「へぇ~、そんなことがあってんなぁ・・・・。」


 樹は藤林の屋敷で綾乃と瑪瑙より色々な話を聞いた。刃心が枯れた事、二人の子供、剛蘭の死、鏑木一党の反逆などの話を樹は真剣に聞いていた。夜は更けて、彼女達の子供は寝入っていた。話が終わったちょうどその時、屋敷の扉が開いた。


「ただいま・・・・。」


「おぉっ!風雅っ!おかえりー!」


 仕事を終えて帰って来た藤林 風雅は、樹の姿を見て呆然としていた。数秒の間を置いて風雅は樹の襟を掴み、屋敷の前に連れ出した。


「本当に貴様なのか・・・・?」


「ほんまやって言っとーやろっ!相変わらず頭固いなっ、あんぽんたんがっ!」


 次の瞬間、風雅は一瞬で距離を詰める。風雅の一撃を樹は身を仰け反らしてかわし、隙が出来た腹部へと蹴りを食らわす。風雅は苦悶の表情を浮かべながら後ろに下がり、風の弾丸を放つ。樹も負けじと水の弾丸を放ち相殺させる。二種類の弾丸は空中で衝突し、霧のようにはじける。霧を破って風雅は風の斬撃を放つ。樹は氷の壁を使ってそれを防ぐ。


「そろそろ実力わかったやろ・・・・?」


「ふんっ!まだまだだ・・・。それ位で自分の力を見せたつもりか?」


 その言葉が引き金となり、樹の目は碧く染まる。左腕に強力な冷気を纏い、その腕の周りの全てを白く凍て付かせる。それに対して風雅は腰を低くして片手を突き出す。


「風双・・・・裂掌!」


「月下・・・・美人!」


 二人の攻撃の余波は凄まじく、周り全てを白く染め上げる。二人の攻撃が同時に止み、その瞬間、二人は握手を交わし、賛辞を述べる。


「相変わらずやりやがる・・・。腕は鈍ってないみたいやな・・・。」


「貴様のほうこそ・・・・!」


 しかし、二人は昔を懐かしむ間も無く戦いに巻き込まれる。


「甲賀忍者 刑部の兵介と申しまする・・・。藤林殿・・・・至急甲賀へ・・・・緊急事態でございまする・・・・。」


 俺と風雅は、甲賀へと急いだ・

 樹は伊賀の里から離れた場所にある戦友の墓を訪れていた。犬千代、花、おりん、そして陽炎。彼の瞼の奥に思い出がよみがえり、熱いものがこみ上げてくる。


「初風、初風、何して遊ぶ・・・・?ってか誰かいるぞっ!?」


「坊ちゃま、お下がりください・・・!お主、何者だ!!」


 初風と呼ばれる樹と同じくらいの歳の娘が声を上げる。連れていた三人の子供を自分の後ろに下げ、彼女は臨戦体系をとる。


「なっ!俺は和田 樹。伊賀の里を救った水龍やって!知ってるやろっ?」


「ふざけるなっ!かの伝説の忍がお主の様な優男であってたまるか!」


 そういって初風は樹に向かって手をかざすと、無数の羽毛が彼に襲い掛かり、貫いた。


「いやーっ、もうちょっと殺気をこめないと・・・・折角の技が台無しやで?」


 技が来る瞬間に樹は水の人形と入れ替わり、一瞬にして初風の後ろを捉えた。そして彼女の耳元で甘く囁き、腰に手を触れる。


「なっ、何をっ・・・・!?」


「君は一回死んでるで・・・?それが生きてるんは・・・俺が殺す気ないからやろ・・・?」


 樹が優しくそう囁くと、急いで彼女よりはなれる。物凄い勢いで、実力者が二人向かってくるのが分かった。茂みより姿を見せた二人の女性は美しかった。一人は長く綺麗でおろされた黒髪を持つ大人しげな、もうひとりは茶色がかった髪を後ろで括った活発そうな20代の美女であった。


「い・・・樹様!?」


「え・・・・樹ってあの樹・・・・!?」


 二人の美女は向かい合って目を瞬かせるそして樹を再びみつめる。黒髪のほうの女性は樹にかけより、そのままの勢いで樹に抱きつく。樹はその勢いで後ろに倒れ、そのこうどうで呆気にとられた樹は美女を見つめる。すると彼女は大粒の涙を美しい瞳から次々と零してゆく。


「うわー、泣かしてやんのー樹のやつ・・・!」


「えっ、なんやねん?俺が何してん・・・・?」


「樹様、樹様!あの時、あんな台詞を吐いてしまって・・・。それでも・・・樹様は・・・この里を・・・全ての忍を・・・救って・・・ひぐっ・・・・えぐっ・・・・それなのにっ・・・私はっ・・・・私はっ・・・・。」


 まだわかんないの?と茶髪の美女はが呆れた様に呟く、そして彼女は自分の瞳に指を刺す。次の瞬間、彼女の瞳は緑色に変わる。


「・・・・お前・・・・綾乃・・・?じゃあ・・・・この泣き虫は・・・・・」


「瑪瑙でございます・・・・ひぐっ・・・・!」


「アンタがあのまま帰っちゃったから、瑪瑙はずっと気にしてたんだから・・・ね・・・?」


 樹は仲間との再会を喜びながらも照れを隠そうと唇を尖らせる。


「瑪瑙、気にすんなって・・・。っつーか・・・今年は何年なんだ・・・?」


「慶長20年よ。」


「けちょー20・・・っつーことはお前らも後数年で三十路か!おばさん街道まっしぐらやな!・・・・っぐああっ!!」


 この時に喰らった拳骨の痛みは、その日一日中引く事が無かった。


 日本国にありながら、日本から独立して世界各国からの援助を受けて成立している暗殺機関である『隠密』の一員として、今作の主人公和田 樹は18歳の夏を過ごしていた。何を隠そう、この『隠密』という機関は代々藤林家が局長として仕切っているものであり、『隠密』という名前も昔忍者であった名残であろう。


「今日は左馬さんのおごりでよくないすか?」


 樹はカッターシャツを脱ぎ、死体処理班のものから新しいものを受け取って袖を通す。左馬はタバコに火をつけ、口から白い煙を吐く。この左馬という男は副局長兼執行部長という肩書きで、それ相応の実力を持っている。かなりの権力を持つもののそれに固執せず、部下から慕われている男である。さっぱりとした性格の持ち主で、このように仕事後は部下を連れて飯を食べに行くことが多い。


「あっ、あそこに自販機あるな。樹、ビール買ってこい!」


「うい~っす。」


 飯をおごってもらえると言うことで上機嫌になった樹は路地裏の自販機へと向かう。すると自分のスーツに血の匂いが染み込んでいる事に気付いた。


「あーっ、スーツに血の匂いが付いた・・・。ったく、俺も左馬さんみたいに鎧で戦おっかなー・・・。ったく、この仕事もかなり厄介やな・・・。」


 彼の後ろの空間が開き、黒い隙間より美しい腕が無数に飛び出す。

「ありゃっ・・・!?およびかよ・・・・。どーせ風雅あたりがベソかきながら・・・『樹くーん、助けてー!』とでもいっとるんやろ・・・。しゃーない、いったろか!」


 その言葉とは裏腹に、彼は微笑む。そして、彼は巨大な計画に巻き込まれるとも知らず、忍の時代に戻ることとなる。


 



  一方、甲賀の里では劫火が家々を焼き尽くしていた。


「な・・・何故貴方が・・・・・?燐さん・・・・。」


 廻神は燐に攻撃を仕掛けようとした瞬間、何者かに地中から足を掴まれる。その時に出来た一瞬の隙を突いて大男が廻神の鳩尾に一撃を放つ。そしてその場に彼は崩れ落ちる。


「くっそ、どうなってんだよっ、燐!」


 後ろより現れた鬼面は白鬼となって燐に斬撃を放つ。しかしそれは水の壁に阻まれて彼女には届かない。水の触手が白鬼の自由を奪うと、二頭の鬼が彼の顔面を殴りつける。


「殺しちゃ・・・駄目よ・・・。乃亜・・・いやっ・・・・才蔵・・・・。そしてお疲れ様・・・伊佐に青海、そして六郎に小助・・・。」


「これで・・・・そろったみたいだね・・・。『佐助』以外は・・・。」


 乃亜の言葉で燐は再び決意を固める。


「才蔵・・・。直に『佐助』もやってくるわ・・・。この子さえいれば・・・・ね。」


 燐は自分が抱えた少女に目をやる。


「そうだね・・・甚八・・・・。みんな志は違えど利害は一致するもんね・・・。」


「さぁ、もう用はないわ・・・・。この場を去りましょう。」


 根津 甚八となった燐は乃亜を含む十勇士を連れて、大阪へと向かった。