難戦いうて片付けては死んだ者に失礼だ。もともと敵が大集団でやってくるという様子については、ワシの手元から何度も報告し、警報したところだ。それを軽視しきっていたためにこの不始末だ。そうは思わんか?
こんなことはいかんのだ……、こんなことは、イカンのだ!!
陸軍少将 秋山好古
「騎兵とは冒険と襲撃じゃ」
戦場に在ってまで自分が生きがいとした騎兵への夢を語る好古(阿部寛)。演じている俳優の好さもあいまって、この鼻が高いことが特徴である酔っ払い軍人は夢を語ることがよく似合う。好古は風呂嫌いだったというから戦場では同席したくはないが、もし『坂の上の雲』の登場人物に直に会えるとしたらこの酔っ払い男を迷わず選ぶ。血で血を洗う戦場にあっても、笑顔を絶やさず余裕がある好古のような人物の下で働きたい、戦士なら誰しも思うだろう。戦史上で言えばまもなく騎兵の時代は終わる。騎士道の象徴であり、また武士道を体現するような好古は日本戦史上の最後の華やかな時代を生きたといえるかもしれない。
その好古が自軍の将兵のおびただしい死に様に接し、厳しい怒りを帝国軍の参謀にぶつけたのが冒頭の言葉である。好古はロシア軍の情報を逐一報告したが、その都度陸軍参謀本部に握りつぶされた。旅順陥落に際しては的確な命令で第三軍を救った児玉参謀長(高橋英樹)にしても
「ロシアが攻めてくるのは春になってからじゃろう。ナポレオン軍をロシアの国土におびき寄せて勝ったときとはいくさのやり方が違う」
と別人かと思うほどのんびりした凡庸さをさらけ出した。日本人は椅子に寝そべってのんびりしている時間が長くなるととたんに思考が鈍くなるらしい。菅直人前総理が福島第一原発の事故の際、自らヘリに乗って出かけたのも安楽椅子に座っていては思考が働かないことを知っていたのかもしれない。いつも動いていないとどうにもならないのが日本人なんですかね。
ここで参謀本部が見せたのは前線で得た情報を軽視する失態を犯したことだ。日本は情報を得ること、生かすことが極端に下手だ。先の金正日死去の際は正午に国営放送が行われることが総書記死去と読みきれずに野田首相を街頭演説に出発させた。体調が悪いことは日々のニュースレベルでも流れているのだからこれを不測の事態としてあやふやに扱うのは国際情勢の読みが足りない。かと思えば福島第一原発から放射線が漏れた際は、放射線測定システム・SPEEDIの数値をまったく公表せず、しかもその情報を総理官邸が管理するのか、それとも原子力委員会が管理するのかが曖昧なままにしたために混乱に拍車をかける失態を演じた。
情報管理が甘いのは日露戦争当時から変わっていない。日本にとってはこれからもそこが弱点として残り続けるだろう。まったく近代国家の体をなしていない。
32万人を誇るロシア軍と25万人が精一杯の日本軍の戦いは、ロシアのクロパトキン司令官の不可解な怯え(日本軍の勢力をを過大に評価した)によって辛くも日本が勝利した。もはや天佑としかいいようがない勝利だった。この回は好古の爽快さばかりが印象に残る。正直、好古に魅力がなかったら小説も読まなかっただろうし、ドラマも見なかった。今、ブログを書いているのも秋山好古のおかげです。
少将脱線してしまいました。この奉天の戦争でロシア軍が壊滅していないことを後世の歴史家および軍略家がどう評価したのだろう。その分析の誤りが太平洋戦争の敗戦につながったのでしょうか。
さてドラマは次回で最終回を迎えますが、日本海海戦を詳細に書く気にはなれません。暗い結論を書いてしまいそうですが最後までお付き合いのほどを。