「私が初めて創ったドラマ 怪獣を呼ぶ男」25分 安藤大祐(NHK佐賀ディレクター)監督
NHK連続テレビ小説のような作品でした。おそらく、あまり自主制作映画を見ない人にとっては、一番安心して楽しむ事のできる作品だったと思います。
ストーリーも、怪獣映画の誘致と、父と子の和解がきれいにまとまっていて、勉強になりました。
しかし、私にとって何よりショッキングだったのは、父親役の渡辺哲さんの存在感でした。こうやって地元の役者さんと、中央で活躍している役者さんを同列に見比べると、その違いに目を見張ります。
佐賀であのレベルの役者さんを見つけるのは、不可能とは言わないまでも大変な努力が必要になるでしょう。
シンポジウムでは触れられていませんでしたが、これは地域発映画を考える上で、編集ソフトやらボケ味やらよりも、よっぽど悩まなければいけない重大な問題だと思います。
そして、問題への解答の一つが、次の上映作品「ぺっちゃん」になっているという、なんとも絶妙なプログラムです。
「ぺっちゃん」25分 灰谷煙平(自主制作映画作家)監督
役者は演技という武器を取り上げられ、しゃべらず、笑わず、表情を作ることも禁止され、個人の持っている個性・存在感だけを作品に提供しています。
方向性は違うけれど、方法論は小津安二郎と一緒です。
これまでの作品でも、その片鱗はあったのですが、今回の作品で「役者の演技を必要としない演出」を完成させた感があります。こんな作り方もあるんですね。感心しました。
表情を排した人形(ひとがた)がドラマを演じ、表情を排しているからこそ、ちょっとした動きのクセから逆に人間性が立ち現れてくるなんて、私に言わせれば、これはもう人形アニメーションです。
限られた選択肢で最高の仕上がりを求めるならば、一考すべき方法だと思います。
ストーリーも私は面白かったです。特に、主役級の二人(ぺっちゃんと、会計の女の子)が結局、何も決断できず、自分からは何も起こすことができないラストが良かったです。カタルシスはないかもしれないけれど、そういう勇気があるならば、もっと早くに何らかの行動を起こしていたハズですから…。
話は変わりますが…一つ気になったのは、貧乏という設定(だと思います)なのに、ぺっちゃんの部屋がけっこうキレイで、オシャレなソファとか置いてあるんですよね。同監督の前作「5 Pokets」でも、貧乏な夫婦がけっこう広いマンション(アパート?)に住んでいて、どことなく違和感を覚えました。
前作では「親から仕送りをもらっている」という伏線があったけれど…ぺっちゃんも仕送りをもらってるのかな?
(…つづく)