「犬千代・・・追いつかれる・・・。」花は絶望したかのような小さな声を発する。「追いつかれたら・・・確実に殺されるな・・。」そう返した犬千代に対して花は返す言葉を見つける事が出来なかった。「花、逃げろ。」犬千代の提案に対して花は怒り心頭な様子で、「ふざけないで!あなた一人を置いて、私だけ逃げるなんて!」しかし犬千代は無視して続ける。「もう直、伊賀の里につく。風雅あたりを読んできてくれないか?」花は犬千代の強い視線を受け止め、力強く頷く。
犬千代が両手をバレーボールのレシーブのように構えた上に花は飛び乗り、犬千代はそのまま花を放りあげた。すさまじい勢いでかなりの距離を飛んだ花は、着地後も全く止まらずに伊賀へ全速力で向かうのであった。一方、その場に残った犬千代のもとに、青海入道と伊佐入道が追い付く。正攻法では敵わないと悟った犬千代は、砂を二人に投げつけ、再び林の中に姿を隠した。
それから数十分後、花は伊賀の里へたどりつく。自分の感知能力を限界まで研ぎ澄まし、風雅を探し当てる。風雅を見つけ出した花は「風雅!大変なの、十勇士と遭遇して・・・!」風雅はただ頷き、花を背負い、全速力で里を後にした。その頃、犬千代は二人の入道から逃げ切れることが出来ず、追い詰められていた。「そろそろ、観念したまえ・・・。」そう言って二人は同時に拳を振るう。
その瞬間、一つの影が犬千代の前に割って入る。「風双裂掌!」風雅は風双裂掌によって二人の入道の攻撃をはじく。「犬千代、二手に分かれるぞ!」そういって彼は青海入道を蹴り飛ばし、犬千代たちから距離を取った。犬千代も伊佐入道の一瞬の隙を突き、爪を立てて拳を振るう。しかし相手の鋼の体の前には意味をなさなかった。五分の戦いを繰り広げる風雅をよそに、犬千代はただ絶望するだけであった。
圧倒的な実力差が、犬千代の心の中の恐怖を煽り立てる。次の瞬間、奥の茂みより花が飛び出しくないで伊佐入道に襲いかかるものの、裏拳を喰らって大木に打ち付けられる。木を失ったのか、花はその大木に力なくだらりともたれ掛かるだけであった。「守られてばっかだよな・・俺・・・。」犬千代はそう呟きながら立ち上がる。「命だって・・・なんだって賭けていい・・・。花を・・・。花を守りたい・・。」すると、次の瞬間に犬千代は狼の姿から人間の姿に戻る。
「その覚悟は本当か?」遠い昔に聞いたことがあるような声が右側から聞こえる。犬千代は右を向くと、その目に入ったのは銀色の狼であった。状況を理解した犬千代は、「賭けてやるよ、命でも何でも!」と強く答える。狼は「心得た。」と短く返し、「ただお前は奴を抑え込めばよい。」と続ける。
次の瞬間、犬千代の体は光を帯びる。次の瞬間、犬千代は一瞬にして伊佐入道の背中を取り、雁字搦めにする。すると狼が「行くぞ・・・?」と問いかける。「貫けよ、俺ごと。」犬千代はそう返す。その瞬間「駄目えええええええええ!」という花の叫び声が響く。しかし無情にも狼は花の叫びに耳を貸そうともせず伊佐入道へ走り始める。伊佐入道は必死に犬千代を振りほどこうとするものの、光を帯びた犬千代の想像を絶する力の前に抑え込まれた。
犬千代は伊佐入道を抑えつけながら花に最期の言葉を送る。「花、しっかりと、生きろよ、俺の分も。後、死んでも、ずっとお前の事が好きだから!」そう言った瞬間、狼は光の塊となって伊佐入道を犬千代ごと貫く。貫き終えた光は、苦戦する風雅の元へと飛び立った。
「風双裂掌!」風雅は渾身の力で必殺技を放つ。「ふん!」青海入道は限界まで筋肉を硬化させて風双裂掌を防ぐ。「お前に勝ち目はないようだなぁ!伊賀の風神さんよ!うちの佐助殿の方が数段強いぞ。」そういって青海入道も渾身の力で突きを放つ。
二人の激突に割って入るように光は風雅の元へ降り立った。立ち込めた砂煙が収まった瞬間、花はその光景に涙した。風雅を青海入道の攻撃から守ったのは犬千代の『爪』であった。風雅の腕に鉤爪のような形で犬千代の爪が纏われていたのだ。風雅の目からは一筋の涙が滴る。光が落ちた瞬間に犬千代の最期が伝わったのであろう。
「そろそろ終わりにしよう、青海入道さんよ。」そう言った風雅は一瞬にして距離を詰め、鉤爪がついた左腕を振り下ろす。「狼爪裂掌!」その叫びがこだました後には、青海入道の命はなかった。