- デフレの正体 経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)/藻谷 浩介
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「デフレの正体 -経済は「人口の波」で動く」 藻谷浩介(角川Oneテーマ21 2010年)
高度経済成長や「実感なき好景気」を生産年齢人口という切り口で解説した本です。
非常にわかりやすい本で、帯に書いてあるとおり目からウロコの理論が展開されています。
実は、数年前に筆者の講演をケーブルテレビで聞いたことがあります。チャンネルザッピング中に偶然聞き始め、大変感心して3時間近い講演を結局最後まで聞いてしまいました。ずっと本が出ないかと思っていたのですが、このたびやっと巡り合ったワケです。
大雑把にまとめると…
「国内の景気を判断する時にGDPを使うのはおかしいのではないか。なぜならGDPは貿易黒字が大きな位置を占めていて、貿易黒字は会社や株主の懐に入るだけで労働者、生産者の懐に入る率が低い。だから海外から労働力(外国人労働者)を輸入しても、海外で日本製品が売れてもあまり意味がない。現在の不景気感は内需の不振による国内の金回りの悪さから来ているのだから、雇用を増やしたり、給与を上げる事で改善しなければいけない」
…という論旨だと思います。
さらに私案としてですが、不景気への対処法も示してあり、これも面白いです。
特に「女性の就業を勧める」「海外からの旅行者を受け入れる」という案は、他でも良く聞くけれど、前半をしっかり読んでいると、なるほど説得されてしまいます。おそらく別府温泉なんかは、筆者・藻谷浩介氏の講演を聞いて、実践しているのだろうと思います。
しかし、こうやって文章で読むと講演を聞いた時には気付かなかった「粗」も見えてきます。
「内需の不振は、賃金を増やす事で金の回りを刺激して改善するしかない」という主張ですが、卵が先か鶏が先かの矛盾に陥ってしまいますし、仮に賃金が増えたとして、それが大きく消費に回るかは未知数です。
自動車も、パソコンも、もはや新規購入ではなく買い替え需要しか見込めないと思いますし、家だって豪華絢爛なものは必要がないという雰囲気が広がっています。
エコロジー商品への買い替えがあるという考え方もありますが、丈夫で長持ち低燃費なエコロジー商品が行き渡ると、さらにモノが売れなくなるはずです。
「日本人が、消費という娯楽に飽きて来ているのかもしれない」という大きな不安に対する回答になっていない気がするのです。
(実際、小渕首相の地域振興券も、麻生首相の定額給付金も同じような考え方から実施されたけれど、消費の循環を起こすほどの効果はありませんでした)
ただ、今まで現れた理論の中では、もっとも日本の閉塞感を明確に説明できているし、また実際に「人口の波」は閉塞感の大きな理由の一つなのだろうと思います。
「じゃあ、個人はどのように閉塞感を乗り切れば良いのか」という質問に答えることはできませんが、「手のひらに人を三回書いて飲み込む」おまじないよりは、閉塞感に震える庶民(ワタシやアナタのことですよ)に勇気を与えてくれる本かもしれません。