水龍が封印された。その事実にさすがの樹も狼狽してしまう。必死に平静を装うものの、こちらの動揺は相手に筒抜けだった。
「たっ・・・たとえっ!たとえ水術がつかえんくてもなぁ・・・・。俺には伊藤 一刀斎譲りの剣術が・・・・って『氷雨』も出せヘんねんな・・・・。」
冷汗が頬を過ぎて行った。同時に、六郎は樹に向って飛びかかっていた。
一方、風雅は奥の間で異変を感じ取っていた。
「そろそろ出てこい・・・・。」
「いひっ・・・。見つかっちゃいましたか・・・私は・・・由利・・・鎌之介・・・・。」
三メートルほどの両刃の大鎌を肩に担いだ背の高い男が現れた。痩身で眼は細く、その男から感じる雰囲気は不快感以外の何でも無かった。
「先代の鎌之介は・・澄んだ瞳をしていたが・・・・。うぬのそれは濁りきっているな・・・・。」
「ひひひっ!結構・・・!下衆と言いたいならそういいなっ!私は誰かを『切り刻む』事がモットーであってそれは非難されようが関係ない・・・・・!」
そう言うと鎌之介の周り十メートル四方に無数の鎌が現れる。こちらは主に農具にて使われるサイズのもので空中に浮かびながらヒュンヒュンと音を立てて回転していた。
「いひひひっ!お前を切り刻める・・・・ひひひひひっ!」
無数の鎌が襲い来る中、風雅は不敵に笑いだした。
「伝令!只今、真田 幸村が手勢三百騎を連れてこちらに進撃中!ぜひ!ご指示を!」
「伊賀者が彼奴等を進撃しやすいように退路を塞ぎ、時を待つんです。」
やわらかな口調で白は伝令の男に指示を出す。彼自身は樹、風雅と一緒に城に入りたかったのだが、今の彼には身分がある。それゆえにこうして家康の隣で待機しているのだ。
「少し待ってください・・・変更です・・・・。幸村の隊を足止めしてください・・・・。どうやら・・・・敵がこの本陣に潜りj込んだようです・・・・。」
そういうなり白は掌の中に作り上げた雷球を地面に向かって放つ。次の瞬間地面から小さな男の悲鳴が聞こえ、その直後に男は土の中から飛び出してきた。
「ゲホッ・・・・ゲホ・・・・・よぐきづいだな・・・・・。」
男はさも『水に溺れて水を飲んだ』かの様なそぶりで口から泥を吐く。そしてそのまま地面から体をするりとあらわにする。
「せぇ~っかく人が気持よく泳いでいるのを邪魔するたぁ~・・・・・まったく無粋な野郎だぜ~い。」
ゆっくりと豪快に男は長く赤い髪の毛を振るう。髪についた泥は全て水のように飛んでゆく。彼が獅子のようにその長い髪を回すのと同時に、彼の足もとから巨大な蝦蟇蛙があらわれた。
「あぁ~~~いよっとっ!俺の名前はぁ~穴山ぁ~小介ぇ~・・・・。人はこう呼ぶ・・・・『自来也』様ってなぁ~!!」
白は呆気にとられながらも臨戦態勢に入る。『どうにか楽しめそうだね』そうもらした彼の口にはあの頃と同じ屈託のない笑みが含まれていた。