里に戻った俺は、風雅に犬千代の死を告げられた。その日のうちに今回死亡した六人の葬式を行った。


 数日ぶりの我が家、たった数日空けていただけなのに、とても懐かしく感じる。戸の内側から少女のすすり泣く声が聞こえる。藤林に今回の件の報告をしていたことで、おりんと会う暇がなかった。俺は一息ついて戸を開ける。『ガララ』その音に部屋の隅にうずくまっていた少女は体をビクリと震わせる。


 「ただいま・・・。」俺がそういうと奥の少女は袖で顔を拭い、精一杯の笑みで「おかえりなさいませ、樹様!」と挨拶をする。目を真っ赤にはらした彼女を見ると俺はいたたまれなくなり、彼女をひしと抱きしめて「無理するな・・・・。」その一言を引き金に、おりんは声をあげて泣き出し始めた。


 おりんを抱きしめながら「ごめん・・・俺が、陽炎を守れなかったから・・・・。」俺の目にも涙が光る。すると、おりんは顔をあげて「大丈夫です、大丈夫ですよ・・・。私は・・・・私はずっと樹様の側にいますから・・・。」俺はおりんを見つめる。目の前の少女の意思の宿った強い瞳に吸い込まれそうになった。そして、俺はおりんの唇に自分の唇を重ねる。そして二人はともに夜を過ごした。


 次の日、陽炎は火葬された。俺は無理を言って彼女の頭骨を三日だけ預かった。そして、大阪にいる天下一の彫師の元へ足を運んだ。伝説とも呼ばれている『夢彫』という男らしく、俺はその小さな家の戸を開ける。「金なら糸目をつけねぇ、俺にこの洒落頭を掘ってくれないか?」そう言うと家の奥より黒い長髪を垂らした目つきの悪い男が現れる。


 「俺が夢彫だ。目つきは悪りぃが腕は確かよ、アンタの目ぇ見りゃぁ・・・只事じゃぁ無ぇっつうことが判らー。タダでしてやる、恩に切れよ!」そう言ってニヤリと笑う。そして俺はこう答える「左の胸元に頼む、そして、洒落頭と一緒に『陽炎』って入れてもらえるか?」


 夢彫はニヤリと問いかける「ほぉ・・・女か・・・?」俺もつられてニヤリと笑い。「すげぇいい女だぜ・・・。もうこの世にゃいねーんだがな・・・。」そうやって俺は体に彼女の名前を彫る事によって最愛の女性の死を受け入れたのだった。

 「犬千代・・・追いつかれる・・・。」花は絶望したかのような小さな声を発する。「追いつかれたら・・・確実に殺されるな・・。」そう返した犬千代に対して花は返す言葉を見つける事が出来なかった。「花、逃げろ。」犬千代の提案に対して花は怒り心頭な様子で、「ふざけないで!あなた一人を置いて、私だけ逃げるなんて!」しかし犬千代は無視して続ける。「もう直、伊賀の里につく。風雅あたりを読んできてくれないか?」花は犬千代の強い視線を受け止め、力強く頷く。


 犬千代が両手をバレーボールのレシーブのように構えた上に花は飛び乗り、犬千代はそのまま花を放りあげた。すさまじい勢いでかなりの距離を飛んだ花は、着地後も全く止まらずに伊賀へ全速力で向かうのであった。一方、その場に残った犬千代のもとに、青海入道と伊佐入道が追い付く。正攻法では敵わないと悟った犬千代は、砂を二人に投げつけ、再び林の中に姿を隠した。


 それから数十分後、花は伊賀の里へたどりつく。自分の感知能力を限界まで研ぎ澄まし、風雅を探し当てる。風雅を見つけ出した花は「風雅!大変なの、十勇士と遭遇して・・・!」風雅はただ頷き、花を背負い、全速力で里を後にした。その頃、犬千代は二人の入道から逃げ切れることが出来ず、追い詰められていた。「そろそろ、観念したまえ・・・。」そう言って二人は同時に拳を振るう。


 その瞬間、一つの影が犬千代の前に割って入る。「風双裂掌!」風雅は風双裂掌によって二人の入道の攻撃をはじく。「犬千代、二手に分かれるぞ!」そういって彼は青海入道を蹴り飛ばし、犬千代たちから距離を取った。犬千代も伊佐入道の一瞬の隙を突き、爪を立てて拳を振るう。しかし相手の鋼の体の前には意味をなさなかった。五分の戦いを繰り広げる風雅をよそに、犬千代はただ絶望するだけであった。


 圧倒的な実力差が、犬千代の心の中の恐怖を煽り立てる。次の瞬間、奥の茂みより花が飛び出しくないで伊佐入道に襲いかかるものの、裏拳を喰らって大木に打ち付けられる。木を失ったのか、花はその大木に力なくだらりともたれ掛かるだけであった。「守られてばっかだよな・・俺・・・。」犬千代はそう呟きながら立ち上がる。「命だって・・・なんだって賭けていい・・・。花を・・・。花を守りたい・・。」すると、次の瞬間に犬千代は狼の姿から人間の姿に戻る。


 「その覚悟は本当か?」遠い昔に聞いたことがあるような声が右側から聞こえる。犬千代は右を向くと、その目に入ったのは銀色の狼であった。状況を理解した犬千代は、「賭けてやるよ、命でも何でも!」と強く答える。狼は「心得た。」と短く返し、「ただお前は奴を抑え込めばよい。」と続ける。


 次の瞬間、犬千代の体は光を帯びる。次の瞬間、犬千代は一瞬にして伊佐入道の背中を取り、雁字搦めにする。すると狼が「行くぞ・・・?」と問いかける。「貫けよ、俺ごと。」犬千代はそう返す。その瞬間「駄目えええええええええ!」という花の叫び声が響く。しかし無情にも狼は花の叫びに耳を貸そうともせず伊佐入道へ走り始める。伊佐入道は必死に犬千代を振りほどこうとするものの、光を帯びた犬千代の想像を絶する力の前に抑え込まれた。


 犬千代は伊佐入道を抑えつけながら花に最期の言葉を送る。「花、しっかりと、生きろよ、俺の分も。後、死んでも、ずっとお前の事が好きだから!」そう言った瞬間、狼は光の塊となって伊佐入道を犬千代ごと貫く。貫き終えた光は、苦戦する風雅の元へと飛び立った。


 「風双裂掌!」風雅は渾身の力で必殺技を放つ。「ふん!」青海入道は限界まで筋肉を硬化させて風双裂掌を防ぐ。「お前に勝ち目はないようだなぁ!伊賀の風神さんよ!うちの佐助殿の方が数段強いぞ。」そういって青海入道も渾身の力で突きを放つ。


 二人の激突に割って入るように光は風雅の元へ降り立った。立ち込めた砂煙が収まった瞬間、花はその光景に涙した。風雅を青海入道の攻撃から守ったのは犬千代の『爪』であった。風雅の腕に鉤爪のような形で犬千代の爪が纏われていたのだ。風雅の目からは一筋の涙が滴る。光が落ちた瞬間に犬千代の最期が伝わったのであろう。


 「そろそろ終わりにしよう、青海入道さんよ。」そう言った風雅は一瞬にして距離を詰め、鉤爪がついた左腕を振り下ろす。「狼爪裂掌!」その叫びがこだました後には、青海入道の命はなかった。


 

 真田十勇士の長である猿飛佐助は目の前の情景に言葉を無くした。眼前に立つ白髪碧眼の少年からただならぬ忍の世界において屈指の実力者である彼でさえ恐れをなす邪気を感じ取った。忍の世界において『龍』と称される異端な者がいる。代々忍の里では『龍紋の異端者は五龍の偉大な加護を受ける。』と言い伝えられている。佐助は今までに『火龍』と『金龍』を目の当たりにした事がある彼は俺に起こった変化が『それら』と一致する事を感じ取った。


 「殺ス・・・。」俺はそういった瞬間に佐助の視界の中から姿を消した。次の瞬間、佐助の左手に激痛が走った。彼は腕を見ると手首から先が無くなっていた。その一瞬の隙を突いて俺は極限までに圧縮した水弾を佐助に打ち込む。佐助が自分の最期を悟った瞬間、水弾は巨大な水の龍によって相殺された。「認めねぇ・・・・。『水龍』は・・・俺だ!」そう言って才蔵は息も絶え絶えに激昂しながら俺を睨みつける。


 「猿飛さん、片手しか使えないアンタは・・・足手まといだ。」才蔵はそう言うと、「ふざけるな!」と佐助は怒りを顕わにするものの、才蔵が「里のため・・・です・・・。」そう漏らすと、彼は了承して茂みへと飛び去った。俺はすかさず水弾を佐助に向って放つものの、才蔵の水の龍によって阻まれる。


 「逃げちまったじゃねーか・・・。じゃぁ・・・お前が・・・・責任を取って死んでくれるんだよな・・・・?」そういう俺に対して才蔵は「悪いな・・・。俺は・・・帰るんだ・・・里にな。」続けて彼は「奥義、八岐大蛇・・・。」そう叫ぶと今まで以上に巨大な龍が八匹出現する。それに対して俺は「月下美人。」そう言った瞬間、俺の両手は真っ白に変化する。


 襲いかかる八匹の龍を俺はただ『受け止める』だけであった。瞬間的に才蔵が全身全霊をかけて作り上げた水の龍を一瞬にして凍結し、破壊した。全ての龍を砕かれた才蔵はこう漏らす。「流石だ・・・水龍・・・。」次の瞬間、彼は絶対零度の氷に一瞬にして包み込まれた。


 「霧隠才蔵・・・討ちとったり・・・。」