この非常事態において風雅は楽しんでいた。目の前にいる少年に好敵手の影を重ね、一瞬一瞬をかみ締めるように戦っていた。


「そろそろ・・・・続きを語ってくれてもいいんじゃないのか?」


「そうだね・・・・。まず・・僕の名前は乃亜、由利 鎌之介の弟。姉がゴンタと一緒に里を出たから一緒に出て行ったんだ・・・・・。それから数年・・・五年前のある日、綺麗な青い髪をした女性が鏑木一党を尋ねたんだ・・・。そのひとから刃心を貰ったの・・・。」


「一体・・・その女は何者なんだ・・・?」


「・・・・知らない・・・。」


 乃亜は水の玉を作り出し、風雅に向けて放つ。それを風雅は風を纏った一撃で破壊する。その破裂に隠れて乃亜は距離を詰め、水の剣にて突きを放つ。その剣は巨大化し、風雅に襲い掛かる。彼は身体を後ろに反らし、風の弾丸を乃亜に向かって放つ。乃亜の鳩尾に勢い良く風の弾丸は突き刺さり、乃亜はその場に倒れた。



「次は貴様か・・・・?」


 風雅は倒れた乃亜から目を逸らし、開いた門より見える獄を睨み付ける。


「御厨 獄と申す・・・。お見知りおきを・・・・。」


「御厨・・・?忌の一族(いんのいちぞく)か・・・・?」


 忌の一族、それは甲賀に居るある一族を指したものである。御厨家、その家のものが刃心を飲むと全て同じ能力を得る。問題はその能力である。御厨家の者が能力を使えるのは一生に一度、煉獄の使者となって命を燃やすものだという。


「よく知ってらっしゃいますね・・・。今日はお話をしに着たんじゃないんですよね?行きますよ・・・!」


 獄はそういうと懐より鎖鎌を取り出し、分銅を放つ。蛇のように襲い掛かる分銅を風雅は身を捩って避ける。分銅は大阪城の外壁を一部削り、再び風雅を襲う。今度は避けきれないと感じると風雅は腰より刀を抜き、分銅を弾こうとする。しかし分銅は刀身の根元に巻きつき、刀は巻き込まれ風雅の手から離れる。


「やるなっ!」


 風雅はそういうと刀を一瞥もせずに獄に殴りかかる、しかし獄は鎌を振るい、それを避けるために風雅はバク宙をする。それを待ってたかといわんばかりに獄は分銅を投げ、風雅の腕に巻きつける。そしてそのまま風雅を引き寄せる。


「き・・・貴様!」


 一瞬、一瞬であるが風雅は獄に恐れを抱いた。それは彼自身の本能がそう伝えたものである。次の瞬間、風雅は防御の構えに入る。


「秘儀・・・・・煉龍の術・・・!」


「風・・・双・・・・裂掌っ・・・!」


 楯状に豪風が巻き起こる、しかしそれを飲み込んだのは炎の龍であった。

「だから・・・・宿の修理費は徳川殿に申せばよいと言っているだろうが!」


「どこの徳川さん!?将軍家と同じ名を持つなんてご光栄なこってねえ!」


 宿屋の主人は一向に信じようとしない、風雅は仕方が無いといわんばかりに懐より徳川家の家紋の入った書状を見せる。うやうやしく宿屋の主人は頭を下げ、態度は一変した。


「それで・・・・・お侍さん・・・・部屋にこんな手紙が・・・。」


 宿屋の主人から手渡された手紙には豊臣の家紋が描かれていた。その書面の内容はこうであった。

「要するに・・・今日で決める・・・・と。」


 風雅は黙ってその場を去る。その顔には覚悟が表れていた。





「ごんたは・・・なんでたたかうのじゃ・・・?」


「へっ!無粋な事ききやがるなっ、姫様!んなもん、忍だからだよ!」


「しのびは・・・・たたかわなければならないのか・・・?たたかえば・・・しんでしまうのだぞ・・・?」


「姫様よっ、今はこんだけしかいねーけどよ、鏑木一党はもっともっといたんだ・・・みんなみんな死んじまった・・・。だからよっ、俺らは戦うんだ・・。戦って、戦って、死ぬときは、胸張って、前見て死ぬんだ。俺等忍はそんな不器用な生き方しか出来ないし、そもそも、俺らは死に方なんて選べない。だから、出来るだけ戦って死にたいんだ。」


 千姫には権太の言った意味を理解していなかった。そして、それと同じような言葉を吐いて、強大な敵に向かっていった忍がいた事も・・・。




「ほぅ・・・次は童か・・・。」


「・・・・貴方は・・・強いんでしょ・・・?」


 そういうや否や、大阪城の城門前で乃亜が風雅に襲い掛かる。乃亜の水の剣に対し風雅も抜刀する。一閃、二閃、三閃と有名な剣豪がみても簡単の声を漏らすであろう美しく軽やかな剣捌きで一進一退の攻防を繰り広げる。


「なかなかだな・・・・。その若さで刃心の力を持っているのも感心だな。あれが枯れたのは10年前ほどだろ・・・?そのころの年齢であれの副作用に耐え切れたのか?」


「いやっ・・・・僕が飲んだのは5年前だよ・・・。」


「何・・!?そんな訳がある訳ない・・・!」


「んー・・・・教えてほしい・・・?もっと・・・・僕を楽しませてくれたら・・・・教えてあげる・・・。」

 同日の日没後、風雅はかの女とある宿の二階に宿泊していた。


「お侍様は、どうして大阪へ?」


「正確には・・・侍ではない・・・・。何故此処にきているのかも話すことは出来ない。」


 沙良という遊女が風雅に後ろから抱きつき甘い声で囁く。無論風雅に色香が通じるとは白鷺も思っておらず、あくまでこれは予備動作であった。確実に風雅を殺すための。


「お侍ではなく・・・伊賀の忍者・・・。わざわざ大阪までいらっしゃって・・・・。」


「何っ!?」


 風雅が振り向いたときには時既に遅し、彼は平衡感覚を失う。白鷺は風雅から離れ大きく息を吸い込む。


「貴様は・・・・今朝の・・・・!」


 その言葉の直後、風雅は宿の二階より寒空へ放り出された。間髪入れずにもう一撃、力の塊が風雅を襲った。耳鳴りが激しく風雅は空中をふらふらと漂った。


「我が名は・・・・白鷺・・・・。藤林 風雅よ、姫を渡しはしない。」


「くっ・・・・。貴様の力・・・。・・・『音』か・・?」


 風雅は耳の違和感に顔を歪めながら問いかける。


「よく分かったわね・・・。だからって・・・私の音の弾丸を防ぐことが出来るの?」


「まぁな・・・。馬鹿な友が色々と語ってくれたよ・・・・。」


 再び白鷺は再び音の弾丸を放つ。風雅自身がいくら速かろうとも、音には勝てない。そもそも、風雅のそれと音のそれは全く異なるものである。一般論で考えるなら、音の弾丸は340m/sで進むこととなる。つまり、初速度340で加速度が0と表すことが出来る。風雅がどれだけ速く動こうとも初速度の差は簡単に埋めれるものではない。


 風雅は弾丸を受けて下方にある濠に落ちる。これは彼のとったその時一番有効な時間稼ぎであった。宿の壊れた壁より狙える位置は限られ、その死角は決して少なくは無い。


「くそっ、刀は宿か・・・・。」


 下半身を水につけたまま風雅は白鷺を待つ。数十秒後には濠の傍に白鷺が現れた。


「逃げずにその場で待っておるとは、馬鹿か?それとも諦めか?」


「どっちでもない・・。ただ・・・勝つためだ・・・。」


 静かに言い放った風雅。そしてそれに答えるように白鷺は音の弾丸を放つ。風雅はそれに合わせて濠にもぐる。弾丸を受けた濠の水は霧状になって飛び散り、風雅の姿を隠す。白鷺が二撃目を放つ前に風雅は彼女の胸を右手で貫いた。


「勝負・・・・あったな・・・。」


 白鷺は力なく濠へ落ちていった。さながら血で染まった地獄の濠に浮かぶ一輪の花と形容したくなうような光景が目に入った。血の海に浮かぶ白鷺は虚空に手を伸ばし、抱きしめる。


「姫様・・・白鷺・・・帰って来ました・・・・。・・・・姫様・・・・・姫様・・・・。」


 そう呟きながら、甲賀抜け忍の一人、白鷺は事切れた。