冬の南会津、木賊温泉(その2) | 旅はブロンプトンをつれて

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(その1からの続き)

それに、宿からスキー場まで車で片道30分かかるものの、途中渋滞もなく、駐車場は空いています。
何よりも、スキー場の宿と決定的に違うのが、木賊温泉のお風呂と食事でした。
上述のように、運動して汗はかいたものの、リフトの上ですっかり冷え切った身体を温泉に浸けると、はじめこそ感覚が麻痺しているようで、温泉をまったく感じないものの、だんだんと身体がほぐれてくるにつれてじわじわと温熱効果が効いてきて、疲れと日頃のストレスが溶解していくような感覚になります。
よく暖まって汗をかき、お風呂上がりの牛乳やビールは五臓六腑に染みわたる思いで飲めますし、その後の食事も美味しくて、運動しているから余計にたくさん食べられるので、いつもは全部食べられないお櫃に入った炊き込みご飯をお代わりするほどでした。
つまり、自分の気に入った宿を選んで通勤スキーをした方が、スキー場の中や近隣に宿をとるよりも、コストパフォーマンスに優れたスキー旅ができるということを教えてくれたのが、木賊温泉でした。


あれからずっとご無沙汰していた雪の木賊温泉ですが、今回、久々に車で行ってきました。
時間の都合でスキーは殆ど出来ませんでしたが、春から秋にかけてとは違った魅力がありました。
まず、当たり前ですが外湯も宿も空いています。
車で来ようと思ったら、東北自動車道の那須塩原インターから3つ、その他のルートでも最低1つは雪道の峠越えがあります。
当然、チェーンやスタッドレスタイヤは必須で、できれば四輪駆動の車で来ることが望ましい(雪道の運転に慣れていない都会人はとくに)状況で、自分のようにスキーが趣味でもともと雪道を走り慣れている人間ならともかく、普通都会の人は四駆の車に乗っていたり、チェーンを常備していたりしませんから、レンタカーを利用してまで来る人は少ないのでしょう。
また、外湯に関しては専用の駐車場からお風呂に下る階段は雪に埋もれて通行止めになっているので、迂回しないと河原の半露天風呂にはたどり着けません。
その迂回路も凍って雪が積もっている坂道なので、滑りにくい靴を履いてこないと、降りにくいと思われます。


湯船に浸かってみると、夏に比べて若干ですが温度が低く、そのぶんお風呂に長く浸かることができます。
外気温も夏よりずっと低いので、長時間入ってものぼせませんし、だからといって出たらすぐ身体が冷えてしまうということもありません。
外湯から雪の中を宿に戻ってきても、むしろ身体は中からどんどん熱くなってきて、汗が出てくるほどです。
そして、宿に帰って食卓につけば、食事は当然に夏よりも数段おいしく感じます。
もちろん、夏が不味いということではなく、寒い分味覚が冴えるということです。
そして食後は炬燵に足を入れての読書。
子どもの頃には当たり前だったお茶の間のこたつも、いま密閉度の高い住宅で同じように入ると、何か違和感があります。
何だろうと思うに、炬燵の外の気温が高いのです。
冬の露天風呂も同じですが、炬燵は部屋が冷えているからこそ、下半身は温まっても頭がすっきりしているのです。
今のように密閉度の高い部屋の中で温風暖房をつけた状態で炬燵に入ったら、のぼせに近い状態になり易いのではないでしょうか。


その点、昔ながらの木造建築の木賊温泉で炬燵に入ると、子どもの頃の部屋の寒さがよみがえり、「炬燵は寒い中でこそでしょう」と改めて思います。
あいにくその夜は雪が降りませんでしたが、外でしんしんと雪が降る中で本を読んだら、静けさが深い分、本の内容に集中できそうです。
そして就寝しようとふかふかの布団に入り、温風暖房と炬燵のスイッチは消して寝ます。
直前に宿の湯船にもう一度浸かって身体をあたためたため、布団の中は自己の熱で十分暖かく、靴下を履いたまま寝る必要もありません。
こうすれば、空気も乾燥せず、鼻炎や咽頭炎にもなりにくくなります。

自分も年をとってから温風暖房が苦手になり、夜は切って寝ているのですが、鉄筋コンクリート造りの宿だと、加湿器も一緒につけないと喉が痛くなって夜中に目を覚ましてしまいます。
その点、昔ながらの木造建築の方が人に優しく感じます。
吉田兼好が「家は夏をもって旨とすべし」と昔に書いたのも、道理があってのことだと思います。
消灯すると、外の雪明りが障子を通してほんのりと部屋に入ってきて天井を照らしています。
夏とは違う川の瀬音を聴きながら、こうして格子状の天井を見つめながら眠りについた子ども時代をまた思い出してしまいました。


翌朝は6時に起きて外湯に行きました。
空は暗くても道には電灯がついていますし、雪が積もっているおかげでかなり明るいので、懐中電灯やヘッドライトは必要ありません。
お風呂はもちろん貸し切りです。
身体が冷えていないせいか、昨夕よりも若干熱く感じるものの、夏の泉温のように肌にピリピリと来る感覚はありません。
しばらく湯船に入ったり出たりを繰り返して宿に戻り、美味しく朝食をいただきました。
時間いっぱいまでお風呂に入ってのんびりと過ごし、那須塩原経由で帰途につきましたが、この日は関東平野も北部は雪が降っていました。


冬は装備のある車でないと来にくいと書きましたが、南会津市の観光客も利用できる乗り合いタクシーを予約すれば、野岩鉄道の会津高原尾瀬口駅から木賊温泉までは、片道900円で来れるそうです。
(但し、時間は決まっています)
コアな木賊温泉ファンは、浅草から東武線を利用して、冬場に独りでも通うのだそうです。
それくらい、泉質も泉温も良いということでしょう。
今回、せっかく車で来たのだから、昔のように近隣の小さなスキー場で滑れば良かったと思いました。
その方が温泉は格段に気持ち良いし、食事もさらに美味しくいただけたはずです。

雪国でできるスポーツといえばスキーかスノボ、スケートくらいだと思いがちですが、もうひとつ、スパイクタイヤを履いたブロンプトンでの峠越えがありました。
けれども会津高原駅と木賊温泉の間には30㎞の距離があり、途中には中山峠(狭いトンネル)という難所もあります。
冬場は車で走っていても風が強く、地吹雪などに遭遇したらスパイクタイヤを履いた自転車といえども容易には進めないでしょう。
来冬は、木賊温泉に宿泊して比較的規模の大きいたかつえスキー場に行ってみようかなと思いました。

(おわり)