「なんやこの書面わ?ふざけとるんか・・・?」


「いやー・・・その・・・・おたくの組の方がその中国の蛇頭と裏取引してるって事で・・・中国政府と日本政府より、仕事を受注しましたので・・・・。」


 廃ビルに囲まれた広いスペースでは、大勢の暴力団員と中国マフィア達がスーツを着た四名を囲んでいた。四人の内のもっとも若いと思われる白髪の青年が、愛想笑いを浮かべて書面を周りの者達に配る。


「書面の通り、貴方達五十名が、私たち四人を殺したら、無罪放免ってことで♪」


「なめとんちゃうぞ!」


 暴力団の一人がドスを抜いて青年に切りかかるもののしかし、青年は微動だにしない。後ろに控えた黒人の女性が蹴りを放つ。引き締まった身体に黒い肌、そして銀髪のドレッドヘヤーという彼女の靴には刃が仕込んであり、切りかかってきた組員の首元を切り裂く。


「なっ、持ってる奴ぁ、チャカ使え!」


 数人の組員が引き金を引いた瞬間、これまた後ろに控えた男が青年の前に割って入り、銃弾を受ける。しかし彼は倒れるどころか、組員を殴り飛ばす。彼のスーツの下には、カーボンナノチューブの鎧が着てあり、拳、肘、膝には攻撃用の合金が仕込まれていて、その一撃は岩をも砕く。


「左馬(さま)サンとナイアにばっかまかせてられないわね・・・・。」


 最後の一人の白人女性は、チャクラムを扱い、銃を打つ前に中国マフィア達の腕を切り落とす。


「あー・・・。ニキもはじめちゃったか・・・。」


 青年は持っていた刀を抜く。刀身は怪しく光り、一瞬にして血に染まる。


「おいっ、夏!お前もさぼっとったらアカンぞ!」


 そういった後、どこからとも無く銃声が響き始める。数分後、静かになったその場に、白い防護服を着た者たちを引き連れて、ライフルをもった二十歳程度の女性が現れる。


「樹っ!アンタ、また呼び捨てしたでしょ!ほんっと、私の方が年上なんだからさっ!ってか、処理班の皆さん!早くやっちゃってください。」


 日本にありながら、世界各国の援助によって成立する世界唯一の『公然暗殺機関』こと『隠密』のメンバーとして、和田 樹は現在を過ごしていた。

 甲賀の里、少し離れた場所に、炎龍である燐の小屋があった。そこに燐は、使いの沙耶と二人で過ごしていた。そしてその小屋の前には黒髪の女が立っていた。


「あ・・・あの・・・どちらさまでしょうか・・・?」


 心配そうに覗き込む沙耶の細い首を掴み、玄武は小屋に入る。燐は激しい形相になり、腕に炎を纏いながら玄武をにらみつける。


「何者・・・・?」


「恐れ入ります・・・・私は玄武と申します・・・・。ある方の使いとしてここに参りました・・・。」


 そういって沙耶の左胸を一突きする。動かなくなった彼女の死体を地面に降ろし、血塗られた腕を舐めながら燐を見つめる。そして彼女は全ての計画を燐に伝える。


「何?アタシがそんな計画を認めると思うの?だいたい・・・そんな馬鹿げた・・・・。」


「いやっ、貴方はこっちに来るわ・・・。『奴』のためにね・・・・。」


 燐はその一言に口をつぐむ。一人になった小屋で彼女はひたすら彼に思いを馳せていた。


「そして・・・朱雀・・・。後は・・・・・・・。」


 玄武は満足そうな笑みを浮かべながら甲賀を後にする。巨悪が全てを呑みながらまわり始める。








 そして現代、和田 樹が18歳の頃。


「あーっ、スーツに血の匂いが付いた・・・。ったく、俺も左馬さんみたいに鎧で戦おっかなー・・・。ったく、この仕事もかなり厄介やな・・・。」


 彼の後ろの空間が開き、黒い隙間より美しい腕が無数に飛び出す。


「ありゃっ・・・!?およびかよ・・・・。どーせ風雅あたりがベソかきながら・・・『樹くーん、助けてー!』とでもいっとるんやろ・・・。しゃーない、いったろか!」


 その言葉とは裏腹に、彼は微笑む。そして、彼は巨大な計画に巻き込まれるとも知らず、忍の時代に戻る。

 目が覚めると、自分の顔を千姫が覗き込んでいる姿が目に入った。風雅は驚いて身体を起こすものの、千姫の額と自分の額をぶつけ、ふたりしてころげる。


「せっ、千姫様・・!?な・・・何故・・!?」


「てきでも・・・しぬのはみとうない・・・・。」


 風雅は深々と頭をさげる。そして、自分が寝ている幸村に命を狙われるも、服部 半蔵にその危機を助けてもらったと言う話を聞いた。


「千姫様・・・鏑木一党の事につきましては・・・・。」


「なにも・・・いうな・・・・。まえをみるのじゃ・・・!」


 そういった千姫の姿と復讐の連鎖から脱した後の樹の姿がかぶり、風雅は懐かしさに捕われた。


「姫様・・・。姫様は・・・・『まっすぐ』生きてください・・・・かつて、そのことを私に教えてくれたものが居たんです。」


 風雅は千姫に樹のことを語る。好敵手としての出会い、十勇士との戦い、最愛の人の死、そして復讐、復讐が生んだ復讐に捕われ、それから脱するときに得た答えを。千姫は真剣に聞き入り、樹について多くを質問した。


「きめた・・・。わたしはかえらん・・・・。じじさまにいいたいから、つれていってたも・・・。」





 江戸城、天守閣、将軍徳川秀忠、大御所徳川家康、家臣一同が窓辺に釘付けになっていた。宙に浮かぶ人間、そしてその背中におぶられて居るのは、大阪城に居るはずの千姫であった。


「じじさま・・・ちちうえ・・・・せんは・・・・かえりませぬ・・・・。」


「な・・・何故・・!?」


 優しい顔をした家康もギョッと目をむく。しかし千姫は笑顔で話を続ける。


「せんは・・・・おおさかのひめでありまする・・・・。せんをつれもどしたくば・・・・せいせいどうどう・・・つれもどしにきてくだされ・・・!それっ、ふうが、もどるぞ・・・!」


 それだけ言って千姫は風雅の背中に乗って大阪城に戻る。千姫は風雅の手を握って笑顔を見せる。


「ふうが・・・!うぬは・・・・まっすぐいきれ!!」


 そして二人が再開するのは燃え上がる大阪城にてである。