「あれ・・・?水龍さん?貴方の戦いは逃げ一辺倒ですか??」


 能力を封印された樹に、海野は精神的に揺さぶりをかける。


「あんまっ・・・・調子のッとんと・・・・ちゃうぞっ!!」


 強烈な回し蹴りを避けながら海野はほくそ笑む。冷静だと聞いてたこの男も、能力を奪われては平静を保てない・・・わかっていたがそれを実感した今、勝利は眼前へと迫っていた。


「次はよけれますか?」


 指の間に苦無を挟み、それを樹に目がけて投げつける。苦無のうちの一本が足に直撃した樹はその場につんのめる。


「これで終わりです。」


 小太刀を振りかざす海野に対し、樹は床に刺さった区内を抜き取りそれを捌く。やはり刀でなくては勝手が悪く、海野に分があることは言うまでもない。


「ほぉ・・・そう粘りますか・・・。」


 黙りこくった樹に対して海野は容赦なく攻撃を続ける。樹はなんとか斬撃をさばきつつ傷ついた足を引きずりながら広い部屋の隅を逃げ続ける。数分ほど粘ったものの、樹の脚に限界が来る。部屋の隅にへたり込んだ樹に海野は冷たい視線を送る。


「残念でしたね・・・・。そもそも、能力にかまけて装備を怠る忍などこの程度ですよ・・・。」


「ふふっ・・・・・はっ・・・・・はーっはっはっはっはっはー。」


 止めを刺そうとした海野は突然笑いだした樹の様子を不審に思い、振り上げた小太刀を下す。


「何がおかしいのです・・・!?」


「いやぁ・・・・アンタの言う通りだよ・・・・海野さん・・・・能力にかまけた忍なんてこの程度さ・・・。」


 樹がそういった瞬間、二人を乗せた部屋の床が軋り、そのまま抜け落ちる。床が下の階に落ちるのと同時に樹は電光石火の勢いで転がっていた兵士の死体に寄り、腰にある刀を抜き取った。


「いやー、アンタが俺の右足に仕込んだ刃に気づかんでよかったわ。足引きずっているふりして部屋の床を傷つけてたのよっ、んで二人の体重で床が抜けおち、無事に刀をゲットできましたよーっつう事やねんわ。あんたが『かまけて』くれたおかげやわ、ホンマ。」


「くっ・・・!!刀を得たとて・・・私の優位には・・・・。」


 言い終わる前に、彼の命は途絶えていた。一瞬の閃きを見た時にはもうすでに時遅し、樹は海野を袈裟切りにした後、馴染ませる様に復活した能力を駆使して水球を作り上げ、回転させる。


「残念でした・・・・。龍の中にゃぁ・・・『かまける』様な奴はいーひんよ・・・・。・・・・んな奴はもうとっくに死んでるやろうからさ・・・・って聞いてないか・・・・。」


 樹は軽い足取りで階段を上って行った。

「あんまり時間をかけたくないんだよね・・・・・雷光の矢!」


 砂鉄で出来た首飾りを弓の形に変化させ、電気の矢を番える。『ギュン』という音を残して矢は小介に向かって飛んで行く。しかしその矢を大蝦蟇が飲み込む。白は動じず腕に電気を纏い、小介に殴りかかる。


「あっ、いや~、聞かぬなぁ~!」


 白と小介の間に土が盛り上がって割って入る。纏った電気は吸い取られ、白はカウンターの一撃を腹に見舞われる。小さくせき込んだ後、首飾りを刀に変えて切りかかるも土蝦蟇に阻まれる。


「絶対絶命とわぁ~、こっ、このことだなぁ~・・・・!」


 小介が声高らかに大声をはりあげる。すると白はニコリと笑顔を見せる。


「ん~・・・・ちょっと腹立つな・・・・。もういいやっ、樹君に教えてもらった『とっておき』を使おうかな。」


 次の瞬間、小介は後ろへ飛び退く。忍としての本能が彼にそうさせたのだ、白の殺気を感じ取って。一方白は右手に砂鉄を集める。筒状になったそれは六つの空洞があり、現代でいうガトリングに近いものになった。パラララという小気味のよい音とともに巨大な銃弾が射出される。連続して打ち出される銃弾を避ける事が出来ずに小介は足に負傷を負う。


「さっき、嘘をついたんだ・・・・。腹が立ったのは君へじゃない・・・・僕へ・・・いやっ、『服部 半蔵』という地位に・・・・。風雅は・・・・樹君が帰って来て・・・すごく嬉しそうなんだ・・・。そんな彼と背中を守りあう事が出来ない。とってもそれが腹立たしい・・・・。だから・・・・悪い言い方すれば・・・これは・・・八つ当たりみたいなもんだね・・・・・。」


 腕の砂鉄がさらさらと飛び散り、白の全体を覆い尽くす。西洋甲冑を模した黒き鎧が白の体を包む。上品な口元と優しく曲がった栗色の毛だけが鎧から姿を見せていた。下半身に至っては馬のような強靭な四本足のものになっていた。


「防いでみなよ・・・・・?奥義・・・・・黒騎士・・・・!」


 風を切り、音より速く白は距離を詰め、右手に持った長槍で渾身の突きを放つ。その威力は絶大で、守りに入った土蝦蟇ごと小介の上半身を完全に貫いていた。というより抉っていたというほうが正確であろう。完全に彼の上半身は消し飛び、蝦蟇の体には巨大な穴がぽっかりとあいていた。


「おみごと!是非是非次は我々とお手合せ願いたい・・・・雷堂 白殿・・・・。」


 凛々しい顔をした青年が三人の大男を連れて白の後ろに立って居た。白は体勢を立て直し、三人を睨み付ける。『全員手練だ・・・・・。この人数はまずいっ!』


「そんな人数・・・・・性質が悪いんじゃないの・・・?」


 金髪男がぬらりと間に割って入る。長身の彼は見下すようにして青年に言い放った。


「俺たちも混ぜて貰おうかな。」


 甲賀忍である廻神と面無二人の加勢、この上なく心強い援軍であった。

 水龍が封印された。その事実にさすがの樹も狼狽してしまう。必死に平静を装うものの、こちらの動揺は相手に筒抜けだった。


「たっ・・・たとえっ!たとえ水術がつかえんくてもなぁ・・・・。俺には伊藤 一刀斎譲りの剣術が・・・・って『氷雨』も出せヘんねんな・・・・。」


 冷汗が頬を過ぎて行った。同時に、六郎は樹に向って飛びかかっていた。




 一方、風雅は奥の間で異変を感じ取っていた。


「そろそろ出てこい・・・・。」


「いひっ・・・。見つかっちゃいましたか・・・私は・・・由利・・・鎌之介・・・・。」


 三メートルほどの両刃の大鎌を肩に担いだ背の高い男が現れた。痩身で眼は細く、その男から感じる雰囲気は不快感以外の何でも無かった。


「先代の鎌之介は・・澄んだ瞳をしていたが・・・・。うぬのそれは濁りきっているな・・・・。」


「ひひひっ!結構・・・!下衆と言いたいならそういいなっ!私は誰かを『切り刻む』事がモットーであってそれは非難されようが関係ない・・・・・!」


 そう言うと鎌之介の周り十メートル四方に無数の鎌が現れる。こちらは主に農具にて使われるサイズのもので空中に浮かびながらヒュンヒュンと音を立てて回転していた。


「いひひひっ!お前を切り刻める・・・・ひひひひひっ!」


 無数の鎌が襲い来る中、風雅は不敵に笑いだした。




「伝令!只今、真田 幸村が手勢三百騎を連れてこちらに進撃中!ぜひ!ご指示を!」


「伊賀者が彼奴等を進撃しやすいように退路を塞ぎ、時を待つんです。」


 やわらかな口調で白は伝令の男に指示を出す。彼自身は樹、風雅と一緒に城に入りたかったのだが、今の彼には身分がある。それゆえにこうして家康の隣で待機しているのだ。


「少し待ってください・・・変更です・・・・。幸村の隊を足止めしてください・・・・。どうやら・・・・敵がこの本陣に潜りj込んだようです・・・・。」


 そういうなり白は掌の中に作り上げた雷球を地面に向かって放つ。次の瞬間地面から小さな男の悲鳴が聞こえ、その直後に男は土の中から飛び出してきた。


「ゲホッ・・・・ゲホ・・・・・よぐきづいだな・・・・・。」


 男はさも『水に溺れて水を飲んだ』かの様なそぶりで口から泥を吐く。そしてそのまま地面から体をするりとあらわにする。


「せぇ~っかく人が気持よく泳いでいるのを邪魔するたぁ~・・・・・まったく無粋な野郎だぜ~い。」


 ゆっくりと豪快に男は長く赤い髪の毛を振るう。髪についた泥は全て水のように飛んでゆく。彼が獅子のようにその長い髪を回すのと同時に、彼の足もとから巨大な蝦蟇蛙があらわれた。


「あぁ~~~いよっとっ!俺の名前はぁ~穴山ぁ~小介ぇ~・・・・。人はこう呼ぶ・・・・『自来也』様ってなぁ~!!」


 白は呆気にとられながらも臨戦態勢に入る。『どうにか楽しめそうだね』そうもらした彼の口にはあの頃と同じ屈託のない笑みが含まれていた。