No.324 青春18きっぷで横川・軽井沢の旧線跡を散策 | D菩薩の仕事いろいろ趣味いろいろ

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前から一度行ってみたかった群馬県横川と軽井沢の間にある碓氷峠へ向かう旧国鉄のアプト廃線跡。春の青春18きっぷでスキーの師匠Mさんと行く日帰り小旅行です。

 

 

上州の早春の朝は、雲ひとつない快晴。新宿発 6:58、高崎乗換えで横川に9:57到着。

 

 

碓氷峠の入り口、横川はかつて高崎-長野-新潟を結んだ大動脈•信越本線の途中駅で、隣りの軽井沢駅まで登りの標高差は553m。この国鉄/JR最大の急勾配を通過する全ての列車の登り下りを補助する EF63型機関車を配置した横川機関区を持つ大きな駅でした。機関車の付替え時間にホームの店でよく売れたという「峠の釜飯」が有名。

 

ところが1997年の長野新幹線の開業で乗客の流れは変わり、EF63と横川機関区の運用コストを維持できなくなった横川-軽井沢間は廃線となってバス輸送に代わり、現在の横川駅は1時間に1~2本の高崎行きの普通列車が折り返す小さな終着駅となりました。

 

 

駅の近くには、旧中山道の横川関所跡。

 

 

駅前の荻野屋本店で峠の釜飯をいただく。

 

 

軽井沢行きのバス停と駐車場を挟んで駅の反対側は、かつての横川機関区が「碓氷峠鉄道文化むら」という博物館として残っています。

 

 

1962年から1976年にかけて、ここ横川に計25両が集中配備されたEF63。急坂でスリップするような緊急事態では電磁石がレールに吸い付く「電磁吸着ブレーキ」を装備しています。

 

 

碓氷峠を超える特急、急行、普通など様々な種別の電車、気動車、客車、機関車との連結のために全ての車種と互換性のあるソケットを持つのも EF63だけの特徴でした。

EF63は、碓氷峠を通過する列車の必ず横川寄り(急坂の下側)に連結されたので、この複雑な連結面を持つのは機関車の軽井沢方でした。

 

 

碓氷峠の急勾配にあまりに特化し過ぎた性能のために1997年の新幹線開業で他に行き場なく引退したEF63ですが、今は鉄道文化むら内の数百メートルの線路上で一般客に運転体験させるユニークな役割で生き残っているのが4両あります。

本物の機関車を動かせるのは全国でもここだけで、1日研修の受講と試験の合格が必要です。

 

 

機関庫内に掲示されていた業務用?時刻表。日付は昭和61年3月3日なので、EF63の仕業表としてほぼ最後の姿でしょう。

 

 

EF63が運用されたのは 1963年に複線で開通した「新線」(1997年に廃線)で、それ以前は1934年製のED42がアプト式の「旧線」で活躍していました。

 

 

アプト式とは、2本のレールの真ん中に敷設されたギザギザの「ラックレール」を機関車の床下のギアが掴んで急勾配を上下する方式で、蒸機時代の1893年の開通から1963年の廃線までずっと単線のまま歴史を終えました。

 

 

1893~1963年に稼働していた「旧線」は今、「アプトの道」として全長4.7kmのウォーキング・トレイルになっています。

 

その起点は、鉄道文化むらの脇にあります。

 

 

旧線トレイルの前半部分は、1963年開通の「新線」と共用。複線の片方(写真右・上り線)をトレイルに舗装し、もう片方はEF63の体験運転や「峠の湯」まで走るトロッコ列車用に今でも稼働しています。

 

 

11.2kmで高度553mを稼ぐ、最大66.7‰(1000mの移動で66.7m登る)の傾斜は鉄道には急勾配ですが、人が歩くにはほとんど平坦に感じてすこぶる快適。気持ちの良い午後です!

 

 

途中、上下線が少し離れる鉄橋。

 

 

垂直な橋脚を真横から見ると、線路の勾配の大きさがよくわかります。

 

 

トレイルの起点から1.6km、約30分歩くと有名な旧丸山変電所が見えてきます。

 

 

明治45(1912)年建設の国指定重要文化財です。

詳細はこちら ↓

 

 

ドイツから輸入した最初のアプト式電気機関車の運転開始に合わせて、変圧器に加えて312個の蓄電池で安全な電力量を確保したようです。

この丸山変電所は、1963年のアプト運転終了とともにその役割を終えました。

 

 

ここでは、ちょっとドローンで空撮も…♫

 

 

側面のレンガ作りはとてもキレイだけど、屋根は意外と放置されている感じ(個人的な感想です)。

 

 

トレイルをさらに奥へ、めがね橋、旧熊ノ平駅を目指します。

 

 

さらに行くこと20分。天然温泉「峠の湯」の手前で「旧線」が「新線」から分かれて左へ折れます。

 

 

ここから本格的な旧線の始まりです。明治26(1893)年の開通当時へタイムスリップ。

 

 

1963年の廃線から60年以上たっても、トンネル内は観光用にしっかりメンテされています。

 

 

ドローンで自撮り。

 

 

旧線に分かれてから、勾配が明らかに急になりました。

 

 

トレイル起点から約1時間。一つ目のハイライト、めがね橋に到着です。

 

 

たしかフランスだったか、ローマ時代の水道橋をちょっとだけ彷彿。

 

 

ここは空撮にも力が入りました。

 

 

めがね橋の上流には、さらに鉄橋が2つ。1963~1997年に使用された新線の上下線です。

ドローンの水平ジンバルで見る(撮る)と、やっぱ軽井沢へ向かう勾配の強さがすごいです。

 

 

めがね橋からさらに先へ。旧熊ノ平駅へ向かいます

 

 

天井がわずかに黒いのは、100年以上前の蒸機の煤煙のあと?

 

 

旧熊ノ平駅が見えてきたようです。

 

 

旧線はここ熊ノ平で再び新線に合流します。元は単線だった旧線で列車の行き違いをするために作られた「信号場」です。傾斜が連続する碓氷峠で、平坦な場所を確保できる階段の踊り場のようなところ。

 

 

横川の方向を振り返るとトンネル出口が新旧で4つ。いま私たちが出てきた旧線(単線)のトンネルは右から2つ目です。

左の2つは新線の複線2本として、いちばん右の古いトンネルは何だろう?

 

 

あとで調べてみると、この駅は開設当時スイッチバック式で、両端を山に挟まれて列車の入換えに足らない線路を伸ばすために山を途中まで掘って有効長を確保したんだとか。

 

 

ここにも比較的新しい変電所の遺構がありました。

 

 

1997年に廃線になって既に27年。四半世紀以上たっても、今にも列車がやってきそうな雰囲気を感じます。

 

 

反対側、軽井沢方のトンネル。トレイルとしての遊歩道はここまでです。来た道を横川へ戻ることにします。

 

 

旧熊ノ平駅の構内には、立派な慰霊碑が立っていました。

「熊ノ平殉難」? いったい何があった?

 

 

碑によると、ここでは1950年に大きな土砂崩れがあって、50人超の人が犠牲になったとのことです。しかしこんな山奥で50人規模の犠牲者を出すなんて、いったい何をしていたのでしょう?

 

気になって調べてみると、当時のNHKニュースのアーカイブが見つかりました。

 

1950年 信越線熊ノ平駅がけ崩れ|災害|NHKアーカイブス

 

これによると、最初の土砂崩れで塞がった線路の復旧作業をしていた多くの作業員がさらなる山崩れで2次災害に会ったというのが真相のようです。この事故の犠牲者には国鉄職員の家族も含まれるそうで、当時ここには家族も住む官舎があったとニュースは伝えています。

 

ここに駐在して変電所を守っていた職員さんたちがいたということですね。

 

 

さて旧熊ノ平駅を堪能?して、横川へ戻ります。何事もそうですが、「帰り」は「行き」よりも早く(速く)感じるもので、同じものを見ても少し余裕みたいなものがあります。

 

 

帰路に改めて見るこのトレイルの特にトンネルの整備メンテナンスの状況は、安全というレベルを超えて趣向的にも間接照明や色彩が優れていると思います。

 

 

元々のデザイン(これが明治!?)と相まって素敵な空気感です。

 

 

普通でも早く感じる帰り道が、旧線の微妙な下り坂のおかげで足取り軽く、めがね橋まで戻ってきました。ここでせっかくなので橋の下の旧国道まで下りて、めがね橋を下から見上げてみようということになりました。

 

 

旧18号線沿いの案内板。明治25年11月、イギリス人 パゥエル技師…、今から132年前に極東の島国•日本の山奥でこんな立派な橋を設計した技師さんの子孫は、今もイギリスか世界のどこかにいるかもですね。

日本と縁も所縁もなく生きているイギリス?人が、今ここにご先祖さんの名前が残っていることを知らなかったら…って、なんか教えてあげたいような気がします。

 

 

下から感じる高度感に…

 

 

上から見下ろす高度感…

 

 

冬のこの季節のいいところは、余計な樹木がなくて景色がすっきりすることですが、同時に色彩に乏しくて淋しい。

次回は、初夏の新緑、さらに秋の紅葉、冬の雪化粧など狙いにまた来たいと思います。

 

 

もうすぐ午後5時、アプトの道トレイルを横川まで戻ってくると、文化むらの展示車両が夕陽に輝いていました。

 

架線のない空き地に整然と並べられた車両たちは、遠目に見ると鉄道模型のような風情でした。(おわり)