俺の目の前に立つ青年は草月という伊賀忍者であった。彼曰く俺に言伝があるらしいが、彼が本当に伊賀忍者であるかどうかの真偽を確かめるすべなど無かった。そのような事を考えていると俺の膝に頭を乗せている遊女である『お園』が「いつきはん?お仕事行ってまいますのぉ?寂しいわぁ・・・。」その光景を端で見ていた草月は遊女たちの落ち着き具合に驚愕した。先に激戦を目の前にしても、一人たりとも動じてはいない。


 それもそのはずである、遊女たちはこれまでに幾多の戦いを目の前にしてきたものの、樹は決して遊女を傷つけずに勝利してきたから。草月が一人で納得して頷いているところに俺は話しかける。「あんたさー、半蔵さんへの挨拶すんだかぁ?」そう問いかけられると草月はハッとして神妙な面持ちになる。「樹殿、ともに半蔵様の元へ・・・。」そして草月はこう続ける。


 「白様が、おりんどのが待っている・・・・と。」その瞬間、俺は激昂して草月の首を絞め、氷で創られた妖刀である『氷雨』を彼の喉元に突きつけながらこう告げる。「ふざけんじゃねぇ・・・。俺は・・・俺は・・・。『イザナミ』なんぞに会う気はしねーよ。おりんはともかくな・・・。」草月が堕ちそうになった瞬間、俺は我に帰る。「すまねぇ・・・。半蔵さんの元へ急ごう。」そういって俺と草月は遊郭を後にした。


 俺はあの時のことを思い出す。関ヶ原の合戦から約二ヶ月後のことである。その日は修行を休んでおりんと二人でいるはずであった。その日の朝、俺は大きな物音で目を覚ますことになる。虚ろな目に映ったのは自分の隣で苦しそうにうずくまるおりんの姿である。ただ、普通と違ったのはおりんの姿が『ブレて』いるのである。


 決して目の錯覚ではない。俺はおりんの背中をさすることしかできず、俺の意思は逆におりんの『ブレ』は次第に大きくなる。「あぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!」おりんがそう叫ぶと彼女の姿は変わっていた。綺麗な長い白髪に美しい瑠璃色の目はきつい感じを俺に与えた。


 「おい・・・・小僧・・・?お主は何者じゃ・・・?この宿主の夫か?」俺はこう返す「お前こそ何者だ・・・?」。女は軽く笑いながらこういった「頭が高いぞ、小僧。我は伊賀三家が一、百地家のいざなみと申す。我は先の未来卸し(さきおろし)の術にて命を失い、この死者の体に命を宿したのじゃ。」


 俺は不安に駆られた。「な・・。未来卸しって・・。りんが・・・・死人・・・?」