映画をみて「老いること」を考えました | 第一経営グループ代表 吉村浩平のブログ

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この映画のタイトルも監督も知らなかったのですが「ぼけますから、よろしくお願いします」というドキュメンタリー映画が、いま異例のヒット作になって全国で上映されているそうです。私は、先週末に埼玉映画文化協会の上映会でみたのですが、少しばかりショッキングでありつつ、同時に楽しい気持ちにもなれる素敵な映画でした。

 

ほぼ全編を映画監督の信友直子さんが、自らハンディカメラで撮り続けたのでしょう、広島県呉市の実家で暮らす認知症を発症した87歳の母と、大正生まれで、それまでやったこともなかった掃除や洗濯など家事を始めた95歳になる父の日々の暮らしぶりを、文字通りありのままに描いたドキュメンタリー映画です。撮影風景を想像すると少し異様な感じを受けますが、それはさておき、監督のナレーションと字幕が、老夫婦の広島弁や映像の理解を助けてくれます。

 

東京に住む映像作家の直子さんが、帰省するたびに両親の生活風景を撮影しだしたのは、もともと作品にするつもりがあったのかどうかは分かりませんが、20年ほど前からのようです。家の中の様子だけでなく、買い物に行ったり散歩したりする毎日の風景です。そんな中でいつの頃か、同じ果物を必要以上に買い込んでいたりする母親の変化に気がつきます。

 

しっかり者だった母親が変化していく様子と、それを受け止めて介護する父親の生き方を、一人娘の目を通して何の演出もなく、ひたすら描いています。家族3人の穏やかな食卓の風景や、時には愚痴をこぼす母と耳の遠い父のユーモアあふれる会話として描き、時には「訳が分からなくなる」自分に「死にたい」と絶望する母を、感情もあらわに叱り飛ばす父の姿を映しています。

 

それは、まさに今の日本全国、どこにでもある普通の家族が抱えている姿を映し出しているのだろうと思います。両親から「自分のやりたいことをやりなさい」と言われて今の生活がある一人っ子の自分と、尊敬する両親の当たり前だった生活を、確実に老いの厳しさが変えていく現実、老々介護の両親の生活ぶりを見ている自分の葛藤が感じられます。

 

どんどんと高齢化が進む日本社会にあって、この映画は社会保障という「制度の問題」以前に、それぞれの家族に突き付けられている自分を生み育ててくれた親の老いを受け入れるという問題の重さを感じます。また一方で「介護保険」などの社会保障が行政からの施しではなく、当たり前の権利として意識され、一人の人間が自分らしく人生をまっとう出来る社会という、国の文化水準の問題もあるように思えるものです。

 

この映画のタイトル「ぼけますから、よろしくお願いします」というのは、ボケを自覚し始めた母親が、冗談めかしてカメラの前で娘に語った一言です。知的でかつユーモアのセンスがある両親が、自然体で生きている姿に素敵な夫婦と家族の姿を見ることが出来ます。まだ二人が元気な頃に近所を並んで散歩する様子と、ヨロヨロしながら二人で同じ道を歩く姿を重ねるエンディングシーンに、監督のかけがえのない両親への感謝と愛の気持ちが表れているように感じました。

 

さて、自分自身がこうした老いの状況になった時に、はたして何を考え、どんな行動をとるのだろうと考えてみました。結論から言うなら「なるようになる」ということしか言えません。ただ悲壮感だけは持ちたくない、せめて自分自身の時々の老いを受け入れる勇気と、どんな自分になるか楽しむ気持ちを少しずつでも準備しておこうかな、でも出来ればボケるのは嫌だな・・・なんてことを、映画をみた後に一人でビールを飲みながら思ったのでした。