「法は人を幸せにする道具」ということ | 第一経営グループ代表 吉村浩平のブログ

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先週18日(水)の午前中に前半期総括と後半期方針を確認する全体会議があり、午後からは全社の理念研修を行いました。その理念研修では、昨年10月の会計事務所交流会で記念講演をしていただいた山浦善樹弁護士をお呼びしました。

 

会計事務所交流会とは、「納税者の権利を守る」という理念を共にする幾つかの会計事務所が、年に一度、全国から集まって研修や交流を行っているもので、昨年は浅草ビューホテルを会場に、東京スカイツリーを間近に見ながら行われました。

 

そこで聞いた山浦弁護士の話は、別に大事件を扱うということではないのですが「なるほど、ことの本質を探るためには、そこまでやるんだ」というくらい人間臭く泥臭いもので、またそれだけに形式的な関与に陥りがちな私たちの仕事を思うと、とても刺激的でもありました。

 

山浦弁護士は現在72歳ということですが、2012年から2016年まで最高裁判事を務められ、退官後にまた元の「マチ弁」をやられている異色の法律家です。大名からは多額の報酬を受け取っても、それで私腹を肥やすようなことをしない医者を描いた、山本周五郎の小説「赤ひげ」のような弁護士として、現役でバリバリと活躍されている方です。

 

講演は「法は人を幸せにする道具」というテーマで、事前に送られてきた資料も20ページにわたり、山浦先生の人生に影響を及ぼした経歴やこれまでに関わった様々な案件のエピソードが紹介されています。事前にこの資料を読み込んで参加しているかどうかが、今回の講演を楽しむことが出来るかどうかのカギを握っていたようです。

 

山浦先生は講演の冒頭に「私はとにかく話しが苦手で、話し方教室にも通ったのですがモノになりませんでした。それで資料を読んでいただければ私が言いたかったことが分かるように少しボリュームがあるのですが作っているのです」と言われる通り、自らの家族のことを含めて話があちこちに飛びまくりながらも、基本的には資料のエピソードについて話されていることが分かります。

 

例えば、男女差別、人種差別など様々な差別意識についての話がありました。そうした意識は誰もが生まれた時からあるのではなく、それぞれの生育過程で作られるものであること、それを自覚し、社会経験を積む中で自分自身の偏りに気づくこと、親の影響から意識が自立することの大切さを言われます。

 

また自分自身も参加したベトナム戦争反対の学生運動や、銀行に就職してから味わったお金に関わる不条理を経験した上で、改めて法律家をめざしたという話では「法律適齢期がある」という表現をされていましたが、そういう意味では「裁判は価値観が命」だと言われるように、一定の人生経験を経た法律家が「法律という道具」にどういった価値観を持って向き合うかが、その生き方の問題として決定的な意味を持つというこということを言われているように思いました。

 

単に「法律を当てはめて判断するのが裁判所」というのは間違いで、現場でナマの生活実態を見る感性の大切さを言い、そのために条文を探すのであって、条文から入るのではないということを言われていました。例えば多くの「戦争」は、自分たちの「平和」のためにしようとする。そこで「平和」の意味をどうとらえるかという価値観の問題になる。価値観のない法律家では意味がない、と言われていたのが印象的でした。

 

最後に将棋の加藤一二三九段に学んだ「ひふみんアイ」の話も興味深いものがありました。加藤九段が王将戦で対戦相手がトイレに立った時、さっと立って向こうへ行き、相手方の陣営から自分の駒組を見ていたら、それまで「悪手」と思っていたものが「良手」であることが見えたというエピソードです。

 

法律家は自分の主観だけで見るのではなく、自分自身も検証の対象物として、客観的に自分を見ることで、意外に見えるものがあるということです。今回もごちゃまぜに面白く、話の流れについていくのがちょっと大変な講演でしたが、改めて資料に目を通すと確かに良くわかります。