・円安、株高は定着するか? | 矢口新の生き残りのディーリング

・円安、株高は定着するか?

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・「ユーロ周辺国と日本の選択肢」がデジタル・ブックとなった。

金融予測 これからどうなる? 「ユーロと円」日本は円安誘導政策を急げ!
著者:矢口新、安曇出版:¥630


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内容は、デジタルで読み易くするために、多少変更した。




☆円安、株高は定着するか?

・2013年相場見通し

この12月1日に「2013年相場見通し」としてセミナーを行った。ビデオ録画し、「生き残りディーリング塾」会員の方々には、無料ですべてをご覧頂けるようになっているが、ここでも、概略をご紹介したいと思っていた。

年末押し迫ってしまったが、ここに簡単だが、私が見ている2013年の相場をご紹介したいと思う。



・2012年レビュー:2011年と何が変わったか、何が変わらなかったか

【変わらなかったこと】

欧州債務危機:
ユーロ周辺国の失業率が上昇し続け、大手銀行のなかに債務超過が発生するなど、欧州債務危機の出口は未だに見えないでいる。

世界的な景気低迷:
年末にかけ、若干持ち直しの感もでてきているが、引き続き経済成長のペースは鈍い。

当局のスタンス:
上記のこともあり、各国の金融政策は著しく緩和的で、特に主要国は何が何でも景気を上向かせるというスタンスを維持している。

株式から債券への資金移動:
世界的に債券への資金流入が続いている。年末になってようやく株式への資金流入が見られるようになってきた。


【変わったこと】

欧州周辺国の落ち込みがドイツに波及:
ドイツの最大の貿易相手国はユーロ周辺国だ。その落ち込みが遂にドイツ経済にも波及してきた。

支援策の効果:
前年に比べ、ユーロ周辺国の国債利回りが大幅に低下した。

緩やかなインフレ懸念:
まだ緩やかではあるが、インフレ懸念が見られる国々が出てきた。

米住宅市場の底打ち感:
バブル崩壊から5年が経ち、金融政策の効果もあって、ようやく米住宅市場の底打ち感が強まってきた。

日本株の底打ち感?:
テクニカル的には中長期の抵抗線を上抜けた。
参照チャート:日経平均(2010年5月ー2012年12月)
$矢口新の生き残りのディーリング

円高の天井感?:
テクニカル的にはドル円の中長期の抵抗線を上抜けた。
参照チャート:ドル円(2010年5月ー2012年12月)
$矢口新の生き残りのディーリング

中国リスク:
経済的、地政学的なリスクが顕著となった。


【2012年に新たに起きたこと】

マイナス金利:
史上初めて、独仏など欧州主要国の国債利回りがマイナスとなった。

TOPIX1982年来の安値:
日経平均は前年11月の安値を下回ることがなかったが、TOPIXは6月4日に1982年来の安値692.18ポイントをつけた。

日本の領土問題:
北方領土、竹島に加え、尖閣諸島の領土問題が深刻化した。



・各国の金融政策スタンス

米住宅バブル崩壊後には米英の中央銀行が、リーマンショック後には欧州中銀が金融緩和に転じた。その後、緊縮財政策もあってユーロ債務危機が進展し、世界の景気が悪化し続けるなかで、世界のほとんどの中央銀行が緩和的から著しく緩和的なスタンスを取るようになっている。

金融緩和とは、利下げや資金供給を通じて、通貨の魅力を下げ、相対的に金融商品やモノの価値を高めることで、景気回復や、金融商品、モノの値段の上昇を促すものだ。

その結果として、世界的に債券は史上最高値水準となり、多くの株式市場で数年来の高値を更新し、いくつかの商品も史上最高値を更新した。

その一方で、多くの国々で緊縮財政策が採られたこともあり、景気の方は明らかな回復の兆候が見られないでいる。

景気対策としては、一部では行き過ぎた緊縮財政策への反省が見られるが、大勢は「景気が回復するまで」金融緩和を継続するというスタンスを採っている。



・債券バブルは崩壊する

どんな相場にも終りは来る。例えば、2012年に世界の一部地域を襲った数十年来の旱魃などで、穀物価格は史上最高値を更新したが、すでに値下がりが始まっている。世界には旱魃に襲われなかった地域が多くあり、襲われた地域でも、販売価格の値上がりが作付面積拡大に結び付いているからだ。一方で、天然ガスのように10年来の安値をつけたものは反発してきている。

相場での行き過ぎは必ず是正されるといえる。また、債券のマイナス利回りのように、ものの道理では通らないところまで無理に買い上げると、その反動は大きいと予想される。

ここで債券価格と利回りの関係を復習しておこう。

参照図:債券価格と利回りの関係
$矢口新の生き残りのディーリング-bond


参照図にあるように、債券の償還時までのキャッシュフローは購入時に確定している。図の金利でいえば、50万円で買っても、200万円で買っても、利息は1%、償還時には100万円が返ってくる。つまり、安く買えれば買えるほど、利回りは上昇し、高く買えば利回りは低下する。

この時、債券の価格を左右するものは、政策金利の動向、インフレ率、景気動向、信用リスク、税率の変更などだ。

政策金利は調達コストを意味するので、下がれば債券投資が魅力的になる。インフレ率が低ければ元利金の魅力が増すことになる。景気が悪ければ資金を他で運用するよりも利付き商品の魅力が高まる。信用リスクが低ければ元利金の回収に対する不安が減少する。また、利息にかかる税率が下がれば金利の魅力が増すことになる。どこまでいっても道理に叶うのが債券投資なのだ。

では、マイナス利回りなど、債券投資の道理から外れることが、どうして起きるのだろうか?

ここでも繰り返し述べているが、主要国の国債はもはや投資物件ではなく、投資家がコストを払ってでも一時的に資金をプールしておく貸金庫のような存在となっているのだ。貸金庫の需要が高ければ、又貸しで利益を得ることも可能だ。つまり、高値の(利回りの低い)債券でも、誰かにそれ以上の高値で売り抜くことができれば儲けることができる。とはいえ、投資家全体では誰かがコストを払っている事実は動かない。

このことは、マイナス利回りでは発行者の資金調達が収益となる一方で、投資家集団の損失が確定し、負の遺産となることを意味している。債券発行者(この場合は国家)は利払い軽減のために低利発行を望むのに対し、投資家は運用利回り確保のために高利回りを望むものだ。マイナス利回りの横行は、一部国家の目論み通りに、投資家が本来の姿を忘れたものなのだ。

値上がりし続けることが当然だと思えるような希少物質でも、行き過ぎると値下がりする。こういったバブルの構造は、セミナーなどで常に解説している。従って、各国政府債務のGDP比が示すように大量発行されている国債が、ゼロ利回りという上限があるにも関わらずに突き抜けて行き過ぎると、その反動は押して知るべしかと思う。

参照図:バブルの構造
$矢口新の生き残りのディーリング-bubble


投資家はいつまでもマイナス利回りを買い続けることはできない。収益を上げねばならない投資家が、リスク回避といいながら、いつまでも損失を確定し続けることは投資ゲームの性質上あり得ない。ゲームの枠を超えた、裏の動きについては知らないが、まるで好んで税金を支払うようなマイナス利回りの国債を買い続けることには自ずから限界が来ると見ている。


そして、金融緩和状態のままで、債券バブルが崩壊すると、ここ数年債券市場に流入していた大量の投資資金が他商品に流れ込むことになる。

米投資信託協会によると、米国では2008年初めから2012年10月までに累計4700億ドル弱が株式投信から流出し、債券投信には約1兆ドルが流入したとされる。この反転が予想されるようになるのだ。



・国債バブルがはじけて、株が上がる3つの理由

1) 現状の市場経済と、それに対する主要国政府の姿勢

グローバル企業は国家と国民とを使い捨てにできる構造となっている。このルールのもとで国民ができる対抗手段は、自らが株式を持つことが一番だ。

2)金融緩和、信用創造による通貨発行の拡大は、相対的な通貨安を生む(事実上の調整インフレ・シナリオ)

モノの値段が上がると、多くの物は供給も増える。その点、株式の供給は限られている。

3)投資資金は国債から株式に移動する

国家と企業の財務内容、成長力、また、コスト、社会的責任、判断におけるスピード、利回りなど、投資先としての判断材料を比較すれば、多くの企業は国家よりも魅力的となる。また、大量の資金の受け入れ先は限られている。加えて、確定利付き商品である債券はインフレに弱い。



・割安だといえる日本株

東証上場全2091社(2012年10月)
平均連結PER:16.5倍
平均連結PBR:0.7倍
1981年~2011年までの平均PERは46.1倍

東証一部平均配当利回り(2012年8月)
単純平均:2.23%
有配会社平均:2.35%
加重平均:2.46%

東証配当フォーカス100指数構成銘柄(2012年7月31日現在)
組入れ銘柄の予想配当利回り3.52%

東証1部上場A社:10.204%
日経225銘柄B社:6.993%
日経225銘柄C社:6.276%

10年国債利回り:0.79%(2012年末)



・円を取り巻く環境

円が買われると円高になる。円が売られると円安になる。ところが、誰かが円を買うと、その相手は円を売ったことになる。誰かが1億円を買うと、相手は1億円を売っている。それでも、相場は動くのだ。なぜなのだろう。

この疑問に答えたものが、タペストリー第1理論だ。

市場価格はポジションの保有期間の長短によって動く。あなたが銀行から米ドルを買うと、銀行はそのドルの手当てに、他の誰かからドルを買うことになる。市場には確かに買い手と売り手とが同数存在しているのだが、事実上の買い手は、実需としてのドル買いを行うあなたなのだ。

貿易を含め、そういった外貨、円貨の実需を網羅したものが経常収支だ。日本の貿易収支は赤字に転じているが、経常収支はまだ黒字だ。このことは、実需ベースでは、外貨需要よりも、円貨需要の方が大きいことを意味している。その意味では、円高トレンドは必ずしも終ってはいない。


ところが、上の債券や商品でも触れたように、相場は必ず行き過ぎる。市場には実需以外の参加者がいるからだ。あなたがドルを買う時、売り手の銀行は実需ではない。とはいえ、銀行は借りてきたドルをあなたの数倍、数十倍も売ることができる。実需のあなたがドルを買っても、仮需の銀行がその数倍もドルを売れば、ドルの値段は下がってしまう。少なくとも、一時的には実需よりも、仮需の力の方が強いのだ。

一時的だと断るのは、銀行にはドルを売る実需はなく、借りてきたドルは時間の問題で返す必要があるからだ。売ったドルが値下がりし、しっかりとキャピタルゲインが取れたなら、銀行はドルを買い戻す。つまり、ドルが下げていた時間には限りがあり、その後は実需に買われたままに、ドルは上昇力を取り戻すことになる。

このことを説明したのが、タペストリー第2理論だ。市場価格のトレンドは実需、投資などの量的制限のある保有によってつくられ、上げ下げのボラティリティは仮需、投機などの時間制限のある売買につくられるというものだ。

その意味で、円投の直接投資、最近増えてきたサムライ債の発行(海外の発行体が円を調達し、長期間にわたって外貨に替えてつかう)や円借款(外国政府が円を調達し、長期間にわたって外貨に替えてつかう)、円投による中長期の外債投資の声の高まりは、中期トレンドになり得る円安圧力になっている。

とはいえ、今の円安は、行き過ぎた円高の是正の部分が大きいかと思う。実際に投機筋の円売りポジションは膨らんでいる。低金利に慣れた投機筋は、小さな金利差でもキャリートレードを行うようになっている。これが、円安トレンドになるためには、経常収支の赤字が定着するか、日米金利差などが目に見えて拡大する必要があるのだ。あるいはスイス政府のような、日本政府による本格的な自国通貨売り介入が望まれることになる。

テクニカル的には円安トレンドに入っている。しかし、2013年中に介入なしで円安が行き過ぎると、どこかでまた円高に転換してしまう可能性が高いといえるだろう。そうはいっても、円が再高値を更新するまでには、実需や金利差、通貨政策などの変化が起きることは十分に考えられる。

以上のことはあくまで私の個人的な見方だ。見方が当たるか外れるかは誰にも分からない。いずれにせよ、相場で儲けるには、タイミングを捉える事がより重要だといえるのだ。

次週は、トレンドが見えない相場でも、収益を上げることが可能なことについて述べようかと思う。


良いお年を!




DVD・著書案内

・「エスチャートが可能にする山越え谷越えトレード」など、他



☆ギリシャ、アイルランド
「ユーロ周辺国と日本の選択肢」

この連載の元原稿を書き上げたのは2010年後半だが、ここで取り上げた事柄は正に今進行中で、ユーロ周辺国の債務問題も、アメリカの住宅市況も、円高も、日本の苦境も、ここに書かれた通りに進んでいる。逐次、数値はアップデートしていくが、数字に拘らずに、何が起きているか、そして日本がユーロ周辺国のような状況から抜け出すためにはどうすればいいかを読み取って頂きたい。




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著者:矢口新、安曇出版:¥630



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★★ギリシャ、アイルランド「ユーロ周辺国と日本の選択肢」
全バックナンバー(無料でお読み頂けます)

(第1回:「序章1;北風と太陽」、「序章2;先の見えない日本」

(第2回:「序章3;代官政治」、「序章4;ターニングポイント」

(第3回:「序章5;いまだに冷戦構造下の日本」)

(第4回:「序章6;自立している国々は元気だ」)

(第5回:「序章7;日本の選択肢」、「目次」

(第6回:「第一章 ユーロ問題」、「第1項;ユーロの誕生」

(第7回:「第2項;通貨とは情報の信用度、安全で機能的な流通システムがキー」)

(第8回:「第3項;変動相場制度と統一通貨」)

(第9回:「第4項;ユーロの金融政策・その1」)

(第10回:「第4項;ユーロの金融政策・その2

(第11回:「第4項;ユーロの金融政策・その3」)

(第12回:「第5項;アイルランドの憂鬱」)

(第13回:「第6項;The Inconsistent Trinity」)

(第14回:「第7項;広域通貨の可能性」)

(第15回:「第8項;通貨統合は必要か?」)

(第16回:「第二章 サブプライム・ショック」)

(第17回:「第1項;サブプライム住宅ローン」、「第2項;米人口の推移と持家比率」

(第18回:「第3項;全米住宅の中心価格とアフォーダビリティ」、「第4項;住宅着工」)

(第19回:「第5項;新築住宅販売」、「第6項;サブプライム・ローン証券化商品」)

(第20回:「第7項;2つの流動性リスク」、第8項;ファンダメンタルズ(実需)と市場価格との関係」)

(第21回:「第三章 円相場」)

(第22回:「第1項;為替市場における経済のファンダメンタルズ」)

(第23回:「第2項;売り買い同量でも相場は動く」)

(第24回:「第3項;自動車会社の円買い」「第4項;ポジションの保有期間が相場の方向を決める」)

(第25回:「第5項;経常収支」「第6項;外貨準備高」)

(第26回:「第7項;資本収支」「第8項;直接投資」)

(第27回:「第9項;その他資本収支」「第10項;証券投資等」)

(第28回:「第11項;金利差と為替」)

(第29回:「第12項;介入は自由市場の妨げか?」)

(第30回:付録 タペストリー・プライスアクション(TPA)理論

(第31回:「第1項;タペストリー第1理論(Tapestry #1 Theory)」)

(第32回:「第2項;ポジションの保有期間の違いが価格を動かす」)

(第33回:「第3項;外為市場で起きていること」「第4項;何を貿易通貨に
つかっても結果は同じ
」)

(第34回:「第5項;影響力は、ポジションを抱えている期間だけ」「第6項;バブル崩壊後の株式市場」)

(第35回:「第7項;ポジションの保有期間と価格変動」「第8項;実需だけの相場」

(第36回:「第12項;保有がトレンドをつくる」「第二章タペストリー第2理論(Tapestry #2 Theory)」)

(第37回:「第1項:市場における仮需の役割」、「第2項:市場にもルールは必要だ」)

(第38回:「第3項:仮需(投機)と、実需(投資)との違い」、「第4項:投機は量に強く、時間に弱い。投資は時間に強く、量に弱い」)

(第39回:「第5項:投機と投資はこんなに違う」)

(第40回:「第三章プライスアクション理論(Price Action Theory)」)

(第41回:「第2項:プライスアクション理論の要点」

(第42回:「第四章タペストリー・プライスアクション理論(TPA理論)」)

(第43回:「あとがき」)



*iPad、iPhoneでお読みの方は、上部アドレスバーにある[リーダー]をクリ
ックすると、読みやすくなります。



☆デジタル・ブック
金融予測 これからどうなる? 「ユーロと円」日本は円安誘導政策を急げ!
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