「未来卸し・・・?もしかして・・・・俺を呼んだのが・・・?この世界に・・・?」そう俺が問いかけるとイザナミはニヤリと笑ってこう返す。「いかにも・・・。私がお主を呼んだ。お主を未来に返すことも出来るが、もう2年ほど待っていてくれ・・・。まぁ、それまでこの死人の体を借りねばならぬのが苦じゃが・・・・。」俺はこう問いかける。「さっきから・・・死人死人って・・・どういう事やねん・・・?」


 「そのままの意味じゃが・・・。先の術で私は命を使い果たして、お主を帰すために付近で死んでいたこの乞食を魂の宿としたのだ。」俺は驚きのあまりちゃんとした言葉が出てこなかった。「なっ・・・?」追い打ちのようにイザナミは言い放つ。「こ奴は死人よ・・・。」俺は激昂してイザナミを怒鳴りつける「ふっざけるなぁぁ!死人死人って、お前は・・・りんの・・・りんの何を知ってるっつうねん・・・。」


 イザナミは冷たい目で俺を見つめ、ただこう言い放つ。「知らん・・・。たかが死人を知ってどうする?」次の瞬間、俺は水龍を降し白髪碧眼の姿となり、才蔵が使っていた水の龍をイザナミに向けて放つ。「たかが・・・やと?アイツの方が・・・手前の100倍生きる価値があるっちゅうねん!」


 俺が出した水の龍はイザナミに当たる事は無かった。彼女がかざした細い腕の周りに薄い白色の半円形の術式が描かれた楯のような結界に龍は遮られた。彼女は「お主じゃ私には勝てん。」そういって藤林の家へと向かった。ほどなくして俺は藤林に江戸にて将軍の警護を命じられた。


 「樹様・・・着きましたよ?」そういう草月の声で俺は我に帰る。目の前にそびえ立つ江戸城、何度見ても圧巻な様は感嘆に値するものであった。顔馴染みの検問を通り、半蔵の部屋へやってきた。禅を組んでいる半蔵は目を閉じながら問いかける。「樹・・・何の用だ?もう一人は忍者と見受けるが・・・?」


 草月は一歩前に出て半蔵と俺に対して言伝の内容をやっと口にしだした。「暗号となっているらしく・・・訳は存じませんが・・・。『神亡き欠けたる文来たらん、月光にて相照らさん。祭りは近し、水龍早急に集うべし。』・・と。」


 俺と半蔵は首をかしげる。「とりあえず、水龍はお主を指してるな。」半蔵はそう言う。俺はハッと思い付く。「神亡き欠けたる文を月光にて相照らさんは・・・。おそらく神無月がかけて文月になるっつうことか?」半蔵はつぶやく。「十が欠けて・・・七・・・。そうか!二年前の戦いで十が七に欠けたものがある・・・・。」俺は戦慄しながらこう続ける。「来る・・・。十勇士が・・・!半蔵さん、急がしていただきます。」


 半蔵は笑顔を見せてこう言う。「さぁ、十分に暴れて来い。ちゃんと帰って来い。将軍殿は大層お主を気に入っておる、あのお方を悲しませることは許さんぞ?」俺は草月と江戸城を後にした。

 俺の目の前に立つ青年は草月という伊賀忍者であった。彼曰く俺に言伝があるらしいが、彼が本当に伊賀忍者であるかどうかの真偽を確かめるすべなど無かった。そのような事を考えていると俺の膝に頭を乗せている遊女である『お園』が「いつきはん?お仕事行ってまいますのぉ?寂しいわぁ・・・。」その光景を端で見ていた草月は遊女たちの落ち着き具合に驚愕した。先に激戦を目の前にしても、一人たりとも動じてはいない。


 それもそのはずである、遊女たちはこれまでに幾多の戦いを目の前にしてきたものの、樹は決して遊女を傷つけずに勝利してきたから。草月が一人で納得して頷いているところに俺は話しかける。「あんたさー、半蔵さんへの挨拶すんだかぁ?」そう問いかけられると草月はハッとして神妙な面持ちになる。「樹殿、ともに半蔵様の元へ・・・。」そして草月はこう続ける。


 「白様が、おりんどのが待っている・・・・と。」その瞬間、俺は激昂して草月の首を絞め、氷で創られた妖刀である『氷雨』を彼の喉元に突きつけながらこう告げる。「ふざけんじゃねぇ・・・。俺は・・・俺は・・・。『イザナミ』なんぞに会う気はしねーよ。おりんはともかくな・・・。」草月が堕ちそうになった瞬間、俺は我に帰る。「すまねぇ・・・。半蔵さんの元へ急ごう。」そういって俺と草月は遊郭を後にした。


 俺はあの時のことを思い出す。関ヶ原の合戦から約二ヶ月後のことである。その日は修行を休んでおりんと二人でいるはずであった。その日の朝、俺は大きな物音で目を覚ますことになる。虚ろな目に映ったのは自分の隣で苦しそうにうずくまるおりんの姿である。ただ、普通と違ったのはおりんの姿が『ブレて』いるのである。


 決して目の錯覚ではない。俺はおりんの背中をさすることしかできず、俺の意思は逆におりんの『ブレ』は次第に大きくなる。「あぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!」おりんがそう叫ぶと彼女の姿は変わっていた。綺麗な長い白髪に美しい瑠璃色の目はきつい感じを俺に与えた。


 「おい・・・・小僧・・・?お主は何者じゃ・・・?この宿主の夫か?」俺はこう返す「お前こそ何者だ・・・?」。女は軽く笑いながらこういった「頭が高いぞ、小僧。我は伊賀三家が一、百地家のいざなみと申す。我は先の未来卸し(さきおろし)の術にて命を失い、この死者の体に命を宿したのじゃ。」


 俺は不安に駆られた。「な・・。未来卸しって・・。りんが・・・・死人・・・?」

 1602年、伊賀忍者である堤 草月は江戸へ訪れた。最近、『次代の服部半蔵』と噂されている『雷堂 白』の命により、服部半蔵ともう一人の男へ言伝をしに来たのであった。


 白に言われてやってきたのが、江戸の城下町にある最大の遊郭である『宴乃荘』である。受付の女に「一番良い部屋に案内しろ。」半ば強制的に女に案内させて、ある部屋にやってくる。障子戸を開けると、五人の遊女と、それらに囲まれた煙管を咥えた男が眼に入った。


 「あんさんは何もんや・・?」男は悠々と問いかける。「伊賀忍者。堤 草月なり。言伝をしに参りました。」男は不機嫌そうにこう言い放つ「風雅か?白か?じじいか?誰でもええけど、直接来いっつっといて。」草月は怒り狂って男に向って手裏剣を投げつける。しかし、手裏剣は男に届く前に突然出現した氷の壁に阻まれる。


 草月の能力である超人的な脚力を持って畳を蹴って男との距離を詰め、自慢の脚力で蹴りを放つ。しかし、男の煙管からシャボン玉のように泡が膨らみ、ふわりと草月の鼻の頭あたりに浮遊し草月の蹴りが届く前に泡が破裂する。


 凄まじい風圧によって草月は遊郭の窓から外へ飛ばされる。草月が死を覚悟した瞬間、遊郭の窓から延びた巨大な水の腕につかまれ、元の部屋に戻される。自分の目の前の男は最初に座っていた位置から一歩も動かず遊女たちと事も無げに話している。自分との圧倒的実力をを見せ付けられた草月はただただ絶望するだけであった。


 「凄まじき実力・・・。名前を聞かせてもらえませんか・・・・?」草月がそう問いかけると男は満足げにこう答える。

「最初から素直に聞いとけばええのに・・・。まぁ・・・ええか・・・。」そして男はこう続ける。


 「俺の名前は・・・和田樹・・・。水龍を受け継ぐ者・・・・。」その瞳にはどこか寂しげな光が宿っていた。