ついに10回
記念すべき回こそ言葉少なく本編に入りましょう。
もうぜんぜん見当がつかない方向に行きつつ、
いちおう最後のシメというかオチに向かいつつ…。
とりあえず第10回、始まります。
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「おねえさん、そりゃ本当かい?」
彩都が小粋なのかどうなのかわからない口調できき返した。
「『本当かい?』って、お客さん、ラジオ聞いてないの?」
「ああ、ラジオね。うん、ぜんぜん聞いてないよな?」
「ああ、聞いてないな」
そう答えながら、私はラジオを聞いて情報を収集することなど
考えてもみなかったことに気づいた。
そう、この時代のメディアはラジオなのだ。
私の仕事は、何も人に聞き回って情報収集するだけではないのだ。
最新かつ確かなニュースは新聞かラジオ、もしくは活動写真か。
終戦間近のこの状況で、それらメディアの発信する情報が
どれだけ信頼できるものなのかはわからないが、
その問題は置いておいて、とりあえずラジオは聞いてみようと思った。
「はっきり言って、この国は負けるよ。
全国の社会状況なんてわからないけどさ、
この街を見るだけでそれがわかるってもんだ」
そう捨て台詞を残して、ウェイトレスは店の奥へと消えた。
あのウェイトレスも彩都と同じようなことを言った。
もう誰もがそう思っているのだろうか。
K氏の言ではないが、この場に憲兵がいたら
このウェイトレスも引っ張られるだろう。
ウェイトレスの後ろ姿を目で追っていた彩都が
こちらに視線を戻しながら、
「さて、これからどうするんだい?」
と言った。
そう尋ねられても、私には何も思いつかない。
「さあ、どうすればいいんだろう?何かないかな?」
それが本心だった。
「そう言われても、俺にはあんたが
何をしているんだかわからないんだから、
助言のしようもないだろう」
確かにそうだ。私はいまだ彩都にそのことを話していない。
話せるような内容でもないし、話しても信じてもらえないだろう。
しかし、私が何をしているかも知らないでここまで付き合うというのは、
やはりこの男には何かあるのではないかと考えずにはいられない。
食事をし、一旦宿に戻った。
そういえば、と思い、部屋に備え付けのラジオのスイッチを入れてみた。
チューニングの必要はなく、控えめな音量で
けして鮮明とは言えない音声が流れてきた。
よく聞くと今朝聞いたK氏の声である。
国民に向けてのメッセージだろうか。
「国民の皆さん、こんにちは。
私がこの場でこの話をするのはもう何度目でしょうか。
しかし聞いてください。戦争はもう終わります。
この度の戦争で、敵味方に関わらず多くの尊い命が犠牲になりました。
私は今朝、『こんな馬鹿馬鹿しい殺し合いは早く止めるべきだ』と
青年に言われました。
確かに過激な発言です。しかし間違ってはいない。
天皇陛下のためとはいえ、命を粗末にすることはもう止めましょう。
戦争は人間の行為のなかで最も愚かなものであると、
もはや誰もがわかっているでしょう。
私がこの戦争を終わりにします。
そして国民の皆さんが安心して暮らせる世の中を、
ともにつくり上げていきましょう」
K氏の言葉はそう締め括られた。
「おお、俺の話が出てきたぞ。な、名言だっただろ?」
彩都は嬉しそうにベッドの上をごろごろと転がっている。
「だが過激だったよ」
「いいんだよ。過激だとか不敬だとか、
そんなもの名言の前には意味のないものだ」
彩都は意味不明なことを口走り、益々上機嫌になったらしく、
転がりすぎてベッドから落ちてしまった。
「何がそこまで嬉しいのかわからないが、
私はこれからもう一度首相官邸に行ってみようと思う。
彩都はどうする?」
彩都が鼻をさすりながら答える。
「もちろん俺も行くさ。俺の言葉をラジオで紹介してくれたんだ。
ちょうどもう一度会いたいと思っていたところだよ」
ラジオの熱狂的なリスナーの心境と似たものだろうか。
彩都はとにかく上機嫌で、車の運転にもそれが表れ、
今朝の首相官邸までの移動時間の記録を塗り替えた。
「そんなに急がなくてもよかったんだが」
私が車から降りながらそう言うと、彩都は
「急がばまわれと言うけど、たまには最短距離というのもいいだろ」
と応えた。
首相官邸の前にはもう朝のような人だかりはなかったが、
それでも数人が開かれた門の外側に立ち、中の様子を窺っていた。
朝と同じように門のところに二人の男が官邸に背を向けて立っている。
朝はK氏のボディーガードのように見えたが、どうやら本当は門番らしい。
「お忙しい人は、やっぱりこんな時間には顔を出さないのかな」
同じように中の様子を窺っていた彩都がそう言ったとき、
軍用車が私たちのすぐ背後に止まった。
陸軍所属であろう軍人が運転席から転がり出るように降り、
そのまま門を駆け抜けようとして門番に止められた。
「なんだ、一体どうしたんだ」
門番は軍人を止めながら尋ねた。
「とにかくK氏に会わせてくれ!電話で連絡は入れてある。
重要機密事項を伝えに来た!」
その男はなんとか門番をふりほどこうともがいていたが、
途中で諦めて代わりにこう言った。
「ならばあなたがK氏に伝えてください。
本来なら人を介してはならぬものですが、この情報は時間が勝負だ。
通信機器で伝えることは米軍や宮内庁に
傍受される危険性があったので避けたのだ」
「わかりました。必ず伝えます」
門番の一人がそう言うと、軍人は小声で門番に情報を伝えた。
軍人は興奮していたのだろう。
誰にも聞かれまいと気をつけたのであろうが、私には聞こえてしまった。
いや、私に聞こえたぐらいの内容なら、
その場に居た人間全員に聞こえていただろう。
聞こえたといっても、すべてが聞こえたわけではない。
しかし、いくつかの単語は明瞭に聞き取ることができた。
それは、連合軍、長崎、新型爆弾、である。
to be continued…