お正月明けの今年はじめての韓国語講座の日に、講師の先生がわたしたち生徒ひとりひとりに、お手製のキムチを持ってきてくださいました。先生はご家族とともにもう長いこと日本に住んでおられ、今までは韓国のご実家のお母さまがキムチやそのほかいろいろな食材を送ってくださっていたそうなのですが、コロナ禍の今は航空便が激減したこともあり、ご実家からの荷物は送れなくなっているとのこと。仕方なく今年はキムチをじぶんで漬けたので、よかったら食べてみてとみんなにおすそ分けしてくださったのです。
ここは韓国家庭料理の店『妻家房(さいかぼう)』(埼玉県日高市)さんのなかにある“キムチ博物館”です。
キムチの変遷史や、“キムジャン”という一年分のキムチを漬け込む初冬の年中行事の様子などをわかりやすく解説してあり、いつも食事の合間に見るのが楽しみなのです。
辛いものが苦手なひともいるので、少しマイルドになるようりんごの擦りおろしを入れました、とおっしゃるそのキムチの美味しさといったら スーパーマーケットで買う大量生産のキムチとはまったく違う自然な味で、辛さと旨味の絶妙なバランスが抜群で、そのうえ浅漬けというのでしょうか、酸っぱくなるまえのさわやかな食感がさらに味わいを増している気がします。韓国料理とキムチが大好きな夫とともに早速食べて、やはり本場韓国のキムチの味は違うなぁ~と堪能させていただきました。
こうして家族やご近所さん総出でキムチを漬けるんですね~
食べながらふと、先生がおうちで漬けられたということは、日本で手に入る材料だけで作れるってことじゃないのと思い、すぐに先生にお聞きしてみると、「もちろんよ地元埼玉の白菜と、他の材料も全部近くのお店で買えますよ。」とのこと。わたしもじぶんで漬けてみたいと言うと、早速レシピをLINEで送ってくださいました。何より“양념(ヤンニョム)”というキムチの味を決める合わせ調味料の作り方が知りたかったので、それを教えてもらえただけでも嬉しくて、先生のレシピ片手にまずは買い物、いきなり大量には作れないと思い、ひとまず白菜1株でチャレンジしてみることにしました。
揃えた材料がこちらです。ふつうのスーパーマーケットになさそうなのは“액젓(エクジョッ)”といういわしエキスの液状たれと“고춧가루(コチュッカル)”という唐辛子粉ですが、さいわいよく食事に行く“妻家房(さいかぼう)”という韓国料理屋さんにありました。近くにお店がないときは、最近は通信販売でも買えるそうです。
店内には韓国食材をはじめキムチやケジャン(ワタリガニのヤンニョム漬け)、チヂミ、チャプチェなどのパンチャン(お惣菜)、韓国海苔にラーメン、韓国料理の本などもたくさん売られています。
購入するとき、韓国人留学生らしい若い女性の店員さんに勧められたのが새우젓(セウジョッ)というアミの塩辛で、「うちのオモニはキムチを作るとき必ずこれを入れます。」とのこと。入れすぎると塩辛くなるので少しずつ味を見ながら入れてくださいね、という優しいアドバイスまでくださいました。そういえばこのセウジョッ、釜山(プサン)の食堂で名物のテジクッパ(豚肉のスープご飯)を食べたときテーブルに備えられていて、周りを見ると、食べ進めながら途中で加えて味変している韓国人の方がたくさんおられました。
さて、キムチ作りの最初は白菜の下ごしらえです。1株を4つに切り分け、分量どおりの塩水(水900mlに塩90g)でしっかり洗い、その後90gの塩を振ってしばらく置きます。
これを2~3回繰り返すと白菜がだんだんしんなりしてくるので、ここから8時間水抜きをします。わたしはこの間白菜の水洗いはしなかったのですが、あとで先生に聞くと、軽く水洗いをしてから水抜きをしますとおっしゃっていました。
水抜きをしている間にヤンニョム(合わせ調味料)をこしらえます。大根1/2本、にんじん1本、ねぎ2本、しょうが1片、にんにく50gを細かく刻み、唐辛子粉70g、砂糖40g、エクジョッ(いわしのエキス)100g、白粥250g(レトルトで代用)、店員さんおすすめのセウジョッ(アミの塩辛)約30gを入れてしっかりまぜ合わせます。レシピにはないのですが、思いつきで家にあった“干しエビ”と“さきいか”もちぎって入れてみました。とろりとした白粥がつなぎになり材料が混じりあって馴染み、できあがったヤンニョムだけでも美味しそう~ ちょっと味見をしてみると、すでにもう大好きな韓国の香りにあふれています。
あとは見よう見まねで水抜きした白菜を一枚ずつめくりながら、あいだにヤンニョムを塗り込んでいきます。テレビで見た韓国のオモニ(お母さん)たちが、庭にひろげた筵のうえで楽しそうにキムチを漬けているシーンを思い浮かべながら、気分だけはわたしも仲間入り、美味しくなあれ、美味しくなあれとこころのなかで唱えながら作業します。上の写真が満遍なくヤンニョムをまぶして樽に漬け込んだばかりの状態です。
こちらが漬けて三日目、見た目がキムチらしくなってきました。わたしはうっかり漬物だからと一日に一回、上下を入れ替えていたのですが、先生によると一度漬け込んだらかき回さず、そのまま置いておくのがいいとのこと。あらら・・・やっちゃった。
ここまできたら、タッパーに移して冷蔵庫で保管しながら食べられるそうです。早速食べてみると思ったより辛味が少なく、辛いもの大好きの夫とわたしはもう少し唐辛子粉を入れてもよかったかな、というくらいの塩梅です。そのままキムチとして食べるのはもちろんのこと、日にちが経って酸味が出てきたら、ヤンニョムの漬けだれごと使ってキムチ鍋にしたり、豚肉のキムチ炒めなどにも最適なのだそうです。
こちらが韓国家庭料理の店『妻家房(さいかぼう)』さんの外観。JR八高線(はちこうせん)の高麗川(こまがわ)駅前、ロータリーのなかにあります。
ところで今日2月1日は、韓国の설날(ソルラル)という旧正月の名節の日です。日本の正月は新暦で祝いますが、韓国や中国など東南アジアの多くの国々では今でも旧暦で正月を祝う習慣があり、月の満ち欠けに基づく旧暦では日付けに若干のずれが生じるため太陽暦のように毎年同じ日が元日とはならず、今年2022年は今日が旧暦の1月1日に当たります。
ソルラル(旧正月)やチュソク(秋夕・日本のお盆にあたる)の名節の折には、家族が集まってお墓参りをしたり、家ではチャレ(茶礼)という韓国式の法事が行われます。こちらはご先祖さまへのお供えものを並べたチャレサン(茶礼床)。写真はKONEST(コネスト)の“韓国の旧正月(ソルラル)”の記事よりお借りしました。
そのため韓国ではいわゆる新暦での年末年始の時期に連休はなく、1月1日のみが祝日で、翌日からすぐに仕事や学校なども通常に戻るそうです。その代わり旧正月には日本の正月と同じように正月休暇があり、ソルラルの前後各一日が祝日になって、今年の場合は土日がくっついたので新暦1月29日~2月2日までの五連休となるところが多いようです。
セベ(歳拝)では新調した韓服を着て、両親や祖父母に形式に則った拝礼をします。セベを受けた目上のひとは、今年一年がよい年であるように祈りながら、トクダム(徳談)ということばをかけるのだそうです。写真は同じくKONESTよりお借りしました。
ソルラルは一年のはじまりを祝う連休なので、田舎のあるひとは帰省したり、家族や親戚で集まってのんびり休暇を過ごすのは日本と同じです。子どもたちは両親や祖父母にセベ(歳拝)といわれる新年の挨拶をして、セベトン(トンはお金の意)というお年玉をもらいますし、家族みんなでユンノリという伝統的なお正月遊びをするのも、日本の凧揚げや羽根つきに似ているなぁと思います。そして韓国のソルラルに欠かせない食べものといえば떡국(トックㇰ)という韓国ふうお雑煮で、楕円形の餅と牛肉の出汁で作ります。떡(トック)が餅、국(クㇰ)がスープという意味なので文字通り餅入りスープというわけですね。
我が家もソルラルに合わせて떡국(トックㇰ)を作り、ちょうど食べごろになったキムチとともにまずナムギルさん(の写真)に差し上げました。ご本業の俳優に加えてGilstory NGOとGilstory ENTの代表としての仕事にも誠心誠意取り組まれ、休む暇はあるのだろうかと心配にもなるのですが、ソルラルのときだけはきっと、愛するご家族とタムタム、モルと一緒にお過ごしになっていると信じています。
ということで、わたしたちもお相伴(しょうばん)して今夜は떡국(トックㇰ)をいただきます。韓国海苔とごま油をたらすといっそう風味豊かで、寒い夜には何よりのご馳走、見た目以上に肉や野菜も入っているのでお腹も大満足です。で、かんじんのキムチは手前味噌ながらはじめてにしては上出来(・・・たぶん)で、これからしばらくは我が家の質素な食卓を彩ってくれそうです。そして今回はじめて作ってみたヤンニョムそのものの美味しさが忘れられず、次はキムチの調味料としてではなく料理用として何度か作り、“我が家のヤンニョム”の味を見つけてゆけたらいいなぁと思っています。
yantaro