根津さんのこと | Roll of The Dice ー スパイスのブログ ー

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稀に・・・となるかも、ですが、音楽や演劇、書籍について書きたく思ひます。

【本を読もう 7日間投稿キャンペーン】。10冊目は根津仁香『根津甚八』。
俺は状況劇場在団時の根津さんを知らない。彼は70年代、唐十郎の状況劇場の看板役者だったのだが、根津甚八に出会ったのは諸人と同じくテレビドラマ。まず『黄金の日日』、そして鶴田浩二主演『男たちの旅路』。いずれもNHK。
まず前者で石川五右衛門に惚れた。次いで後者の、いきなり売れるも屈託を抱えている歌手に。ともに70年代後期のものだが、当時状況劇場は東京中心でやっていて、田舎者の自分がようやく観られたのはその末期。その時にはもう根津さんは劇団にいなかった。

 

自分は根津さんが腹話術師を演じた『少女仮面』の脚本を高校時代に読み、著しく感銘を受けた。大学へ行くのはよして状況劇場の試験を受け、落ちてもよいから追っかけたい。そう思いつめ、東京へ出て食うために新聞奨学生のパンフレットを取り寄せたものだ。しかし日和った。
爾来、唐さんの『腰巻お仙 - 特権的肉体論』や扇田昭彦(朝日新聞文化部記者。宝塚歌劇の機関誌『歌劇』で劇評を書いていた)『唐十郎の劇世界』を愛読。後年宝塚やストレートプレイに親しむ、その土台ができたのかも知れない。
今から10年ほど前、根津氏の奥様・仁香(じんか)さんの本が出た。その名もずばり、『根津甚八』(講談社 )。

 


 

根津氏が病を得、人身事故を起こしてほとんど動けなくなった当時に奥様は、夫とともにいったん立ち止まり、根津さんの来し方を著そう。それが執筆の動機とか。
生い立ちから状況劇場との出会いと別れ、映像分野への進出。趣味であるバイクや釣り、そして発病・・・唐十郎さんはじめ関係者へのインタビューをして敢行・刊行に至った本書は、痛みとともに希望の書。なぜか。
1つはエピローグ。根津仁香氏はこう記す。
「根津が体調を崩さないでくれたら、それに越したことはなかったでしょう。でも、こういう状態になったからこそ、初めて、深く、根津を理解することができたような気もするのです」
もう1つは、唐さんでもTVプロデューサーでも、若松孝二監督そして黒澤監督の右腕・野上照代さんに聞いても
「状況劇場が、彼を作り鍛えた」
そう答えたこと。まるで、どこを切っても血が噴き出すように。

写真下が状況劇場時代の根津甚八。ご承知のとおり、氏は本書上梓の6年後に亡くなったが、奥様の思いと状況劇場は、根津さんとともに今なお私たちのものである。 

 

 

https://www.youtube.com/watch?v=Pz3P_3JWlLo

 

 

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