私はアルコール依存症だ。
酒をやめて5年になる。
5年酒をやめているのだから、
そろそろ上手く飲めるのではないか?
「一杯の酒で、あの『どうでもいいや』という気分を味わえる。」
しかし酒を飲んで、あの頃に戻って、
何の意味を感じるだろうか。
酒を飲んでいた時、
寿司屋の頃の休みの朝
今朝も『昨日の酒』がカラダに残っている。
ゔー気持ち悪い。
生きてるわ今日も。
敷布団の上で汗をかき、マブタの重さで顔がムクんでいるとわかった。
なんとか右の手を天井を向いてる目の前に持っていくとフルフルと震えていた 👋
『あぁーカラダが動いてくれん。どーしよ。』
体調が悪すぎて、身体がいうことを聞かない。
「今日は仕事の日だっけ。」
曜日の感覚も薄れてしまっている。
いう事を聞いてくれそうもない体。
でも、最近はなんだか良い方法を生み出した。
二日酔いで身動きできないいつもの朝、
「酒を飲もう。」と思いさえすればカラダが動いてくれる事を発見してしまっていたのだ。
ふふ
「よし、酒を飲もう。」
私は意識的に魔法の言葉を脳に与えた。
スッと体の重さが消えて動いてくれた。
ヨタヨタと歩き、仏間の押し入れに隠した酒の在処に辿りついた。
ザザーっとふすまを開けた。
(あったー。昨日、栓を開けたばかりだから、まだ沢山ある。)
本当は日本酒を飲みたいが、もう随分前からてっとり早く飲める焼酎を隠すようになっていた。
遠慮なく、本日最初の酒を飲むとしよう。
グビッ、グビ、ゴクン。
ふー
3分の2になった瓶に栓をして、押し入れに焼酎を戻した。
手ぶらになった右手を目の前にやると、フルフルとまだ震えている。
「大丈夫。5分もすれば治まるさ。」
経験で手の震えが治る時間も心得ていた。
洗面台に行き、鏡を覗き込むと「誰だお前は?」という40代前半ではない病気の顔の自分がいた。
ヨタっとした中毒者の動きで顔を洗うと、いつも通りに鼻血がポタっと落ちてきた。
血が出ている片方の穴を人差し指で押さえる。
そうしていると一分程度で止まってくれる。
家族にバレないよう、鼻血を水道の水で洗い流した。
洗顔を終えテレビを点けると、今日が仕事でない休みだとようやく理解した。
「なんだ、休みか。じゃあ今日はずっと飲めるじゃないか。」
「あれ、〇〇(妻)は?」
家の窓から確認をすると、車庫にマイカーは無かった。
何処か買い物にでも行ったかな?
すると心だか脳だかが明るく、軽くなっていった。
「やった。飲める。朝の1杯目は焼酎にしてしまったが、2杯目は大好きな日本酒にしよう❤️」
私は家の一階にある寿司屋に降りて行き、一升瓶用のケースに仕舞ってある2リットルの日本酒パックを取り出した。
薄暗い厨房で、透明な液体を注いでいった。
手の震えは止まったが、手足は痺れていた。
並々と注いで重くなった湯呑みを口元に運び、ひと口、ふた口と流しこんだ。
食道が熱くなっていくのを嬉しく感じた。
あんまりにも沢山入れたから、まだ半分も湯呑みに日本酒が残ってくれている。
私は寿司屋のカウンター席に座り、残りをゆっくり楽しむ事にした。
厨房よりは少し明るいカウンターに肘を付き、昨日どの客が来て、何の寿司を握ったのか思い出そうとした。
まったく思い出せない
仕方なく帳面を引っ張り出して、昨日の注文を見る事にした。📓
「えーっと、雀荘の出前と、常連さん2組、、、うーん、なんかそんな仕事、した気がする。」
数年前なら「記憶のない自分」が恥ずかしかったのに、ブラックアウトが日常的すぎて羞恥心なんて無くなっていた。
それにしても〇〇(妻)のやつ、
俺に断りもせず何処に行ったんだ?
妻への不満の気持ちを酒の肴にして、1合半の日本酒を飲み切った。
(あーあ、明日は仕事か、仕事なんて無くなれば良いのに、、、早く人生が終われば良いのに、、、)
住まいに戻り、テレビの前でゴロゴロしていると妻が帰宅する音がした。
「ただいま」と声がした。
妻が私の顔を横目で見て心の中で溜め息をついているのを感じた。
私が「おかえり」も言わずにテレビの方を見ていると、妻は買い物袋の食材を冷蔵庫に仕舞いだした。
妻は帰ってきてしまった。
なんだ買い物に行っていたのか。
せいぜい家族のためにおいしい料理でも作ってくれ。
さて、妻に隠れて、次の酒はどうやって飲もうか。
時計は午前10時30分だった。
あれから5年
5年酒をやめているのだから、
そろそろ上手く飲めるのではないか?
「一杯の酒で、あの『どうでもいいや』という気分を味わえる。」
と、冒頭に書いた。
しかし酒を飲んで、あの頃に戻って、
何の意味を感じるだろうか。
そんな気持ちになれる訳がない。
薬物で紛らわす満足感は、もう必要がない。