シャンソンの特集、「短いけれど、"深い" 歌」。

「最終回」の本日は、今年、「没後20周年」となる偉大な女性歌手バルバラ(1930-97, 本名モニック・セール)の作品、「o mes theatres "私の劇場"」(1986)をお送りしたいと思います。

さて、今回のこの曲、「o mes theatres "私の劇場"」は、本当に「短く」、わずか1分程度の曲となります。そのため、この曲「単独」での動画はありませんでした。

最初の動画は、1987年、パリ、「シャトレ座(劇場)」での公演の映像ですが、続いての曲、「Remusat "レミュザ"」(1972)までの収録です。その「レミュザ」とは、パリにある通りの名前で、バルバラは、1961年から67年まで、ここに住んでいました。1967年11月6日、イタリア公演のさなかに、同居していた「最愛の母」が亡くなったことを知らされ、程なくこの地を離れることになったようです。その、「母への想い」を込めて作られた曲が「レミュザ」なのです。この曲も、一聴に値する「名作」です。

(「レミュザ」については、1973年の日本初発売当時から、現在とは違うエピソードが日本では伝えられてきました。また、当時の原題は、「les saisons」となっており、邦題も「季節」となっていますが、これは「誤り」ではなく、現在、フランスで刊行されている「全詞集」にも、その旨が記されています)

続いての映像ですが、この曲自体は、本当に「最後のところ」で歌われます。

そうです。この曲「o mes theatres "私の劇場"」は、前回も少し書いたように、バルバラ自身の脚本による音楽劇、「Lily Passion "リリー・パシオン"」(1986年1月21日から2月19日まで、ゼニット・ホールにて上演。次いで、フランス各地、スイス、ベルギー、イタリアでも上演されました)からの1曲なのです。

1979年に、ジェラール・ドパルデュー(1948-)と知り合ってから、「家族ぐるみの付き合い」となったというバルバラ。1982年から脚本を書き始めたというこの「Lily Passion」では、バルバラ自身が演じる「歌手リリー」が、ドパルデュー演じる「心優しき "殺し屋" ダヴィッド」の犯罪を止めるため、自分の劇場を捨て、彼の島へと共に旅立つことになります(その場面で歌われる名曲が「l'ile aux mimosas "ミモザの島"」で、1980年代以降のバルバラの、「最高傑作」の1つです)。

この「私の劇場」は、劇中でも「前半」に歌われる、ごく短い曲ですが、その後、1987年の「シャトレ」(DVDもありますが、この曲の「テイク」は、CDとは異なります。私自身は、CDのテイクの方が好きです)と、1990年の「モガドール」、そして、この間2回にわたる日本公演では、「第2部のオープニング」を飾る曲ともなりました。最後の「ライヴ録音」となった、1993年の「シャトレ」でも採り上げられ、最終的に、バルバラの「重要な曲」の1つとなりました。

この劇中で歌われる曲では、バルバラ自身が詞を書いたのはもちろんですが、「共作者」として、リュック・プラモンドン(1942-)も名を連ねています。彼は、カナダのケベックの出身で、私が、これまで幾度となく採り上げてきた、あのロックオペラ「starmania」(1979年初演)の作詞者でもあります(作曲は、ミシェル・ベルジェです)。また、日本でも有名な、「ノートル・ダム・ド・パリ」(1998年初演)も、彼の作品です。

曲は、長年の「相棒」であったローラン・ロマネリ(1946-)が何曲か手伝っていて、この曲も、実は、その1曲です。
1978年のオランピア劇場公演では、1人で「伴奏オケ」を担当するなど、バルバラとは、「切っても切れない関係」にあったロマネリでしたが、この劇をめぐっての「意見の相違」から、上演の前年になって、彼は、バルバラのもとを去ってしまいました。つまり、これが、彼にとって「最後」のバルバラ作品ということであり、本当に「残念」なことだと思います。

また、ドパルデューの息子ギヨームも、バルバラのラストアルバム(1996年)の1曲、「a force de "そのおかげで(仮)"」で詞を書くなど、多才な面を見せていましたが、残念なことに、2008年、急性の肺炎のため、37歳という若さでこの世を去ってしまいました。

最初にも書きましたが、バルバラも、今年、「没後20周年」という記念の年に当たります(彼女の「訃報」は「突然」で、当時、それはもう、大変驚きました。あれから、もう、「20年」にもなるのですね...)。なので、今年は、彼女の作品も数多く採り上げてみたいと思っています。「大変」ではありますが、がんばりますので、よろしくお願いいたします。

それでは、歌詞を載せておくことにしましょう。

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o mes theatres
o mes silences
mes paradis et mes enfers
mes tenebres et ma transparence
o mes etes
o mes hivers
o mes velours
o mes amours
o mes vaisseaux
o mes oiseaux
vous avez tous le ciel immense
d'un meme et multiple pays

ああ私の劇場よ
静けさよ
私の天国 そして地獄
私の闇よ そして透明さよ
私の夏
私の冬
私のビロード(の幕)よ
私の愛よ
私の(大きな)船
私の鳥たち
あなた方はみな、無限に広がる「空」を持っている
単一で、同時に多様な、ある国の空を...

(daniel-b=フランス専門)