<・・・。ちょっと、お部屋を拝見しますね。>
案内されたのは、年季の入った文化住宅の2階部分。
「叔母が亡くなってから、叔父は、80歳を超えた今も、一人で
ここで、生活していました。
階段が危ないから、施設に入って、と勧めてたんですけどね。」
<では、このお部屋にご安置すれば、よろしいですね。>
「お布団を用意しましょか。」
<はい。それと・・、ご宗旨は?
奥さんの・・、あら、お仏壇は無いですか?>
「ああ、タンスの上に、位牌を置いていたんですけどね・・。
あれ? どこに置いてるんやろか。」
<最近、ご覧になりましたか?>
「ええ、今年の夏の法事のときには、位牌がありました。
お寺さんに来てもらう。って、言ってましたから。」
<じゃあ、お寺さんに、預っていただいてるのですかね。>
「確か、叔母のときにお世話になったお寺ですわ。
えっとー、この近くの・・あら、どうしましょ、名前がわからんわ。」
<・・。何か、はがきとか、お寺さんからのお知らせとか、ありますかね。>
「探しますね。」
<その前に、ご本人をお部屋に先ず、お連れしますね。
あ・・・・、お布団の上に。>
「もう、こら! そこ、どきなさい。お父さんが帰ってくるからね。」
『ミャア―。』
飼われていた、ねこちゃんである。
<わかってはるんですよ、ご主人がお亡くなりになったことを。>
「そやろか、いつも、こんなんやけど・・。」
・・・・・・
<それでは、ご安置も整いましたし、お線香をあげてくださいね。>
『みゃあ、ミャアー。』
お世話をする間、ずっと、布団のまわりから、離れようとしない。
今も、ご本人の枕もとに、座ったまま。
私の顔を見ては、みゃあみゃあ、泣いている。
(何か、聞いてほしいことがあるのかしら。言いたいことがあるんやね。)
「ほんま、よう泣くねこやわー。
すんませんね、ところで、葬式やけど、
もう、身内も少ないし、ご覧のとおり、お金も無いし、
一番小さいお式でお願いしますわ。
この部屋も片付けなあかんし。
もらうものも無さそうやし、全部処分して・・。」
(いや、まだ、ご本人のお世話が残っていますし・・。
何も無いって、ここに、ねこちゃんが・・。
あまり、若くもなさそうやし、どうなるんですかね。)
見ると、タンスの横に積み上げた段ボールの一つには、
ねこの毛布、ふとん。と、書いてあった。
(可愛がっておられたんやね・・。)
<あのー、ねこちゃんは?>
「そーやねん。これも処分というわけには、いかへんし・・。
私とこも団地やし、連れて帰る訳にもいかへんのよ。
葬儀屋さん、なんかええ方法知らん?」
<心あたりをあたってみましょうか?>
かわいそうで、思わず、言ってしまいました。
探しましょう。ご本人も一番、気がかりだったでしょうから。
明日から、また、一つ仕事が増えました。

✿ 好く目?!
「それでは、遺影写真をお作りいたしますので、
原版になるお写真をご用意ください。」
「そうや、写真やね。
このアルバムに・・。
ほら、これこれ、
この写真、ええ顔、してるでしょ!」
「おー、すごく、男前ですね。
もてたでしょうね。」
「そうやねん。ちょっと、若いけど、ええやんねえ。」
(ちょっと、というより、だいぶん若いんですけど。)
「これね、私らが結婚するちょっと前の写真。」
(ということは、50年以上前。ですか?)
「俳優みたいでしょ。
ほら、今も、おんなじ顔してるでしょ。」
(確かに。本人ですから。)
「ほらあ、ぜんぜん変わらへんわあ。
この写真のまんまやわー。」
(んな訳ないですけど、お幸せですよね、
いつまでも、変わらないお気持ちのままで。)
