同日の日没後、風雅はかの女とある宿の二階に宿泊していた。


「お侍様は、どうして大阪へ?」


「正確には・・・侍ではない・・・・。何故此処にきているのかも話すことは出来ない。」


 沙良という遊女が風雅に後ろから抱きつき甘い声で囁く。無論風雅に色香が通じるとは白鷺も思っておらず、あくまでこれは予備動作であった。確実に風雅を殺すための。


「お侍ではなく・・・伊賀の忍者・・・。わざわざ大阪までいらっしゃって・・・・。」


「何っ!?」


 風雅が振り向いたときには時既に遅し、彼は平衡感覚を失う。白鷺は風雅から離れ大きく息を吸い込む。


「貴様は・・・・今朝の・・・・!」


 その言葉の直後、風雅は宿の二階より寒空へ放り出された。間髪入れずにもう一撃、力の塊が風雅を襲った。耳鳴りが激しく風雅は空中をふらふらと漂った。


「我が名は・・・・白鷺・・・・。藤林 風雅よ、姫を渡しはしない。」


「くっ・・・・。貴様の力・・・。・・・『音』か・・?」


 風雅は耳の違和感に顔を歪めながら問いかける。


「よく分かったわね・・・。だからって・・・私の音の弾丸を防ぐことが出来るの?」


「まぁな・・・。馬鹿な友が色々と語ってくれたよ・・・・。」


 再び白鷺は再び音の弾丸を放つ。風雅自身がいくら速かろうとも、音には勝てない。そもそも、風雅のそれと音のそれは全く異なるものである。一般論で考えるなら、音の弾丸は340m/sで進むこととなる。つまり、初速度340で加速度が0と表すことが出来る。風雅がどれだけ速く動こうとも初速度の差は簡単に埋めれるものではない。


 風雅は弾丸を受けて下方にある濠に落ちる。これは彼のとったその時一番有効な時間稼ぎであった。宿の壊れた壁より狙える位置は限られ、その死角は決して少なくは無い。


「くそっ、刀は宿か・・・・。」


 下半身を水につけたまま風雅は白鷺を待つ。数十秒後には濠の傍に白鷺が現れた。


「逃げずにその場で待っておるとは、馬鹿か?それとも諦めか?」


「どっちでもない・・。ただ・・・勝つためだ・・・。」


 静かに言い放った風雅。そしてそれに答えるように白鷺は音の弾丸を放つ。風雅はそれに合わせて濠にもぐる。弾丸を受けた濠の水は霧状になって飛び散り、風雅の姿を隠す。白鷺が二撃目を放つ前に風雅は彼女の胸を右手で貫いた。


「勝負・・・・あったな・・・。」


 白鷺は力なく濠へ落ちていった。さながら血で染まった地獄の濠に浮かぶ一輪の花と形容したくなうような光景が目に入った。血の海に浮かぶ白鷺は虚空に手を伸ばし、抱きしめる。


「姫様・・・白鷺・・・帰って来ました・・・・。・・・・姫様・・・・・姫様・・・・。」


 そう呟きながら、甲賀抜け忍の一人、白鷺は事切れた。