リベラル日誌 -9ページ目

【書評】トッカン-特別国税徴収官 高殿円著

トッカン―特別国税徴収官―
高殿 円
早川書房
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トッカン―特別国税徴収官―

ファストフードについて改めて考えてみた


民主党代表選も終わり、野田新総理大臣の下、復興・経済再生に向けて、再び動き出すようである。しかしながら、米労働省が先日発表した8月の雇用統計によると、非農業部門の雇用者数は前月比横ばいとなり、10ヶ月続いた雇用増が途絶え、11ヶ月ぶりの低水準に沈んだ。米雇用回復の停滞感を浮き彫りにした結果となり、日本のマーケットにも影響することになるだろう。


日本では、世界的な財政問題と景気悪化懸念から円高が続き、輸出産業に打撃を与えている。3年前のリーマン・ショックを思い起こさせるような雇用の停滞や賃金低下を憂慮し、消費が落ち込むことになるだろう。米国において、成功のシンボルとも言うべき投資銀行のバンカー達でさえも、解雇リスクと激務が給料に合わず、自ら職を変える動きが活発化しているようだ。


こんなイケテナイ時代で僕らの助けとなってくれるのがファスト・フード店であるかもしれない。ファストフード・チェーンはグローバル化の先兵であり、物差しでもあるといえるだろう。例えば、以前「ビックマック・インデックス」なんて言葉が経済の専門雑誌に紹介され議論されたくらいだ。このようにファスト・フード店は、ある意味で僕らの生活の一部と化しているかもしれない。


ただ本当にファストフードは僕らに恩恵だけをもたらしてくれるものなのだろうか。本日はこの点に関して、少し考えていこうと思うのだ。



エリート主義者はことあるごとにファストフードを見下して、その味を酷評し、食文化の安っぽい事例とみなしてきた。でも僕は価格と味を鑑みれば、このような批判は的外れであると考えるし、取るに足らないものであると感じる。本当の問題は、子供達への影響である。エリック・シュローサー著『ファストフードが世界を食いつくす』にも記されているが、ファストフードは子供達を対象に大量に販売され、当の子供達とさほど年齢の変わらないアルバイトの若者によって作られている。この業界は年少者に食べ物を提供すると同時に、年少者を食い物しているのだ。



子供の頃に親しんだ食べ物の匂いは、人の心に一生消えない跡を刻みつけるらしく、大人になってもよくそこへ戻っていくのだそうだ。つまり子供時代の「ハッピーセット」の思い出が、マクドナルドに足しげく通う大人の顧客を作り出すわけだ。そう考えると、お袋の味はいつしか「ハッピーセット」や「バリューセット」に変わっているのかもしれない。これは本当に恐ろしいことである。



またエリックは、ハンバーガーが出来るまでの過酷で非人間的な分業システムを生々しく著書で描いている。アイダホのじゃがいも畑、食肉処理場(これが1番生々しい)、ファストフード店の店舗…と背筋が寒くなるようなルポタージュである。



さらに映画「スーパーサイズミー」では、大人達でさえも時に健康被害を及ぼすことを僕達に教えてくれた。これは、出演者本人(モーガン・スパーロック)が1日に3回、30日間マクドナルドのファストフードを食べ続けたらどうなるかを記録した映画である。この間、健康のための運動はやめ、彼の身におこる身体的・精神的な影響について記録している。さらに、スパーロックはファストフード業界の社会的な影響を調査し、この業界が利益のために栄養を犠牲にしていることを明らかにした。



日ごとに、明らかに彼の様子がおかしくなり、鬱状態に陥ったり、嘔吐をしたりと視聴者をひどく不安にさせるモノとなっている。確かに一部批判があるように、1日3回必ずファストフードを食べるという「普通」とは言えない食生活を送っているものの、ファストフードが僕らの健康に、ある程度ダメージを与えることは事実であろう。だからこそ、大人達であっても、ファストフードの魅力(安くて、手軽)とうまくつきあっていかないといけないのだ。僕自身、先日数年ぶりにファストフード店に訪れた際、安くて手軽に食べられることについては、大変魅力を感じた。ただサラリーマンのオサーンが「スマイル0円」を頼んでいるのを見て辟易したけれども。




僕達は、ファストフードのゲートをくぐる前に、またはカウンターで注文する前に、その食品のたどってきたルーツを意識するべきなのかもしれない。食品は命と文化をつなぐ大切な架け橋なのだから。



参考文献

ファストフードが世界を食いつくす
スーパーサイズ・ミー 通常版 [DVD]













働かないアリに意義がある 長谷川英祐著

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長谷川 英祐
メディアファクトリー
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働かないアリに意義がある

ぼくらはそれでも肉を食うー人と動物の奇妙な関係 ハロルド・ハーツォグ著

ぼくらはそれでも肉を食う―人と動物の奇妙な関係
僕はシーシェパードが捕鯨船に対し、「環境保護」を名目として、爆薬をしかけたり、衝突したりと危険行為に及ぶニュースを見聞きするたびに疑問に思っていた。さらにこうした暴力行為も、反捕鯨、反イルカ漁、反アザラシ猟の世論が強い国からは賞賛されることさえあるし、多くの有力者からこうした活動に対し、援助資金を集めてさえもいる。


女性が悪(ワル)に惹きつけられる本当の理由

僕たち人類にとって異性に「モテる」ということは非常に重要なことだ。それは「自分の遺伝子を後世に残す」という生物の基本的な目的を達成する為に必要なことだからだ。特に男性にとって、効率的に遺伝子をバラマクためには、多くの異性と接触を試みた方が可能性は高まるわけであるから、異性に「モテる」ための行動も顕著になるだろう。見た目をよく見せようと必死に雑誌を買い込み髪型を入念に整えてみたり、スポーツに明け暮れてみたり、はたまた勉学に打ち込んでみたりということになるはずだ。


もちろん僕も世の多くの男性と同じような行動をとってきた。ただ昔から分からないことがあった。それは「悪(ワル)」と呼ばれる種類の人間が、多くの男性を魅了する美人を惹きつけるということだ。「美人」という種は、遺伝子学的に考えれば、シンメトリー(左右対称性)が高く、健康で丈夫であるということになり、優位性がある。


女性は男性と異なり、一生に使える卵子の数が限られている。そのため、多くの遺伝子と交わることはあまり得策ではなく、少数の優れた遺伝子を見つけて交配することが遺伝子学的には正しい行動のように思える。


しかしながら、時としてヤンチャな小僧やテレビを賑わす黒いイメージの男性に、世の中の美人は惹きつけられるのだ。遺伝子学的に競争優位にあるにもかかわらずである。最近ではその代表格として「押尾学」があげられるだろう。彼は多くの美人女優と噂になり、当時の男性の注目の的であった女優と結婚した。ご承知の通り、かの有名な事件を起こしたことを発端として離婚したけれど。


なぜこうもワルは美人を惹きつけるのか?今回はこのことについて考えていきたいと思うのだ。


僕はワルが美人を惹きつける要因は大きく分けて2つあると考えている。1つは「左右対称性」がある、つまりイケメンであること、また肉体的に逞しいといった肉体的優位性があることを意味する。2つ目は他の個体から身を守ってくれるボディーガード説である。2つ目の要因は左右対称性に付随するような項目であるので順を追って説明していこう。



1.左右対称性であるということ



ダーウィンは、配偶行動の謎について、ひとつの革命的な理論を提示した。ダーウィンは以前から、一部の生物が、自分の生存を妨げかねないような形質をわざわざ発達させているという奇妙な事実に頭を悩ませていた。例えば、クジャクの美しい飾り羽は、捕食者の目を引き付けてしまうので、クジャクの生存にとっては明白な脅威になる。にもかかわらず、なぜこの形質が進化し、クジャクという種のなかで一般的になったのかを、ダーウィンは疑問に思ったのだ。彼の出した解答は、望ましい配偶者を獲得する競争で有利に働き、その固体の遺伝的系統を次代に伝える役割を果たしているというものだ。このように繁殖上の利点によってある形質が進化していく現象を「性淘汰」と呼んだのだ。


多くの種において、左右対称性はきわめて重要な身体的美しさの指標である。42の種を含む約65の研究が、異性を惹きつけてパートナーを獲得するのに身体の対象性が重要な役割を果たすことを示している。通常は左右対称になるモノが非対称になる要因は、発達の過程で食物の量や質の不足などといった環境的要因が働いたことにある。つまり左右対称であるということは、その個体が発達の過程でそうした悪影響を受けなかったことを証明しているのだ。



それは左右対称性が、肉体的な優越を持っているということに他ならない。このような見た目の美しさは何も顔だけに限定されるわけではない。端的に言えば「イケメンである」、「逞しい」、「背が高い」といった見た目の良さである。肉体の基本が生来の遺伝子情報によって作られるということは、遺伝子決定論が嫌いな専門家でも認めるところであろう。ワルはこうした遺伝子的優位を持っている人が多いのではないだろうか。つまり先のダーウィンの理論で考えてみると、「性淘汰」という進化を遂げていると考えることが出来るのではないだろうか。



実際にある調査によれば、比較的、対照的な体を持つ男性のほうが、たくさんの相手とのセックスを経験しており、初体験の年齢が低く、女性と付き合い始めてからセックスに至るまでの時間も短い。そして主たる性交相手以外の相手とのセックス頻度も高いようだ。ここでもどこかの国の歌舞伎役者や押尾学を考えてみても、左右対称性は残念ながら高そうである。さらに彼らはここに経済力もあるのだから困ったものである。




2ボディーガード説


この説は坂口菊枝氏が著書「ナンパを科学する」でも述べているが、男性による性的強要のターゲットになるリスクを下げる効果があるのではないかというモノである。メスがオスによる望まない性的アプローチに悩まされるのは、人間に限ったことではなくて、オラウータンやマガモなどあらゆる生物において起こりえる。人間の場合、繁殖上有利な立場にいる若い女性がターゲットになるケースが多い。このため、男性による性的な攻撃によって社会活動をひどく妨害されるようなことを避ける為に、特定の男性をボディーガードとしてそばに置くのである。


さてこのような場合はどのような男性が採用されるのだろうか。こうした時は「よい父親」であるよりも、男らしさが売りの男性に価値を見出すと予測される。身体的に魅力的な女性は、それほど魅力的でない女性に比べて、男性性の強調された男性顔を好む事が示されている。魅力的な女性は「よい遺伝子」特性と「よい父親」特性のどちらを重視するか天秤にかける必要が少なく、「よい遺伝子」かつ「よい父親」の男性を容易に手に入れることが出来るからだ。


中東諸国での暴動だけでなく、イギリスでも暴動が起きる昨今のような平和であるとは限らない世の中で生き抜くためには、男性は優しいだけではダメで、乱暴者や同じような乱暴者を排除出来るだけの逞しさも必要とされているのかもしれない。




3.まとめ



ある性質、つまり特定の遺伝子形質は当然のことながら、男女双方の合意によって受け継がれていく。「豊かな生活」の中で育った男ほど、均整のとれた左右対称の顔や体に育つ可能性が高い。そういう男を好む女自身も、見かけのいい男と一緒になることで豊かな生活を謳歌することが出来る。そして、自分の子供も恵まれた環境で育てられる。しかもその子供は父親から遺伝子を受け継いでいるので、見栄えのする姿形となる期待値は大きい。こうしてある遺伝的性質は次世代に受け継がれていくのだろう。


しかしながら、このような競争優位になるような遺伝子を持つ男性は「浮気性」が多い。このような浮気性をこのまない女性もいるだろう。そうでなけば、世の中の全ての男はとてつもない浮気者で溢れることになってしまう。現実的にも世の中の男の浮気性は、そこそこで留まっている。


これはたぶん、あまりにもオイタが過ぎると、自分の子供を産んだ女の面倒をみず、子供もうまく育たなくなるので、行き過ぎた浮気性を持つ遺伝子は淘汰されてきたからだろう。


でも世の中のワルや浮気者がなくならないのは、女性がこのような男性に心では説明できない、遺伝子によって惹きつけられてしまうからかもしれない。この行動は頭で考えたものでないだけに、女性を責めることは出来ないだろう。


でも僕のような見た目の美しくない男性にとっては、とても切なく、心の痛む話だ。このような女性の行動をセーブするような薬品でも開発されないかと日々祈るばかりである。


参考文献

なぜ美人ばかりが得をするのか

人はなぜレイプするのか―進化生物学が解き明かす
ナンパを科学する ヒトのふたつの性戦略

心と遺伝子 (中公新書ラクレ)

女と男のだましあい―ヒトの性行動の進化

心はどのように遺伝するか (ブルーバックス)

あなたのなかのサル―霊長類学者が明かす「人間らしさ」の起源