ラストスパートでのスプリント | 酒井根走遊会のページ

みなさんこんにちは。

 

酒井根走遊会です。

 

今回の記事は、“ラストスパート”についてです。

 

トラックで行われる中・長距離種目では, ”ラスト1周の速さ” “ラスト100mの速さ”に注目が集まります。

競技に取り組む選手であれば、最後の勝負を決めるスパートの速さに多くの選手があこがれを持ちます。

さてそんな“ラストスパート”ですが、どうしたら“ラストスパートの強い選手”になれるのでしょうか。

 

ラストスパートを最大限発揮する3要素

①    最大スピード

②    余力

③    最大下スピードとタイミング

 

①    最大スピード

100mを15秒の選手が、レースのラスト100mを13秒で走ったり、

200mを30秒の選手が、レースのラスト200mを27秒で走ったり、

することを目指すことは現実的ではありません。

純粋に100m・200mの全力だけで発揮できるスピードが、ラストスパートでも発揮できる限界スピードと考えてよいでしょう。

そのため“最大スピード”をまず高めることが必要といえます。

 

※最大スピードのトレーニングに関しては以下のバックナンバーが参考になるかもしれません

 

 

 

 

 

 

②    余力

実は“余力”というのは、中長距離のレースで“ラストスパート”を決める最も大きい要素といっても過言ではありません。

前述したとおり、スプリントの限界スピード以上のスピードを中長距離のレースで発揮することは不可能です。中長距離のレースではラスト100mで全力を出しているにもかかわらず、100mのベストが11秒の選手がレースのラスト100mで13~14秒になるということも珍しくありません。特に800mや1500mのレース(もしくはロングスプリントの400mなど)は高速レースであればその幅が顕著に現れます。

これは、

そのレース距離で発揮する能力・体力をレース中に限界まで使っていると、どんな人間でもラストスパートは遅くなる

ということです。

例えば、1500mや1マイルのレースで世界記録を狙いに行くようなレースでは、ペースが高速かつ一定に保たれます。そのようなレースの場合、ラスト1周・ラスト200m・ラスト100mで劇的にペースが上がることはほぼありません。

それは“ラストスパート”をする余力がないことを意味しています。

対照的に、オリンピックや世界選手権などの“勝利”を目指すレースでは、多くの選手は“余力”を残しつつレースを進めて“ラストスパート”のチャンスに備えます。

 

とはいえ、

『あの選手は好記録・自己ベストを記録したレース関係なく、いつも“ラストスパート“が強いよ!』

という意見も聞こえます。

それはその選手が、

#1 もともとの最大スピードがあること

#2 LTペース、有酸素ペース、無酸素ペースの使い分けがうまいこと

#3 ラストスパート前に“ため“を作っている

ということが要因として考えられます。

この3要因の中で、#2・#3はレース中の判断力が大きくかかわってきます。

限界を超えないペースを発見すること

もしくは

ラップタイムの遅れを作っても最後の200mで取り返せると考えて回復時間を作れること

これらを判断しながらレースを進めた結果が、“ラストスパート”に繋がっていると考えられます。

 

“余力”を残しながらレースを進めているとコーチに『自己満足の走りをしてるんじゃねぇ!』と怒られたり、『積極的に行きなさい。』と諭されたりするなど、中高大学生やまだレース経験の少ない選手にとってはその機会を自ら作っていくことは難しいかもしれません。

しかし、実力が拮抗した多くの選手と競り合えるレースで試してみることは、練習以上に“余力”の取り方と、そのレースでのペース・距離・展開などから“余力”と発揮できるスピードを分析する材料になります。

たまには、“限界を早く迎えるリスク“ではなく、

どこまで楽に走っても最後で取り返せるか

という“攻めないリスクと緊張感”で焦りを押し殺しながら走ることもしてみるとよいでしょう。


 

③    最大下スピードとタイミング

“余力“で最後にどれだけスピードが発揮できるかわかってくると、最後はそのスピードを”いつ発揮するか”ということになります。

ゲームのように自分のエネルギー量・相手のエネルギー量が見えているわけではないので、仕掛けるタイミングは非常に重要です。

さて“ラストスパートを決めよう“となった時に、重要なポイントは”最大下スピード”の発揮です。

“最大スピード”ではなく“最大下スピード”です。

最大スピードというのはおよそ30m~60mで尽きてしまいます。

そこで“最大下スピード”を適切に発揮してラストスパートもペース配分を考えます。

中長距離のレースでの“最大下スピード“は300mや400mを疾走したときに、脱力して大きく速く進んでいるときの感覚と言い換えられると思います。

仕掛ける瞬間に、“強く”地面をプッシュしたり、“大きく”腕を振ったりといった切り替え動作があると思いますが、この強く動く3~4歩の後には“最大スピード”ではなく“最大下スピード”の努力感に移行します。

そしてスピードに乗ったところで再度全力を絞り出せるポイントを決めてスパートします。

もし相手が前にいたり、横で競ってきた場合には、相手をあおってペースを上げさせることは、自分のペースをうまく“最大下スピードに乗せる”ために効果的です。

200mや400mのインターバルで一人で行うときついペースが、

パートナーの後ろもしくはグループの中に入っただけで、ゆとりをもって周りを見れるくらいの余裕ができるペースになる。

という経験は多くの人が体験したことがあると思います。

この状況をレースのラスト300mや200mでうまく作り出すことによって、うまく最大下スピードに自分の動きをのせて、ラストスパートにつなげることができます。

 

 


風強い日のレースでは、同じペースでも余力・加速力が変わってくる。

相手のラストスパートに合わせて加速するも、最大下スピードにのせる。

5000mペースアップからラスト勝負。800mが本職の選手はキックのタイミングが絶妙。

 


最後の最後、ラスト100mで再度プッシュするか、30mで差すか、ここはその時の自分の直感を信じるしかありません。。。

私は中学2年で初めて競技場で3000mを走って以来7~8年、あまり“ラストスパート“に自信がありませんでした。記憶の中ではラストで競り勝ったことは高校3年の14分台を初めて出したレースの一度きりでした。

しかし、まずは“最大スピード”の強化で、発揮できるスピードを知ることができラスト1周や200mでタイムを稼げることがわかりました。

さらに、ここ最近1500mや3000mの練習・レースに取り組むことによって、この年になってラストスパートを楽しめるようになりました。

ラストの勝負は陸上競技の最も楽しい部分の一つに、今になって気が付くのは少し遅すぎな感じは否めませんが、まだまだこれからという気分でレースに臨みたいと思ったレース前日です。

 

中長距離のみならず陸上競技を語るとき“記録”を比べることがまず第一に行われるのではないかと思います。しかしオリンピックや世界大会で観衆を沸かせるのは、競り合いの中に見られる選手が全力を振り絞っている瞬間、勝負を決める一瞬だと思います。

そして、陸上競技を楽しむ私たちも、

飲み屋で“記録”比べて楽しむのではなく、競技場での競り合いや勝負をいくつになっても楽しめればと思います。