1615年夏、ついに徳川 家康は豊臣家を潰すために大阪城を責め崩しにかかった。方々から怒号が聞こえるなか、悠然と裏口から入りこむ中隊があった。


「出会えい出会い!何者じゃうぬら!後ろより入り込むとは兵の風上にもおけん奴よ!とりかこめーい!」


 偉そうな鎧武者が中隊を取り囲むように部下を指示する。


「あーったま悪いんちゃいます?兵ちゃいますがな・・・・忍ですがな・・・。」


 おどけた口調で樹がそういうと中隊の周りに無数の水の鞭が現れ、周りの武者をなぎ払う。全員を気絶させたのち、堂々と裏門へ姿を消した。




「気を付けろ・・・。ここの中には忍が何人かいる・・・。忍とはち合わせた場合、お前らはじっとしていろ。俺とこいつでどうにかする・・。」


 風雅は坂崎 出羽守という男から借り受けた兵に喚起する。千姫を奪還するという任務ゆえか、誰一人としてざわつきはしなかった。


 数階上に上ると、樹と風雅は目を合わせる。彼らは他に忍が居ることをいち早く感じ取り、兵たちに注意を促す。


「この階・・・・二人おるで・・・・?」


「まぁ・・・・手練だろうが・・・・こんな所で足踏みしている間は無いぞ?」


 『わかってらぁ』樹がそうもらすとともに風雅と樹は左右に分かれる。




「ありゃ・・・・?さっきまで確かに『気配』がしてんけどな?」


 次の瞬間、樹は何者かに蹴られ、数メートル吹き飛ばされる。瞬時に立ち上がるものの周りに敵の姿はない。ただ、おかしな事に『気配』は感じる。すると、その『気配』を感じた場所に肌の白い長身の男が現れる。


「こんにちわ、和田 樹クン。私は海野 六郎と申します。能力は『封印』先ほどは『気配』と『姿』を消させていただきました。」


「ほー、礼儀正しい人ですね。こっちも改まりますわ。んまぁ、その口ぶりじゃ毎度一つずつしか封印できひんらいいですな?」


 次の瞬間、六郎は樹の前へと距離を詰め、彼の胸へ腕を添える。


「先ほどは私の『殺気』を消させていただきました。そして・・・・・今、貴方の『水龍』の力を完全に封印しました・・・貴方に水の加護は訪れませんよ・・・・。」

「姫様・・・霧隠 才蔵とう男が姫にお目にかかりたいと・・・。」


「とおせ・・・。」


 千姫はぼんやりと赤く染まった城外を見渡しながら答えた。城の周りには黒い影が蠢く。明日、明日には合戦が始まるだろう、そんな雰囲気を感じ取っていた。


「お久しぶりです・・・姫・・・。」


「の・・・のあ!?」


 千姫は乃亜を見るやいなや彼に飛びつく。乃亜をひしと抱きしめて、ぽろぽろと大粒の涙を流す。


「どうして?どうしていままでかおをみせんかった?」


「僕に会うと・・・姫が悲しむんじゃ無いかと思って・・・。二年前を思い出させたくなくて・・・・。」


「よい・・・・よい・・・・。のあがいきているとわかっただけで・・・わしは・・・・。」


 二人は空白の二年間を語り合った。ともに、単調な二年間だったが、話は絶えなかった。それは、千姫の人柄からか、彼ら二人の絆からかはわからない。


「それで・・・・ですね・・・。僕は・・・何のために戦えばいいかが判らなくなった・・・。和田 樹の一言で・・・。」


「のあにとって『だいじなもの』とはなんじゃ?」


「『大事なもの』それは・・・・・・。」


 言いよどむ乃亜に千姫は優しく語りかける。


「『だいじなもの』はかんがえるのでなく・・・・かんじるものじゃ・・・。」


 彼女の手が乃亜の左胸に触れる。手の温かみが伝わり、自然と乃亜は紅潮していた。


「答え・・・・見つけた気がします・・・。」


 乃亜は優しい笑顔を見せる。それに釣られてか千姫も彼に笑顔を返す。そのまま乃亜は天守を後にし、眠りにつく、明日に備えて。

「秀康よ・・・・よく帰ったな・・・。」


 笑顔でそう返す家康を物陰から見守っていた白は絶句した。徳川 秀康、いや、結城 秀康と言うべきであろうか、その男は既に死したはず家康の次男である。半蔵は白の存在に気付き、部屋に招き入れる。


「秀康・・・いやっ、半蔵はのぉ・・・。世間では死んだ事になっておるのだが・・・・これはむずかしくてのぉ・・・。」


 困る家康に半蔵が付け加える。


「まず・・・俺が家康公の息子であることは事実だ。次男であった俺は小国三河を護るために伊賀の里に預けられた。齢五歳の頃、兄の信康が切腹を命じられた。しかしその頃私は忍者としての才能を開花させはじめた頃だった。父は私を次代の服部 半蔵とする事を決意した。その後五年がたち、父の力と『服部 半蔵』を恐れて小牧長久手の和平条件として『松平 秀康』を人質とすることを望んだ、まぁ、伊賀の方で影武者を立てたのだがな。」


「では?何故里を去った貴方が此処に・・・。」


「千姫は・・・・私といざなみの娘だよ・・・。アイツには『過去と未来を繋ぐ能力』を持っている。それは『同じ能力を持つもう一人』が居なければ成立しないものだ・・・。しかし、先日、燐によって相方が揃った。猿飛 佐助の娘だ。それがそろった今、事態はかなり悪いものだ。私は今まで大阪城にて千姫を影から護っていたが、最近はアイツの周りにつわものが揃ってな・・・・。」


「真田・・・十勇士・・・。」


「前回の大阪城合戦ではそうでもなかったのだが・・・。『鬼』と化す三好 入道。『不動明王』と称される望月 六郎。『封魔』と呼ばれる海野 六郎。『大鎌』の由利 鎌ノ介と『土蝦蟇』の穴山 小助。そして今回加わった『水の魔術師』霧隠 才蔵、『炎龍』根津 甚八。」


「燐さんが根津 甚八?彼女は猿飛 佐助じゃないのですか?」


「彼女ですらその位置という事は、猿飛 佐助は千の能力で呼び出された誰か・・・だな。」


「先代猿飛 佐助?それとも・・・・・。」


「それはわからない。ただ、問題なのは筧 十蔵。奴は『魔王』の遺志を継いでる者だ・・・。」


「なっ!?」


「話はすこし遡る。太閤秀吉は人たらしの才で農民より天下人へと成り上がった。地位を得るに連れて奴は妻に永遠の美を求めた。そして奴は・・・・・妻の茶々に・・・・かつて光秀が成敗した『魔王 信長』の身体の一部を埋め込んだ。彼奴の思惑通り茶々は永遠の若さを得た・・・。それが間違っていたのだよ・・・。茶々、いや、淀君は・・・秀吉でなく、魔王に忠実だったんだ・・・。奴は各地より実力者を集め、最高の城である大阪城に配備した。この決戦・・・今のところは奴の筋書き通りに進んでいる・・・恐ろしい女よ。」


 かつてより尊敬している師が冷や汗を流す横で、白も同じ表情となってただ呆然と地面を覗いていた。