この曲は、もともと「テノール歌手用」に書かれたと言われており、その「第一選択」は、やはり、「テノール」による歌唱だと思います。

 

そして、このフリッツ・ヴンダーリヒ(1930-66)のレコード(1963年5月26日録音)は、「永遠不滅の輝き」を誇っています(ピアノは、ハインリヒ・シュミットです)。

 

「神から授かった美声」とも称えられる、「夭折の天才」による「伝説の名盤」を、「譜面付き」でどうぞ!!

 

 

 

 

こちらの、ペーター・シュライアー(1935-2019)のテノール、ノーマン・シェトラー(1931-)のピアノによるライヴ(ドイツ)もまた「聴きもの」です。

 

 

 

「バリトン」と言えば、やはり「この人」。

 

「20世紀」を代表する「世界的大歌手」、ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(1925-2012)が、「最も重要な相棒」であった、ジェラルド・ムーア(1899-1987)のピアノで歌ったものです。

 

「ドラマティック」な表現から、「デリケート」な表現まで、まさに「自由自在」です。

 

 

こちらも「20世紀」を代表する「大歌手」で、フィッシャー=ディースカウの「最大のライバル」とも呼ばれたヘルマン・プライ(1929-98)です。

 

「抒情派の大バリトン」であり、「技巧」よりは、その「美声」で、「詩の世界」を「美しく」聴かせてくれます。

 

この録音のピアノは、レナード・ホカンソン(1931-2003)の手によります。

 

これまでの記事(「ベートーヴェン」がテーマの記事)

 

「歌曲」については、こちらの「シューベルト」がテーマの記事、もしくは、テーマ「クラシック音楽」(シューマン「詩人の恋」など)もご参照ください。

 

 

「記念サイト」もまだあります...。

 

 

さて、「3月26日」は、「楽聖」ベートーヴェン(1770-1827)の「命日」でした。

 

 

昨年(2020年)は、「生誕250周年」で、まさに「ベートーヴェン・イヤー」でもありましたが、実は、「来年(2022年)」も「没後195周年」(ちと「強引」か?)に当たっており、この「ベートーヴェン・イヤー」は、「まだまだ」続きます。

 

 

本当に、「今回」の「この選曲」ほど、「悩んだ」ものは「なかった」と言えるかも知れませんが、やはり、「春」ということでもあり、「交響曲」など、「重厚な管弦楽曲」よりは、「シンプルな曲」の方が良いと考えた結果、出て来たのが、今回のこの曲です。

 

 

「An die ferne Geliebte "はるかなる恋人に寄す"」(1816年4月完成)。

 

 

やはり「私」らしく、「声楽曲」、「連作歌曲集」で行ってみたいと思います。

 

 

今回のこの作品は、実は、「声楽史上"初"」となる「連作歌曲集」とも言われているもので、後の「ロマン派」、シューベルト(1797-1828)や、シューマン(1810-56)に「先駆ける」作品と言えるものです。

 

 

(参考記事)

 

 

「全6曲」からなるこの歌曲集は、「切れ目なく」演奏され、各曲が「独立した性格」を持つシューベルトの連作歌曲集とは、かなり「異なる」印象も受けます。

 

その「全体」を、大きく「1曲」と見なすことも出来、その「シンメトリック」な構成から、「ロンド(形式)」のようであると評する研究者もいます。

 

 

また、ピアニストの福間洸太朗さん(1982-)は、フランツ・リスト(1811-86)編曲による、この曲の「ピアノ独奏版」(1849)を弾くにあたり、こちらの動画で、大変「詳しく」、また、「分かりやすく」、解説をしてくださっています。

 

 

「ベートーヴェン」を語る時に、どうしても「外せない」のが、その「耳の病気」ということでもありますが、そのことと、「同じくらい」に語られているのが、いわゆる、「不滅の恋人」の存在です。

 

 

(参考)こちらの記事でも、「不滅の恋人」について触れています。

 

 

ベートーヴェンにおける「不滅の恋人」については、数多くの「有力な説」が出されてはいますが、そのどれもまだ、「推論」の域を出ることはなく、現在でも「論争」は続いています。

 

 

上掲の福間洸太朗さんの動画でも挙げられている通り、「最も有力」と思われているのが、ベートーヴェンの「ピアノの生徒」でもあった、「ヨゼフィーネ・ブルンスヴィック」(1779-1821)ではないかということですが、一方で、「アントニー・ブレンターノ」(1780-1869)を推す声もいまだに根強く、数ある「候補」の中では、ほぼ、「この2人」に絞られて来ているようです。

 

(とは言え、1816年の夏、ヨゼフィーネが、バーデン=バーデンにて、ベートーヴェンと「密かに会っていた」という「証拠」があるようです。また、1812年7月に書かれたとみられる、「宛先不明」の手紙の内容から、「その日付け」に手紙が届く距離に、「アントニーはいなかった」ことが明らかになっているということです...)

 

 

バリトン歌手の明珍宏和(みょうちんひろかず)さんは、自身の「2013年5月17日付けの記事(「アメブロ」)」にて、「アントニー」を「不滅の恋人」として推す内容を書かれています。「参考」までに...。

 

 

また、当時のベートーヴェンは、「耳の病気」が悪化し、ほぼ「聴こえない」状況であったことに加え、「結婚の断念」(「不滅の恋人」とのロマンスも「終焉」を迎え...)、また、ロブコヴィッツ候(1772-1816)(今回の曲は、「生前」に、このロブコヴィッツ候に「献呈」されています)ら、「パトロン」となっていた貴族の「没落」、「死去」が相次ぎ、「年金支給」にも「影響」が出ていました。

 

そんな中、弟カスパール・カール(1774-1815)が「胸の病気」を悪化させ、1815年11月15日に亡くなってしまいました。

 

その死の「前日」に作られた「遺言状」では、弟の遺児カール(1806-58)の「後見人」となるはずだったベートーヴェンでしたが、11月22日には、「貴族裁判所」により、カールの母ヨハンナを「正後見人」とするよう「裁定」がくだされました。

 

ベートーヴェンは、この裁定を「不服」として「上訴」し、翌年1月16日には、「単独後見人」としての権利を得ることに「成功」しましたが、この甥、カールは、後に「ピストル自殺未遂事件(1826年7月)」を起こすなど、「晩年」のベートーヴェンにとっては、最大の「悩みのタネ」ともなった人物です...。

 

ウィーンでは、「音楽」をめぐる状況も、次第に「変化」していったということですし、こうした、さまざまな「ストレス」により、「曲を書けない」、いわゆる「スランプ」の状態に陥りました。

 

1824年に完成した、「交響曲第9番ニ短調 op.125 "合唱付き"」も、「最初のアイディア」としては、この頃、「1815年」には出始めているのですが、そうしたこともあり、なかなか作曲が「進まない」状況でした(その後、自身の体調悪化も進んだことにより、いわゆる「後期」に完成された「大曲」は、「数年がかり」のものも珍しくはありません)。

 

 

(参考)「交響曲第9番ニ短調 op.125 "合唱付き"」についての記事

 

 

しかしながら、一方で、「ふっ切れた」といったこともあったのでしょう。

 

 

1802年10月に書かれた「ハイリゲンシュタットの遺書」が、「交響曲第3番変ホ長調 op.55 "英雄"」(1804)を生み出し、その後の「傑作の森(中期)」の「原動力」ともなったように、今回のこの曲、「はるかなる恋人に寄す」を書いたことが、一種の「デトックス効果」ともなり、「スランプ」を脱して、より「成熟」した音楽を生み出した、「後期の世界」への扉を「開いた」と言うことも出来るのです。

 

(ベートーヴェンに詳しい、「音楽学者」、平野昭先生によれば、「声楽作品に近づくことで、ロマン主義(ロマン派)に接近する時代」だったということです。まさに、「時代の分かれ目」と言うことが出来ますね)

 

(参考)「交響曲第3番変ホ長調 op.55 "英雄"」についての記事

 

(参考記事)

 

 

この「はるかなる恋人に寄す」は、当時「医学生」であった、アロイス・ヤイテレス(1794-1858)によって書かれた詩によるものですが、おそらく、ベートーヴェンが「依頼」したものだと言われています(詳細は、「不明なところもある」ということです)。

 

ベートーヴェンは、「戦争負傷者」に対するアロイスの「慈善活動」に「共感」し、「激励」の手紙を送ったところ、「返礼」としてその「詩」が送られて来たということですが、このアロイスが、「未出版ながらも詩を書いている」こと、ウィーンの「劇場関係者」、「音楽関係者」たちと「親しくしていた」という情報を「知っていて」、これまでの「経緯」を書いて、「依頼」したものではないかとする見方があります。

 

この曲は、シューマンによって愛され、「幻想曲ハ長調 op.17」(1836-38)などの曲に、その主題を「引用」した箇所が見受けられます。

 

また、ベートーヴェン自身が、この作品を完成した1816年には、続けて、「ピアノソナタ第28番イ長調 op.101」も「完成」となっており(夏頃、滞在先のバーデンにて)、「スランプ」からの「脱却」を示しているものと感じられます。

 

 

すでに「後期」の様式にて書かれている「ピアノソナタ第28番イ長調 op.101」。

 

「循環」するような曲の形式は、今回の歌曲集と同様に見られる「特徴」でもあります。

 

アルフレート・ブレンデル(1931-)の、「最後」の全集録音(1992-96)からどうぞ。

 

 

 

それでは以下に、「はるかなる恋人に寄す」の原詩を載せておくことにいたしましょう。

 

ドイツ語に特有の「ウムラウト(母音の上の2つ並んだ点)」については、「代替表記」にすると「煩雑」になりがちなので、そのままにしてあります。

 

また、「エスツェット(ß)」に関しては、「代替表記」の「ss」で記しています。

 

対訳については、冒頭の、フリッツ・ヴンダーリヒ(1930-66)のCDに添付されている、西野茂雄さんのものをお借りしています。

 

 

また、「興味深い演奏」をひとつ見つけました。

 

 

こちらは、森本祐二さんという方が、ご自身でキーボードを弾かれ、それを「録音」したものに合わせて、自ら、「歌って」もいるそうです。

 

 

ご自身は「謙遜」されていますが、「なかなかの出来」だと思いませんか?

 

ちなみに「バック」は、ベートーヴェンの「自筆譜」です。

 

こうしたところからも、「興味」を持ちました。

 

 

季節はもう「春」です。

 

 

シューベルトの最後の歌曲集「白鳥の歌(Schwanengesang) D.957」(1828)の、いわゆる「レルシュタープ(詩人の名)歌曲」は、今回の曲と、とても「近い」雰囲気を持っているとも思います。

 

その中から、「春の憧れ(Fruhlingssehnsucht)」を、ヘルマン・プライの名唱でどうぞ!!

 

同じく、ヴィルヘルム・ミュラー(1794-1827)の詩による連作歌曲集「美しき水車小屋の娘(Die schone Mullerin) op.25, D.795」(1823)から、第18曲「しぼんだ花(Trockne Blumen)」。

 

シューマンが、ハインリヒ・ハイネ(1797-1856)の詩に曲を付けた、連作歌曲集「詩人の恋(Dichterliebe) op.48」(1840)の第1曲、「美しい5月に(Im wunderschonen Monat Mai)」。

 

 

以上の曲は、すでに「正式な記事」として上げてあります(記事冒頭に挙げているリンクよりどうぞ)。

 

 

それではまた...。

 

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An die ferne Geliebte  はるかなる恋人に寄す

 

1.Auf dem Hugel sitz ich spahend

In das blaue Nebelland,

Nach den fernen Triften sehend,

Wo ich dich, Geliebte, fand

 

1.ぼくは丘の上に座っている

青く霧にかすむ景色に見入りながら

恋人よ、はじめてあなたに出会った

あの遠い牧場の方を眺めながら

 

Weit bin ich von dir geschieden,

Trennend liegen Berg und Tal

Zwischen uns und unserm Frieden,

Unserm Gluck und unsrer Qual

 

ぼくはあなたから遠く離れている

ぼくたちの間を、ぼくたちの平和を

ぼくたちのしあわせを、ぼくたちの苦悩を

山と谷がひき離している

 

Ach, den Blick kannst du nicht sehen,

der zu dir so gluhend eilt,

Und die Seufzer, sie verwehen

In dem Raume, der uns teilt

 

ああ、もえ立ってあなたに注がれる

この視線をあなたは見ることができない

ぼくのため息は、ぼくたちを隔てている

空間の中にむなしく消えてしまう

 

Will denn nichts mehr zu dir dringen,

Nichts der Liebe Bote sein?

Singen will ich, Lieder singen,

Die dir klagen meine Pein!

 

なにひとつ、あなたに届こうとはせず

なにひとつ、愛を伝えようとはしないのか?

それならば、ぼくは歌を歌おう

ぼくの嘆きをあなたに告げる歌を!

 

Denn vor Liedesklang entweichet

Jeder Raum und jede Zeit,

Und ein liebend Herz erreichet,

Was ein liebend Herz geweiht!

 

愛の歌声の前では、どんな空間も

どんな時間も逃げ去るのだから

そして、恋する心は、恋する心が

あがめるもののもとへ行きつくだろう!

 

2.Wo die Berge so blau

Aus dem nebligen Grau

Schauen herein,

Wo die Sonne vergluht,

Wo die Wolke umzieht,

Mochte ich sein!

 

2.灰色の霧を破って

山々があんなに青く

こっちの方を向いているところ

太陽が最後の光を投げかけ

雲が流れて過ぎるところ

あそこにぼくはいたいものだ!

 

Dort im ruhigen Tal

Schweigen Schmerzen und Qual

Wo im Gestein

Still die Primel dort sinnt,

Weht so leise der Wind,

Mochte ich sein!

 

あそこの静かな谷の中では

悩みも苦しみもひっそりと鎮まる

岩原の中で、サクラソウが

静かに思いにふけっているところ

風があんなにやさしくそよぐところ

あそこにぼくはいたいものだ!

 

Hin zum sinningen Wald

Drangt mich Liebesgewalt,

Innere Pein

Ach, mich zog's nicht von hier,

Konnt ich, Traute, bei dir

Ewiglich sein!

 

あの思いに沈む森の方へと

愛のちからが、胸のいたみが

ぼくを駆り立てる

ああ、ここを去ろうなどとは

夢にも思わなかっただろうに

したわしいひとよ、もしもここで

いつまでもおそばにいられるのだったら!

 

3.Leichte Segler in den Hohen,

Und du Bachlein klein und schmal,

Konnt mein Liebchen ihr erspahen,

Grusst sie mir viel tausendmal

 

3.空高く軽やかに帆をあげてゆく雲よ

ちょろちょろ流れるちっぽけな小川よ

ぼくの愛するひとの姿を見かけたら

ぼくの数千の挨拶を伝えておくれ

 

Seht, ihr Wolken, sie dann gehen

Sinnend in dem stillen Tal,

Lasst mein Bild vor ihr entstehen

In dem luftgen Himmelssaal

 

雲よ、もの思いに沈みながら

静かな谷をさまようあのひとを見たら、

彼女の前にぼくの姿を浮かびださせておくれ

大空のすきとおる広間の中に

 

Wird sie an den Buschen stehen,

Die num herbstlich falb und kahl,

Klagt ihr, wie mir ist geschehen,

Klagt ihr, Voglein, meine Qual

 

いま秋めいて色づき、葉を落とした

茂みのかたわらにあのひとがたたずんだら

訴えておくれ、ぼくがどうなってしまったかを

訴えておくれ、小鳥よ、ぼくの苦しみを

 

Stille Weste, bringt im Wehen

Hin zu meiner Herzenswahl

Meine Seufzer, die vergehen

Wie der Sonne letzter Strahl

 

穏やかな西風よ、お前の息吹にのせて

ぼくの心が選んだひとのもとへ

運んでおくれ  名残りの陽光のように

はかなく消えてしまうぼくのため息を

 

Flustr ihr zu mein Liebesflehen,

Lass sie, Bachlein klein und schmal,

Treu in deinen Wogen sehen

Meine Tranen ohne Zahl!

 

あのひとにぼくの愛のねがいをささやき

ちょろちょろ流れるちっぽけな小川よ

あのひとにすっかり見せてあげておくれ

お前の波の中の数知れぬぼくの涙を!

 

4.Diese Wolken in den Hohen,

Dieser Voglein muntrer Zug

Werden dich, o Huldin, sehen

Nehmt mich mit im leichten Flug!

 

4.空たかく流れるこの雲たちは

陽気に群れてゆく小鳥たちは

あなたを見るだろう、おお、優雅なひとよ

ぼくも連れてっておくれ、軽やかに空を飛んで!

 

Diese Weste werden spielen

Scherzend dir um Wang und Brust,

In den seidnen Locken wuhlen

Teilt ich mit euch diese Lust!

 

この西風は、いたずらそうに

あなたの頬や胸にたわむれ

絹のような巻毛をかき乱すだろう

その喜びをぼくにも分けておくれ!

 

Hin zu dir von jenen Hugeln

Emsig dieses Bachlein eilt

Wird ihr Bild sich in dir spiegeln,

Fliess zuruck dann unverweilt!

 

あの丘をくだって、この小川は

ひたすらあなたのもとを指して急ぐ

お前の中にあのひとの姿がうつったら

わき目も振らずに流れ戻っておいで!

 

5.Es kehret der Maien, es bluhet die Au

Die Lufte, sie wehen so milde, so lau

Geschwatzig die Bache nun rinnen

Die Schwalbe, die kehret zum wirtlichen Dach,

Sie baut sich so emsig ihr brautlich Gemach,

Die Liebe soll wohnen da drinnen

Sie bringt sich geschaftig von kreuz und von quer

Manch weicheres Stuck zu dem Brautbett hieher,

Manch warmendes Stuck fur die Kleinen

Nun wohnen die Gatten beisammen so treu,

Was Winter geschieden, verband nun der Mai,

Was liebet, das weiss er zu einen

 

5.五月がめぐってきて、牧場に花がひらき

そよ風はあんなにやさしく、暖かく吹き

小川はたのしそうにおしゃべりして流れる

住み心地のいい屋根に帰ってきたつばめは

婚礼の部屋づくりにいそがしい

その部屋の中には愛が住むのだ

彼らはせっせと四方八方をとびまわって

花嫁のベッドのためにたくさんのやわらかい屑を集め

子どもたちのためにたくさんの温かい屑を集めてくる

いまそのひとつがいは誠実に寄り添って暮らす

冬がひき離したものを、いま五月が結びあわせる

愛しあう者を結ぶことを五月は知っているのだ

 

Es kehret der Maien, es bluhet die Au,

Die Lufte, sie wehen so milde, so lau

Nur ich kann nicht ziehen von hinnen

Wenn alles, was liebet, der Fluhling erscheint,

Und Tranen sind all ihr Gewinnen

 

五月がめぐってきて、牧場に花がひらき

そよ風はあんなにやさしく、暖かく吹く

ぼくだけはここから離れることができない

愛しあうすべてのものを春が結びあわせる時に

ぼくたちの恋にだけは春はおとずれず

涙だけがぼくたちに贈られるすべてなのだ

 

6.Nimm sie hin denn, diese Lieder,

Die ich dir, Geliebte, sang,

Singe sie dann abends wieder,

Zu der Laute sussem Klang

 

6.さあ、これらの歌を受け取ってください

恋びとよ、あなたのためにうたった歌を

そしてうたってください、日の暮れがた

甘やかなリュートの音にあわせて!

 

Wenn das Dammrungsrot dann ziehet

Nach dem stillen blauen See,

Und sein letzter Strahl vergluhet

Hinter jener Bergeshoh;

 

やがて、たそがれのあかねいろが

おだやかな、青い海の方へ移り

その最後の光が、あのやまのいただきの

背後にかくれて燃えつきるとき

 

Und du singst, was ich gesungen,

Was mir aus der vollen Brust

Ohne Kunstgeprang erklungen,

Nur der Sehnsucht sich bewusst:

 

ぼくが満ち溢れる胸の底から

ひたすらあこがれにもえ立ちながら

なんの言葉の飾りもなしにうたった

このぼくの歌を、あなたがうたうなら

 

dann vor diesen Liedern weichet,

Was geschieden uns so weit,

Und ein liebend Herz erreichet,

Was ein liebend Herz geweiht

 

そのとき、これらの歌の前では

ぼくらをひき離しているものが身を引き

そして、恋する心は、恋する心が

あがめるもののもとへ行きつくでしょう!

 

(daniel-b=フランス専門)