医療政策について考えてみる | 真の国益を実現するブログ

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真の国益を実現するため、外交・国防・憲法・経済・歴史観など
あらゆる面から安倍内閣の政策を厳しく評価し、独自の見解を述べていきます。

我が国の皆保険制度は世界に誇れるものと認識しています。
そのせいもあってか、我が国は平均寿命が世界で最も長い国の一つであり、健康寿命(WHO(世界保健機関)によって提唱された新しい健康指標で、「日常生活に制限ない期間の平均」)についても、平均寿命同様に最も長い国の一つです。
https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/tyojyu-shakai/sekai-kenkojumyo.html

しかしながら、しっかりとしたエビデンスに基づいた医療政策が立案されているか否かについては、欧米に比して、疑問符が付くようですね。

『津川友介著「医療政策」の教科書』においては、「日本では政策研究はあまり活発ではなく、その結果として、エビデンスに基づいた医療政策は期待されているほどには実現していないと思われる。」と記されています。

当著においては、医療経済学をはじめ、統計学、医療経営学、医療倫理学等々が解説されています。

拙ブログでは、特に予防医療は医療費抑制につながる等改革論で持て囃されている主張とは異なるところなどを抜粋しつつ、述べていきたいと思います。

★医療費の自己負担割合と健康状態との関係 
 アメリカ国民に自己負担割合を①無料、②25%、③50%、④95%にランダムに割り付けられた医療保険を無料で提供し、3~5年間にわたり、医療費をどれくらい使ったか、健康状態がどのように変わったか追跡調査。
 結果、自己負担95%のプランの人は無料のプランよりも医療サービスの消費量が3割ほど少なかったものの、健康状態には差がなし。ただし、最も貧困で健康状態の悪かった6%の人々に関しては、30個中4つの項目で健康のアウトカムが悪化した。
 つまり、自己負担を高くすることで健康に悪影響を及ぼすことなく医療費削減することができるものの、貧困かつ不健康な人たちに関してはこの限りでないという結論。

★自己負担割合とモラルハザードとの関係
 ランド医療保険実験では、自己負担割合の存在によって事後のモラルハザードは顕著に抑制されたものの、事前のモラルハザードにはほとんど影響はなかった。つまり、自己負担ありのプランでは、受診回数や医療費は抑制されるものの、喫煙率や肥満度が低下することはなかった。

★予防医療に医療費抑制効果があるのか
 予防医療の中で医療費抑制効果のあるcost-savingであったものは20%弱だった(予防医療の8割に医療費抑制効果はない)。そして、この割合は治療と比較して多いわけではなく、予防医療が治療と比べて特別に医療費抑制効果があるものの割合が高いわけではないということが明らかになった。さらに注目すべきは、治療の中にも医療費抑制効果のあるものが20%程度存在しているということ。したがって、予防医療vs治療という二項対立で考えるのではなく、予防医療であれ治療であれ約2割のcost-savingである医療行為をまずは広くカバーするのが医療費抑制には最も有効な政策であると考えられる。

「量に対する支払い方式」(=出来高払い)、包括払い方式「質(価値)に対する支払い方式」、P4Pとの比較
 世界の潮流としては、今までの検査や手技の提供量が多ければ多いほど医療機関への支払いが多くなるという「量に対する支払い方式」(=出来高払い)には問題があることを多くの国が認めている。このシステム下では、提供される医療サービスの量が最適な水準よりも高いところで均衡状態に達してしまう(過剰医療につながる)から。世界中の国が医療費高騰に苦しんでいる中で、「量に対する支払い方式」から、包括払い方式のような「質(価値)に対する支払い方式」に移行していくのは自然の流れ。しかし、包括支払い方式の一番の問題点は、医療行為を少なくすれば少なくするほど医療機関が儲かってしまい、その結果として患者にとって無益(有害)な医療サービスだけでなく、有益な医療サービスも同時に提供量が減少してしまう(過少医療につながる)という点。この包括支払い方式の弱点に対抗するために導入されたのがP4P(診療ガイドラインに則った医療行為を行ったり、患者の死亡率や合併症を減らした時には、医療機関もしくは医師個人に経済的インセンティブを与える制度)というツールであるととらえることができる。包括支払い方式とP4Pを組み合わせることで、前者が医療機関に対してより少ない医療費でケアを提供するインセンティブを与える一方で、後者がアウトカムを良好なものにするインセンティブを与える。
 量に対して支払い続けることには問題があるので、量に対して支払うしかない(他に選択肢がない)ということで、世界中においてP4Pには大きな期待が寄せられている。ただし、どのような制度設計のP4Pがよいかにはまだエビデンスがないので、それがはっきりと分かるまでは(制度変更するコストが無駄になってしまうため)やみくもにP4Pを導入するべきではないという考え方もある。もし仮にP4Pを日本で導入するとしても、複数のデザインのP4Pを用意して、きちんとそれぞれのインパクト評価を行いながら、最も効果的な制度設計を検証し、必要に応じて調整を加えていくというプロセスが必要になってくると思われる。

★病気の原因を個人の責任に求める(健康の自己責任論)ことには問題あり
・個人の行動のうちどれが自発的で、正確な情報に基づいたもので(健康にどのような影響があるかの知識を有した上での判断で)、熟考したうえでのものであるであるかは判断がとても難しい。
 一般的に、たばこを吸う人やアルコール中毒になる人の教育水準は低い。
・責任の所在を個人に求めることによってその人の健康に悪影響がある場合がある。
病気が本当に個人の行動の結果によるものであるかを決めることは恣意的になってしまう。
 同じような生活習慣をしていても病気になってしまう人もいれば、病気にならない人もいる。そもそも健康を規定する因子は、個人的な原因だけでなく、遺伝的な原因や社会的な原因も関与する。

・たばこ吸う、不健康な食生活をする、運動をしない、などの比較的小さな選択の積み重ねが、肺がんや心筋梗塞などの大きな健康上のアウトカムにつながるため、その日々の小さな行動と比べて(病気になった責任)という不釣り合いなほど大きな責任を個人に負わせることになってしまうという問題がある。
⇒まとめると、病気の責任を個人に求めることで、病気になってしまった人が懲罰的なデメリットをこうむる政策は、貧困層や教育水準の低い人ほどペナルティを受け、社会の格差を広げる方向につながってしまうため、問題あり。

★格差と健康への影響
・ジニ係数(高いほど格差が大きい)が高いほど統計的に有意に死亡率が高くなり、健康の自己評価が低くなるという関係が認められる。
・所得の少ない人の寿命は短く、所得が多い人の寿命は長い。なんと、米国のデータを用いた研究結果では、所得上位1%の人は下位1%の人と比べると、男性では約15年、女性では約10年寿命が長いことが分かった。
・日本のデータを用いた研究では、所得の格差よりも、個人の所得水準のほうがより健康に強い影響がある。

★適正な医師数
・アメリカでは何十年も前から適正な医師数の予測に関する研究が数多く行われており、実際に政策にも影響を与えている。その数十年にわたる歴史の中で分かったことは、適正な医師数の予測モデルは「あてにならない」ということ。
・(筆者の意見だが)日本の医師不足には、コスト等の理由から、医学部新設よりも医学部定員増で対処するべき。


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