襖をあけると、他の部屋と違う広い部屋が広がっていた。そこに燐の姿を見た樹は、他の者たちを先に行かせ、自分一人部屋に残った。


「燐・・・・・。」


「何も言うなっ・・・・!!戦えっ!」


 必死の形相で燐は樹に襲いかかる。真っ赤に染まった灼熱の腕に対して樹も月下美人で対抗する。


「何を焦ってんだよ!!らしくねぇぞ・・・燐!!」


「らしくないだと・・・!?お前に私の何がわかるっ!!?お前に・・・・お前なんかに・・・・!!」


「わかんねーよっ、お前がいわねーかぎりわかんねーって!」


「うっ・・・・うるさい!!」


 膨らんだ燐の頬を見た瞬間、樹は後方へのがれる。燐の口から噴き出た火炎放射を氷雨に纏った冷気で搔き消し、燐に目がけて水球を放つが、燐には届かない。


「私の気持ちなど・・・・お前にはわからん・・・里を・・・仲間を敵に回し・・・・それでも・・・・私はっ!」


 樹は言葉を飲んだ。燐の眼尻に涙を見たからだ。


「私はっ・・・・全てを敵に回しても・・・お前に・・・会いたかったのだ・・・!どうしても・・・・どうしても・・・・。だが・・・・これが・・・・間違っていることなど・・・・十分に知っている。だからっ・・・だから私はもう・・・引き返せない・・・引き返せないんだ!」


「わかった・・・・。もうお話は止めるわ・・・・。本気でいくぞ・・・?」


 青い両目は燐をしっかりと見据えていた。





「たしか貴方・・・重力を使いましたよね?」


「フン、それがどうした?」


 廻神は十勇士の一人、望月 六郎に問いかける。六郎は近くにある岩をふわりと持ち上げて余裕を見せる。


「率直に言いますが、貴方に対して、少々腹を立てておりましてね・・・・。」


「気にするな!!死ねば安らぐ!」


 六郎は話を聞かずに持ち上げた岩を廻神に投げつける。しかし岩は廻神をすりぬけた。


「貴方は私の大切な物を二つ愚弄した・・・。」


 六郎の背後に回った廻神が彼を蹴ると、その巨体は吹っ飛び、岸壁ぶつかる。


「まず一つ・・・。これは貴方だけには限りませんが・・・・十勇士を愚弄した。」


 体勢を立て直す前の六郎の顎を蹴り上げた廻神は、そのまま彼の腹に膝を入れる。


「もう一つは・・・その能力を使うことによって・・・・藤林 剛蘭を愚弄した・・・。」


 廻神は光を纏って六郎をつかんだまま高くへと上昇する。一定の高さに達すると廻神は彼の背中に乗り、今度は地面へと加速し始める。思いきり地面にたたきつけられた六郎は血反吐を吐き、もだえ苦しんだ。


「ふ・・・ふざ・・・ふざけるな・・・この・・・・望月・・・六郎さまが・・・・いとも簡単に・・・ゴボ・・・。」


 血反吐を吐きながらも六郎は付近にありったけの重力を加え、超重力磁場を作り上げる。これは、世間でいうブラックホールで、以前藤林が廻神と今日としたときに使った技である。


「ふぅ・・・。貴方は何から何までご老体をバカにしているな。」


 強烈な吸引を光に乗って逃れ、六郎の襟筋をつかみ、ブラックホールに向かって投げつける。


「待って・・・待ってくれ・・・・頼む・・・頼む・・・!!」


「片田舎で静かにしておればよかったのに・・・・お前が十勇士になった時点で運命は決まっていたのだよ・・・・。」


 静かになったその場に座り込み、廻神は虚空を眺める。


「ご老体・・・・今回は・・・私が皆を導く番ですね・・・。すこしは・・・貴方に近づいたでしょうか・・・・?すこしは・・・真っ直ぐ生きているでしょうか・・・?」


 亡き藤林にそう語りかけると、決意新たに廻神は歩き始めた。

 白・面無・廻神はわかれて戦うことにした。白の相手となるのはリーダーであろう長髪の青年であった。


「お久しぶりですね・・・雷堂 白さん・・・・!」


「僕は貴方なんてしらないよ・・・。」


 青年はニヤリとした笑顔を作り上げる。憂いを含んだその笑みを、白は覚えている。しかし、そんなはずはない。何故なら彼は・・・彼は・・・。


「そうですよ、貴方の思っているとおり、私が真田 幸村です!」


「僕の知ってる幸村さんはもっとおじさんだけどな・・・・。」


「ふははははっ、どうしてですか!?どうして貴方は忍の世界に身を置きながらも我々と同じ物差しで物事を測ろうとするのですか?単純です、こういうことなんですよ!」


 次の瞬間、幸村の顔の右半分が崩れ落ち、異形が現れる。それは十数年前のあの時以来の戦慄であった。


「え・・・・?それは・・・?何で貴方が・・・?」


「十蔵のおかげですよ・・・!さぁ・・・・時間も無くなってきたのでそろそろ行きましょうか・・・!!」







 天守の扉が開いた。開けたのはただの一般兵であった。


「何者だ・・・?」


 顔を布で隠した猿飛 佐助が兵士に問いかける。


『忘れたか?こういう忍もいるという事を・・・。』


 ポチャン・・・・水滴が落ちるような音がする。それに伴って兵士が苦しそうにもがき始める。すると彼の影から白い腕が現れ、床をつかんで体を引き上げた。


「服部・・・半蔵・・・!」


「猿飛・・・。一体誰が中身なのかはしらんが・・・・・。千姫は返してもらうぞ。」


 半蔵の影は彼の背中にまで移動し、漆黒の翼に変化する。半蔵が大きく羽ばたいた瞬間、無数の苦無が佐助を襲う。佐助は苦無をよけると、一瞬で距離をつめ、半蔵の腹に蹴りを食らわす。しかしその半蔵は黒く変化し、闇に溶けた。


「どうだ・・・?これがかの有名な『影分身』だ。この私に対して顔を覆ったまま戦う余力など無いんじゃないのか?」


 ヒュッと音が鳴り、半蔵の肩口から鮮血が飛ぶ。一瞬の出来事に半蔵は眼を見開く。


「かまいたち・・?やはり・・・・お前は・・・!?」


 半蔵の問いかけを無視し、佐助は再び臨戦態勢に入った。

 上の階に登った樹が見たものは由利 鎌之介に苦戦する風雅の姿であった。片膝をついて肩から出血する姿は、いままで樹が見たことのないような姿であった。


「なっ!?風雅!?なにして・・・・!?」


 うまく言葉を紡げない樹にようやく気付いた風雅は笑みを漏らす。


「あぁ・・・樹か・・・。少し考えごとをしててな・・・。あれだ・・・お前らの時代でいう『うぉむ・あっぷ』だ・・・。」


「へ・・!?『ウォーム・アップ』しとる場合ちゃうやろ、それに、お前、考えごとって・・・。」


 言葉をつづけようとした瞬間、風雅を取り巻いていた無数の鎌のうちから10個ほどが樹にたいして襲いかかった。彼はあわてることなく10個の水球を作り上げ、鎌を打ち落とし、そのまま水を氷に変えて鎌を地面に張り付けた。


「おい・・・・そこの貧相な面しとる奴・・!!俺は今風雅とはなしとんねん、邪魔すんなや。」


「ひひひっ・・・・殺す・・・!!」


 再び鎌が樹を襲う。樹は氷雨を作り上げ、すべての鎌をバラバラに切り落とす。多数の鎌を目隠しにして鎌之介自身が突っ込んできた。氷雨で大鎌を受け止めた樹は水龍の力を開放する。


「邪魔するな・・・って言った筈やが・・・?それにお前の相手は俺やない・・・そうやろ?」


 樹の殺気に鎌之介は完全に気圧される。静かになったところで風雅は改めて口を開く。


「可能性として・・・猿飛 佐助は・・・『あの』佐助であることも十分考えられるよな・・・・?」


「あぁ・・・決してそうである可能性は低くないさ。」


「もし・・・『奴』なら・・・お前が姫を連れて行ってくれないか・・・?」


 十年以上前の戦いで、風雅は猿飛 佐助に負けている。彼なりにリベンジしたいのであろう。樹はその気持ちを汲み取り、頭を前に振る。


「わかった・・・。やけど・・・・負けんなよ・・・?」


「もちろんだ・・・。まず・・・コイツを倒すとするよ。・・・風・・・・双・・・裂・・・爪!!」


 一瞬にして鎌之介を切り裂いた風雅は何事もなかったかの様に部下を集め、上の階へ向かった。天守も間近と思える階にて、これまでにない殺気を感じる。


「このかいやな・・・風雅・・・?」


「あぁ・・・油断するなよ・・・!」


「ふ・・・藤林殿・・・?ここに・・・姫が・・・!?」


 心配そうに問いかける部下に向かって風雅は安心させるかのように答える。


「いやっ、この上だ。しかし・・・この階は我々にとって少々因縁のある忍がいるのだ。まぁ・・・安心してくれ・・・我々は負けんよ。」


 そうして一行は乃亜、燐の待つ部屋へ進んでいった。しかし・・・誰も気づいていない・・・。一人の兵士が居なくなっている事に・・・その兵士が忍の術で操られている事に・・・・。