両党首の戦いに、その場に居る全ての者が見入ってしまった。戦は止り、彼ら二人に場所を開け渡す。藤林は蝶が如く優雅に舞い、彼が手を振るうと地面に巨人の手形のような痕が残る。一方廻神は光を纏い、神速の技をくりだす。


「成程・・・・。じじいの力は引力と斥力か・・・・。どおりで手応えが無いわけや・・・・。」


「向こうの長さんは・・・・光・・・・かな・・・?」


 俺と白も固唾をのんで戦いの行方を見守る。そして双方大技を放とうとした瞬間、別方向より凄まじい殺気が放たれ、つぎの瞬間その場に居る者全ての行動は封じられた。空は、大きな雲に覆われていた。


「待たれよ双方・・・・。戦をしている余裕などありませぬ・・・・。某が掴んだ情報では、風魔・根来・戸隠・・・・そのたもろもろの多勢がここに攻め込んでくる模様。天海めの謀略にありまする・・・。」


「してっ、半蔵・・・・。彼奴の居場所は・・・?」


 顔は泥にまみれ、所々負傷しているその男は、確かに服部半蔵であった。


「富士の樹海の風魔の城に・・・・五鬼と共にいるようであります・・・・。少数・精鋭で攻むるべきかと・・・・・。」


「猶予は・・・・なしですか・・・・。ご老体・・・・!貴方が望むのであれば・・・・。」


「そうじゃな・・・甲賀の・・・。龍を連れてワシ等もいくか・・・。」


 二人の党首が手を取り合った。しかし、伊賀甲賀双方から不評の声が上がる。


「下らない因縁なんて忘れろ・・・・・。」


 俺はそう言い放つ。周りから罵声や野次が聞こえる。


「敵を討ったって・・・何も戻ってこない・・・新たな連鎖が生まれるだけだ・・・。死した者達が俺らに望むのは、『まっすぐ前を見ることだ』因縁や・・・復讐なんて・・・・ただただ過去に捕われているだけだ・・・。苦しいなら顔を上げろ・・・辛いなら手を取り合え・・・・・それが・・・人間だろ・・・・?」


 俺の言葉は全員に届いた。自然と涙があふれ出る。この言葉はもしかしたら、ただ、自分に言い聞かせたかっただけの物だったのかもしれない。

 天海は自分の顔の右半分の異形な部分を親指で指し示す。これあ『魔王』だとでもいいたいのであろう。たしかにそこからは禍々しい殺気が放たれている。


「見事であった。信長は自身から実験台となる事を申し出た。そして彼は絶大な力を手に入れた。それは私にとっても恐怖となるものであった。そして起こったのが『本能寺の変』やっとの思いで魔王を倒したものの、私は深手を負った。それ故に魔王と共に『転生』したのだよ・・・。」


「転生・・・だと・・・?」


 俺の反応を愉しむかのように天海は笑みを漏らす。


「さて・・・・私の名前は・・・・うぬの時代では広まっているのか知らんが・・・・自己紹介しておこう・・。私は・・・・大陰陽師『安倍晴明』と申す・・・以後お見知りおきを・・・水龍。あぁ・・・残念だが・・・そろそろ時間だ・・・・・ぬしもここで帰らねば戦に遅れるぞ・・・?」


 そう言って悠々と晴明はその場を後にした。半蔵の居場所を調べることは出来なかったが、彼が幕府を牛耳っているという事実をまず藤林に伝えねばならなかった。


 伊賀に帰ると里はもぬけの殻であった。俺は甲賀の里との境界にある森に囲まれた原地にむかった。そこには甲賀・伊賀の忍が戦いの始まりを今か今かと待ち望んでいた。俺は藤林に江戸で起こった事を伝える。しかさいその瞬間に甲賀方の陣太鼓がなり、戦が始まった。


「遅かった・・・か。」


 そういうと藤林は敵軍がひしめく付近の上空まで一飛びで移動する。そして彼が拳を振るった瞬間、多くの甲賀忍者が押しつぶされた。


 その瞬間、甲賀方の一番奥より閃光が放たれる。それは藤林にあたり、彼は一瞬空中でよろめく。


「相変わらずじゃのお、廻神め・・・・。」


 その光を放ったのは甲賀の党首、廻神 奏であった。

 最悪との邂逅。いや、彼が謀って対峙したのであればその表現は不適切であろう。ただただ彼の目を見つめるがいざとなっては言葉が出ない。


「お話しには聞いておりますよ・・・樹様・・・なんでも、甲賀の十勇士の内、6人も貴方が倒したとか・・・・。猿飛佐助に、霧隠才蔵・・・。」


「なっ、何故だ・・・・・信玄公にも用いられ、明智光秀とも言われる天海殿がっ、何故かような若さを持っておるのだ・・・?」


 彼の言葉を遮る様に放たれた俺の声は上ずっていただろう。目の前の現実と史実との違いに驚愕し、平静を保つことが出来なくなっていた。


「ほぅ・・・・信玄公の時はホンモノの天海でありました・・・。それに私が成り代わったのです・・・・。そうっ、私は明智光秀と名乗っていた時期もありました・・・。」


「答えに・・・・なって無ぇぞ・・・。」


 彼は自分の頭の皮を引っ張ってはぎ落とす。すると彼の顔の右半分に現れたのは焼け爛れたような黒い肌と黄金に輝く人間のものではない何かの目である。


「私は・・・・貴方と対を成すものにあります・・・。貴方が未来からやって来たのであれば・・私は過去より・・・。一度死んだ私は再び魂と元の記憶を得て赤子よりすごした・・・・。それも七十年ほど前であろうか・・・。私は忍として育てられ、『金龍』の素質を開花させた。」


「『金龍』だと・・・・?」


 俺は再び目を丸くする。目の前に居る男が金龍、現実逃避したくなるほど思いそれを必死に受け止めた。しかし彼の言葉は更なる相打ちをかける。


「そして私は明智光秀となって足利を通して織田家随一の家臣となる。そこで私は実験をした。・・・・・織田信長という人間は私ですら感嘆出来るほどの器であった。まさに人間にしておくにはもったいない程だ・・・・。そして私はやつにかねてから召喚をためらっていた『魔王』を取り付かせたのだ。」


「『魔王』・・・だと・・・?」