<そんなこと、言うたらあきません。>
「今回も、そんな感じやな。」
<もう一回言うたら、クビにします。>
「おお、こわ!・・・たぶん、そうやで。」
<おこるでー。>
・・・・・・
「お待たせいたしました。お迎えにまいりました。」
「お願いします。」
大部屋のベッドに横たわるご本人は、かなりの年配で、おやつれのご様子。
付き添いの方は、お身内ではない様子。
荷物も少ないし、やはり身寄りの無い方か・・。
「ご安置のできる式場に、お連れしましょうか?」
「・・・いーえ、お寺に連れて帰ってください。」
(え、お寺さんでしたか・・。これは・・。おお、○○寺さんではないですかあ。)
<失礼いたしました。平素は、お寺のお名前でお付き合いさせて頂いて。
想像もしておりませんでしたもので・・。>
「いえ、仕方無いです。急に悪くなって・・。
とうとう結婚もせんと、身内というと、遠縁の甥御さんしかいませんの。
私は、お寺のお手伝いですわ。」
<そうでしたね。何もかもお一人で、なさっておられましたね。
では、お寺の本堂のほうに、ご安置させていただきます。>
・・・・・・・・
「先生、帰ってきましたよ、お寺に・・。
寺の跡継ぎのことを、考えなあかんよ。って、総代さんたちからも
言われてたんですよ。
いつまでも、一人ではできひんよ。って、わかってたはずやのに・・。
ご覧のとおり、お寺は荒れ放題やし、どこに何があるのか・・。
皆で、片付けましょうか。って、言ってもさわらせてくれへんの。
私の担当は台所だけ・・。
葬儀も大変やけど、これ、先ず、片付けな、ここで、葬式もできひんね。」
<・・・とりあえず、かたづけましょか・・。>
と、檀家や、ご近所総出で、本堂、庫裡、客間、庭、・・。
必死で、片付けた。
他の同宗派の寺からも、本山の決めごとで代表となり、整理することに・・。
一日がかりで、なんとか、会葬者が来ても大丈夫な状態には、回復できた。
一人でやってきた小さなお寺ではあったが、
出てきましたよ、いろんなところから、お宝が・・・。
まさに、あっちの壺から、数百万円。 本棚の本の間から、数十万円、
寝室に使っていた和室から、これまた数百万円。
予想はしていましたが、檀家さんの中には、腰を抜かしておられた方も・・。
どんどんテンションが上がっていくまわりの人間を見て、
どんどん冷めていった私は、ほこりが被ったらおかわいそうやし、
早く納棺してあげたいな。なんて考えていました・・・。

✿ 押しが無い人間で、良かったかも。
「おう! 久しぶり。
どう?忙しい?おたくは、がんばっとうもんなあ。」
「あら、こんにちわー。おたくも営業ですか。
あきませんよ。ま、ヒマの方が、世間ではいいですよね。」
「はは、病院内で、こんな会話は無いわな。
そりゃそうと、△△さんとこの話、聞いた?」
「え、どんな?」
「なんか、どっかの病院の紹介で、△△さんで葬儀した
家のものが、こんなことがあった。言うて、病院に
来たらしいんや。」
「何があったの?」
「それが、あそこは、結構押し出しがええというか、
威圧感のある社員が多いやろ、
まあ、葬儀の話は納得のいく範囲ですることになって、
いつものように、内容の書いた受取書の明細を渡された
家の人が、その金額を見て、びっくりしたんやて。
100万円の葬儀を頼んだのに、1000万円になってた。」
「えー、本気で?」
「いやあ、ただ、ケタを間違えただけらしいんやけど、
家のものにしたら、夜中やし、怖いし、こんな時やから、
文句をよう言わんかったらしくて・・。
パニ食ったあげくに、口から出た言葉が、
『どうか、家だけは取らんとって下さい。』やったって。
フフ、あとで、考えたら、笑い話やねんけど、
あそこの会社の連中やったら、パッと見がな・・。」
「フフ、それは、なんとも・・・。
それにしても、なんか、また葬儀屋のイメージが・・。
そこのお家も災難やったねえ。」
「そうそう。まあ、我々も気ィつけな。ということで。」
「ご忠告、ありがとうございますー。」
