『もう一人の自分』、そんなものが欲しいと思う人は少なくないであろう。それを現実にしたのがCBC(Cyber Brain Corporation)である。彼らは現実と違う『仮想世界』を作り上げた。現実と違うが、デジタル空間でもない『亜空間』を発表し、そこにおける生活が可能かなどを証明した。


 『Another』と言われる物は、一個人の性格・身体的特徴・経験を数値化し、それから割り出された姿と性格を身に付けた一種のモンスターである。一個人につき一アナザーとなり、全ての人間がそれを持っている。アナザーは亜空間内にのみ生存し、現実世界には干渉できない。


 このアナザーにおいてもっとも特徴的なのは『Trans』といわれる変身能力が付いているということである。解放(Release)することによって姿を変える。それは専ら武器であり、ごく稀にアナザーが進化すると言われている。





 『キーンコーンカーンコーン』


「うっわ、だりー、亜空間学とか・・・常識だろ・・・?」


「怒るなって、武!明日休みじゃねーかよ・・・。それによ・・・都市伝説っつわれてるチーム飾り無き曲芸団ことCOA(CIRCUS OF ARTLESS)のメンバーのバトル映像手に入れたんだって、うちに見に来いよ!」


 今作の主人公となるのはこの男、和田 武である。身長は172で少し長めの髪をはねさせ、前髪をヘアピンで留めている。そしてその眼は鋭く、力強い。これが災いして、一般的に言うとかなり格好良いのだが、女子からは敬遠されているようだ。


「ゴルァ、武・・・!前はよくもやってくれたなぁ・・・・!」


 もう一つの災い。彼はその風貌からよく不良に絡まれる。そして彼はその腕っ節の強さで、大概返り討ちにするのだが、こんな風によく報復にやって来る。


「悪い・・・ヤス!データ送っといてくれ・・!」


 そういって俺は友人と別れ、報復にやってきた不良をまた返り討ちにするはずだった。しかし武は亜空間につれこまれ、何十人もの不良に囲まれ、たこ殴りにされた。


「この数に囲まれ・・・・こっちはアナザー全装備・・・。お前にアナザーが居ないってのは本当だった見たいだなぁ・・?!」


「えー・・・・弱いものいじめー・・・?しかも何十人も・・・・うわー・・・ダッサー・・・・。」


 その声がする方へ不良達は視線をやる。声の主は碧い目の一角白馬に乗ったショートカットの少女であった。


「何もんだ・・!?このアマぁ・・・・俺ら挑発してタダで済むと思うなよ・・・!?」


「私はぁ~『飾り無き曲芸団』所属の綺羅で~す!よろしく~!」


 これの出会いが武の運命を大きく変えるものとなるのであった。

 都内の孤児院『あさがお』にて、俺は過去の物語をこうして孤児達に語っている。現代に帰ってから二年たった今、東京にある藤林家に引き取られて、影より国の安泰を担う仕事をしている。現在に『刃心』は残っておらず、俺の水龍の力も無くなった。ただっ、刃心の恩恵で、頭脳と運動の力において、人間離れするものを手に入れた。


「樹兄ー、お犬のおにーちゃんは、もう帰ってこないのか・・・?さびしく・・・ないか・・・?」


 五歳ぐらいの少年が、笑顔で鼻水をたらしながら俺に聞いてくる。この笑顔を、守って生きていこうと最近強く思うようになった。


「犬千代は・・・・帰ってこない・・・・んでも・・・・寂しく・・・・ないかな?犬千代とか・・・他のみんなは此処に居る。」


 そう言って左胸を指す。


「ところでね・・・樹兄ー、樹兄は、陽炎さんと、おりんさん、どっちが好きなの・・・・?」


「おいっ、レナっ・・・・・・お前そーいう質問は・・・・だなぁ・・・・・。」


「このっ、浮気もの~♪」


「こらっ、小さい奴にんな言葉教え込むなっ!」


 あさがおで最年長にあたる十四歳のレナがここぞとばかりにからかってくる。


「んでよっ、樹兄ー、どうだったんだよ・・・忍の世界はよ。」


 同じく最年長の武が質問してくる。


「楽しかったし、その分辛かった。でも・・・・俺は・・・前を向くことを学んだ・・・。だから、それを知って欲しくてこうやって話してるんだよ、俺の物語をよ・・・・。」


「樹兄ー、俺の物語も・・・・・あるかな・・・・・?」


 俺は微笑みながら武の頭を撫でる。


「ふとした瞬間に物語りは始まるんだよ・・・・。ただし・・・な。お前の物語を書き上げるのは・・・・お前だ・・・・。わかたな・・・?」


 そう、これから二年後、新たな物語が始まり、その主役が武である事を、今この時点では誰も知らない。


【完】

 イザナミが、現代とこの時代とを繋ぐ門を開ける。そこからゆっくりと白い腕が俺をつかみ始める。


「じーさん!俺もっ、俺も感謝してる・・・!この世界に呼んでくれて・・・・ありがとう!」


「廻神さん!アンタ、もっと党首として胸張ってねーと駄目だぜ・・!」


「面無・・・!助けてくれて・・・ありがとな。こっからは・・・廻神さんを助けてやってくれ!」


「燐・・・!お前なら・・・・『あの人』の名前を十分継いでいけると思うぞ・・・頑張れ・・・!」


 燐は涙で顔をくしゃくしゃにしながら此方によって来る。


「アンタが・・・・・居なくなったら・・・・誰を目指して鍛錬すれば良いのだ・・・ひぐっ・・・・。」


 目頭が熱くなるのを堪えて、綾乃のほうを見る。


「綾乃・・・!お前なっ・・・女の子なんだから兄貴に似て無鉄砲なのは控えるんだぞ・・・!後な・・・お前がやられて真っ先に切れたのは白だぞ・・・・。白に迷惑かけるなよ・・・。」


 白と綾乃の顔が真っ赤になる。


「おい、白!綾乃を大事にしてやれよ・・・・。お前は俺にとっても大事な親友だからな・・・!」


「樹君・・・・えぐっ・・・・・・。」


「おいっ、風雅ー!瑪瑙を大事にするんだぞ!」


「うっ・・・・うるさい!」


 風雅は顔を赤らめながらこっちに歩み寄り、右拳をこちらに突き出す。俺も同じように拳を突き出して続ける。


「風雅、お前は最高の好敵手だ・・・・。だからな・・・・。誰にも負けんじゃねーぞ・・・?」


「ふんっ、当たり前だ。」


「イザナミ、お前のことを悪く言ったりしたけど・・・・。情が移らないようにしただけだったんだろ・・・?・・・・ありがとう・・・・。」


「気付くのが遅いわ!・・・・・感謝の言葉は・・・おりんにかけてやれ。」


 するとイザナミはおりんの姿となり、彼女は胸元より十字架のついたネックレスを取り出す。


「樹様が・・・・幸せであるように・・・・『くるす』・・を・・・・えぐっ・・・・。」


 ネックレスを受け取り俺はおりんを抱きしめる。両の目からは涙が零れ、嗚咽を漏らす。


「ありがとう・・・ありがとう・・・・。」


 すると白い腕が俺の全身を絡めとり、現代の門へと引きずり込む。


「みんな・・・・・ありがとう・・・・。」


 その言葉を最後に、俺は現代へと帰っていった。