・ユーロ周辺国と日本の選択肢+Q&A;実質為替レート | 矢口新の生き残りのディーリング

・ユーロ周辺国と日本の選択肢+Q&A;実質為替レート

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☆ギリシャ、アイルランド
「ユーロ周辺国と日本の選択肢」

この連載の元原稿を書き上げてから1年以上になるが、ここで取り上げた事柄は正に今進行中で、ユーロ周辺国の債務問題も、アメリカの住宅市況も、円高も、日本の苦境も、ここに書かれた通りに進んでいる。逐次、数値はアップデートしていくが、数字に拘らずに、何が起きているか、そして日本がユーロ周辺国のような状況から抜け出すためにはどうすればいいかを読み取って頂きたい。

政策提案を含む内容なので、皆さんの友人知人にもすすめて広めて頂ければ幸いだ。日本が復活するには、これしかないと思う。


(第1週:「北風と太陽」、「先の見えない日本」

(第2週:「代官政治」、「ターニングポイント」

(第3週:「いまだに冷戦構造下の日本」)

(第4週:「自立している国々は元気だ」)

(第5週:「日本の選択肢」、「目次」

(第6週:「第一章 ユーロ問題」、「第1項;ユーロの誕生」

(第7週:「第2項;通貨とは情報の信用度、安全で機能的な流通システムがキー」)




・第3項;変動相場制度と統一通貨

通貨が金本位制という絶対的価値から、変動相場制という相対的価値へ移行したことに関しては、多くの理由が考えられるだろう。その中の決定的に大きな理由の1つとして、さまざまな分野での技術の進歩がその背景にあるのではないだろうか。つまり、交通、運輸や通信技術などの進歩が地球を実質的に小さくした。国ごとに設けられていた垣根を低くした。それにより、人、物、資金の流れが容易になる下地が整ったのだ。

ところが、北国はいまだに北国のまま。島国は島国のままだ。いまだに夏の国と冬の国、昼の国と夜の国とが、同じ地球、いまの同じ瞬間に同居している。いうなれば地球は小さくなったのだが、地域別の差異は残ったままだ。これにより、人、物、資金の流れがダイナミックなものとなり、ある一つの価値への固定した相場が、規制や管理をもってしても維持できなくなってきたのだ。

地球は小さくなるが、差異はなくならない。このとき同じ物でも近くに寄れば大きく見えるように、地球が小さくなれば、差異をより大きく感じるようになるはずだ。具体的には、品質に比べてより割安なモノやサービスを求めて、人や資金の移動が簡単になったのだ。したがって、その差異を自動的に調整するシステムがますます必要となってくる。そのシステムが変動相場制なのだ。

つまり、変動相場制は成長率やインフレ率などの差異、その変化率の差異を間に立って調整する。そして、変動相場制が機能していると、その差異が小さなうちに自動調整されることによって、大きな通貨変動の必要性が下がってくるのだ。

変動相場制の下では成長率が下がると、金利を下げる。通貨が下がる。コストが下がる。競争力が上がる。貿易収支が改善する。成長率が上がってくる。

一方、成長が過熱気味になるとその逆が起こり、不均衡が半ば自動的に調整されることになる。


図表02 景気循環と為替変動(省略)


各国の紙幣やコインが違った色、形をとっているのは大変不便だとはいえるが、帳簿上での資金の移動の進展が、逆に実物の紙幣やコインの必要性を低下させてゆくことだろう。お財布携帯や、インターネット上の決済、クレジットカード、デビットカードなどのエレクトリックマネーが、これからの通貨の主役となり、通貨を持ち歩くことがなくなっていくのだ。


とはいえ、まだまだ実物の紙幣やコインへの信仰は厚い。のみならず、価格変動のない統一通貨を望む声も多い。

ところが、統一通貨を導入すると、成長率やインフレ率、失業率などのはなはだ違う地域を1つの通貨、1つの金融政策でカバーすることになる。

統一通貨の問題点は、異なった地域、過熱気味の経済と不況下の経済とを同じ金利、同じ金融政策で扱うことになる点だ。通貨価値の変動もないので、結果として域内における成長率の差、貿易の不均衡は是正されるどころか、ますます拡がってしまう恐れがある。これが、統一通貨は時間の問題で破綻するという意見の有力な根拠だ。

このことを、実際のユーロの歴史を振り返ることで、検証してみよう。
(次週につづく)



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☆Q&A:2つの為替レート、名目と実質

Q;某紙で為替の「実質レート」についての記事を読みました。それによれば、超円高というのは嘘だそうです。名目レート、実質レートについて、どうお考えですか?


A;名目とは、そのものずばりの数値。実質とは、インフレ調整したものだ。

例えば、GDPの算出方法にはいくつかのアプローチがあるが、いずれもそのものの数値を名目と呼び、そこからデフレーターと呼ぶものでインフレ調整したものを実質と呼んでいる。我々が、一般に目にする数値は実質GDPと呼ばれるものだ。

また、物価指数には、総合とコアという2つの指数があり、総合はサンプルとしたモノやサービスの価格の変動指数、コアはそこから食糧価格やエネルギー価格を差し引いたものだ。この2つは価格変動が大きいとされるので、コア指数とは過度な変動調整済みの物価指数と言えるものだ。


当の新聞記事とは以下のものなので、興味のある方は目を通して頂きたい。
(参照:「もう1つの為替レート」が示す超円高の嘘
編集委員・田村正之 2011/12/13 7:00日本経済新聞 電子版)


よくまとめられた記事だと思う。記事では結論としてこう書いている。

「やっぱりここ数年の円高ピッチは急すぎるし、輸出品で競合することが多い韓国など競争相手の通貨が下がっていることが日本の輸出競争力を不利にしている。震災など全体的な経済状況も考え合わさなきゃいけないので、様々な円高対策は当然必要だ。あと、基準年や、実質為替レートの前提となる物価を何で比べるかでも数値は違ってくる。それでもやっぱり、名目レートだけしか見ないのではなく、実質実効レートの意味や動きを同時に知っておくのはとても大切だってこと」


その通りだと思う。実際、1990年からの20年で円は対ドルで160円から2倍以上になり、名目では日本製品の対米輸出競争力は半分以下となったが、その間のアメリカの物価は6~7割上昇し、日本はほとんど上がっていない。つまり、その分は米国製品は割高となり、日本製品は輸出競争力を得たとも考えられる。ある程度、相殺されたわけだ。これが日本の貿易黒字が大きくは減少しなかった原因かもしれない。

とはいえ、物価指数はサンプルを何に取るかで変わってくる。最も庶民の生活に密着しているともいえる食糧価格やエネルギー価格を外したコア指数というものも、分かるような分からないような代物だ。おそらく、金融政策の判断基準により使い易いということで注目しているのだろう。

また、インフレ率が上昇する、つまりモノやサービスの値段が上がることは、購入により多くの通貨を必要とするので、通貨の価値が下がる意味でもある。1990年からの20年間で、モノやサービスに対する日本円の価値は動かなかったが、米ドルは6~7割下げたとも考えられるのだ。

いずれにせよ、名目が重要なことは動かない。1ドル100円で輸出するのと、1ドル80円で輸出するのとでは、手取りの金額がそのまま2割減となるからだ。誰もインフレ率でなど調整してくれない。これが、日本で製造すると儲からずに、産業が空洞化していく原因なのだ。その意味では、超円高は嘘どころか、切実な現実だ。


そこで、記事でも、「基準年や、実質為替レートの前提となる物価を何で比べるかでも数値は違ってくる。それでもやっぱり、名目レートだけしか見ないのではなく、実質実効レートの意味や動きを同時に知っておくのはとても大切だってこと」と締めている。特に異論はない。



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☆Q&A:どこの国債がバブルなのか?

Q;債券がバブルであるかを判断するために、矢口先生はどの国の債券を指標としてみていますか?


A;投資の基本は割安を買うことだ。もっとも、いくら安くても、そこから更に値下がりしたり、投資資金が回収できないようなものでは、投資というより、投機となる。

また、割安というのは、何との比較で判断しているのか、常に注意を払う必要がある。

債券にとって割安というのは、モノの値段であるインフレ率(逆数が通貨の購買力)と比較して、あるいは、実体経済の成長率、株式の配当、不動産の利回りなどの他、同種、同期間、同格付けの他の債券や、他の金利商品との比較で見ることができる。したがって、それらの債券を取り巻く環境に大きな変化がないのに、急激に売られたりすると、割安感が高まることになる。

相場は売られると下げる。つまり、ある商品を取り巻く環境にまったく変化がなくても、保有していた人の個別の事情で換金されたなら、その商品だけが割安になる。債券の裁定取引の中には、そういった事情での割安を買い、反対方向の事情での割高を売ることで、利鞘を得ようとするものがある。


ここで、注意をしておきたいのは、相場は参加者の意欲と事情とで動いているということだ。つまり、バブルにも、そうなった意欲と事情とがある。絵画のオークションや、大リーグのフリー・エージェント、ポスティング・システムでも、参加者の意欲や事情を反映して、超割安や、バブル的な割高が生じている。この時、高値はより多くの資金を必要とするので、買い手が少なく、値崩れした時の損失は大きい。

とはいえ、それらは実体経済や、多くの一般人の生活からは離れているので、バブルであっても、大きな問題とはならないのだ。


債券バブルも同様だ。例え、バブルが崩壊しても、それほど大きな懸念とならない国の国債もある。そのバブル崩壊で世界の投資資金の大きな流れが変わるのは、米国債だ。

リスク回避の投資先として、ドイツ、イギリス、スイス、スウェーデン、オーストラリア、日本などの国債も買われているが、可能性としては、ドイツ国債が売られ、リスク回避として米国債が買われるケースも想定できる。その意味で、米国債の動向を、これまで以上に注視していたい。

もっとも、日本市場にとっては、日本国債の動向から目を離せない。





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