樹は伊賀の里から離れた場所にある戦友の墓を訪れていた。犬千代、花、おりん、そして陽炎。彼の瞼の奥に思い出がよみがえり、熱いものがこみ上げてくる。


「初風、初風、何して遊ぶ・・・・?ってか誰かいるぞっ!?」


「坊ちゃま、お下がりください・・・!お主、何者だ!!」


 初風と呼ばれる樹と同じくらいの歳の娘が声を上げる。連れていた三人の子供を自分の後ろに下げ、彼女は臨戦体系をとる。


「なっ!俺は和田 樹。伊賀の里を救った水龍やって!知ってるやろっ?」


「ふざけるなっ!かの伝説の忍がお主の様な優男であってたまるか!」


 そういって初風は樹に向かって手をかざすと、無数の羽毛が彼に襲い掛かり、貫いた。


「いやーっ、もうちょっと殺気をこめないと・・・・折角の技が台無しやで?」


 技が来る瞬間に樹は水の人形と入れ替わり、一瞬にして初風の後ろを捉えた。そして彼女の耳元で甘く囁き、腰に手を触れる。


「なっ、何をっ・・・・!?」


「君は一回死んでるで・・・?それが生きてるんは・・・俺が殺す気ないからやろ・・・?」


 樹が優しくそう囁くと、急いで彼女よりはなれる。物凄い勢いで、実力者が二人向かってくるのが分かった。茂みより姿を見せた二人の女性は美しかった。一人は長く綺麗でおろされた黒髪を持つ大人しげな、もうひとりは茶色がかった髪を後ろで括った活発そうな20代の美女であった。


「い・・・樹様!?」


「え・・・・樹ってあの樹・・・・!?」


 二人の美女は向かい合って目を瞬かせるそして樹を再びみつめる。黒髪のほうの女性は樹にかけより、そのままの勢いで樹に抱きつく。樹はその勢いで後ろに倒れ、そのこうどうで呆気にとられた樹は美女を見つめる。すると彼女は大粒の涙を美しい瞳から次々と零してゆく。


「うわー、泣かしてやんのー樹のやつ・・・!」


「えっ、なんやねん?俺が何してん・・・・?」


「樹様、樹様!あの時、あんな台詞を吐いてしまって・・・。それでも・・・樹様は・・・この里を・・・全ての忍を・・・救って・・・ひぐっ・・・・えぐっ・・・・それなのにっ・・・私はっ・・・・私はっ・・・・。」


 まだわかんないの?と茶髪の美女はが呆れた様に呟く、そして彼女は自分の瞳に指を刺す。次の瞬間、彼女の瞳は緑色に変わる。


「・・・・お前・・・・綾乃・・・?じゃあ・・・・この泣き虫は・・・・・」


「瑪瑙でございます・・・・ひぐっ・・・・!」


「アンタがあのまま帰っちゃったから、瑪瑙はずっと気にしてたんだから・・・ね・・・?」


 樹は仲間との再会を喜びながらも照れを隠そうと唇を尖らせる。


「瑪瑙、気にすんなって・・・。っつーか・・・今年は何年なんだ・・・?」


「慶長20年よ。」


「けちょー20・・・っつーことはお前らも後数年で三十路か!おばさん街道まっしぐらやな!・・・・っぐああっ!!」


 この時に喰らった拳骨の痛みは、その日一日中引く事が無かった。