってきた妹が扉の隙間から叫んだ。
「お母さん?いるの?」
「え?お母さん?」
男の子はちょっと落ち着いたようだった。
「君達、そうか。あの人の。いないよ。
俺一人だよ。大丈夫だから、入っていいよ。」
そして僕達は部屋に入った。
余程我慢していたんだろう。
妹は部屋に入ると泣きながら男の子に噛みついた。
「許せない!殺人鬼!お母さんを返せ!」
「さ、殺人?殺してないよ」
男の子は,妹の剣幕が恐ろしくなって全て白状した。
貧乏大学生でバイトのつもりでお母さんと会い、
お金をもらっていた事。
恋愛感情は一切ない事なんかを。
続く
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