ここのところ立て続けに壊れたモノ(その1―車) | 旅はブロンプトンをつれて

旅はブロンプトンをつれて

ブロンプトンを活用した旅の提案

(銀座 旧東海道ハイパーラプス映像より)

子どものころ、瞬間接着剤のテレビCMで、ピタゴラスに扮した役者さんが、「形あるものは壊れる」と言いながら、「ピターッと修理」してゆく映像がありました。
ピタゴラスがそんなこと言ったのかといえば、そんな事実はありません。
しかしコマーシャルとはいえ、子どもだし、確かめる手段が無いから信じてしまうのです。
あれは、「ピタゴラスの修理」という駄洒落を持ってきたかったらで、同じ意味の言葉は、西洋哲学では「万物は流転する」という言葉を残したヘラクレイトスでしょう。
「誰も同じ川に二度入ることはできない」という言葉を、後世の人がわかり易く改ざんしたという説もあるみたいですが、プラトンが引用して有名になったといいます。
仏教には「諸行無常」という言葉がありますが、これも同じ意味です。

(品川宿)
しかし、自分のことを幸運、幸福だと考えたい人間の欲望としては、満ち足りていると感じているなら、「今、この状態が永遠に続いて欲しい」と望むのでしょう。
自分が頻繁に使用するモノについても、できることなら壊れないで、調子のよい状態を維持して欲しいと考えます。
だから、道具を大切にする人はメンテナンスも怠らないし、その際には点検もすると思います。
というか、今の経済感覚だと消耗品ではない、耐久消費財については、メンテナンスフリーとまでは言わないにしろ、最初から壊れにくい設計をしているものと考えて消費者側は扱います。
それでも、耐用年数や限度というものがありますから、保守点検を重ねても、いつかは壊れる日が来るわけです。

(川崎宿)
今回、自分の持ち物が立て続けに壊れたので、そのことについて書きたいと思います。
まずは、20年選手の車です。
この車、壊れやすいと評判の英国車でしたが、これまで乗るのを諦めるような大修理の必要性も無く(細かな修理はたくさんしました)、外装はもちろん、内装もかなりボロボロになってしまいましたが、よく走ってくれました。
とくにこの車、ヨーロッパ車らしくて、RV車なのに腰高なところが無く、低重心なうえにシャーシがしっかりしていて乗り心地が経験したことないほど静粛なうえに、レカロのようなバケットタイプではないのにシートが抜群にフィットするので、前の同じタイプの日本車だったら腰が痛くなったり、耳鳴りがとれなくなったりするような、スキー場の往復をはじめとする長距離ドライブも、運転手はもちろんのこと、同乗者も楽チンかつ疲れ知らずでした。
(運転手以外皆寝てしまうのには閉口でしたが)

(横浜関門)
ブロンプトンという、人力英国車に出会ってからは、電車+自転車旅行の方が景色を楽しめる上に、よその人とのコミュニケーションがとれるので、すっかり乗る頻度が減ってしまったものの、こうして振り返るとマイカー旅行の環境は20年の間に世の中も、自分の向き合い方も随分と変化しました。
車の方は化石燃料を大量消費して走らせる車は環境にやさしくないし、SDGsじゃないなんて言われるようになって、ガタイが大きくて、燃費の良くないRVは敵視されるようになりました。
自分の気持ちも、旅は道連れがいるよりも、独りのほうが周囲との対話も、読書のような内心の対話もすすむと感じるようになり、誰に邪魔されることも無く、こちらが誰かに忖度する必要もないひとり旅に大きくシフトしました。
それに、鉄道と折りたたみ自転車のコラボ旅のほうが、お財布に優しくて環境によいばかりでなく、だんだん年を重ねるにつれて衰えてゆく自己の心身の健康に対し、ずっと有益だと気が付いてしまいました。
つまり、周囲も含め自分もまた、万物流転、諸行無常だったわけです。

(保土ヶ谷宿)
そんな私の心変わりをしってか知らずか、乗る頻度が低くなるにつれて、車の方は色々と問題が起きるようになりました。
バッテリーが切れてしまい、冬場に鍵を回しても「カチリ」ともいわなくなってしまったことは、一度や二度ではありません。
これは、雨の日などに定期的に乗ることで解決をみましたが、しばらくして後席について、窓が開かなくなり、さらにはドアロックも内側からしか解除できなくりました。
1年前くらいからやたらと冷却水が減るようになりました。
そのたびに足すわけですが、洩れているようには見えません。
半年くらい前から、エンジンルームの中からゴボゴボという音がするようになりました。
すぐにディーラーに見せればよかったのですが、滅多にのらなくなったことと、経済的な事情もあって放置していました。

(戸塚宿)
但し、滅多に乗らぬとはいいながら、どうしても使わないといけない機会はスキー旅行以外にもあります。
ひとつは大雨の時の通勤です。
雨の中、ブロンプトンでJR新川崎駅まで走っても、危険です。
また、たとえ無事に駅までたどり着いたとしても、ぬれた合羽や靴は下車駅から必要であり、いくらガラガラの始発電車でも、その格好のまま電車に乗るのはさすがに気が引けます。
さらに、ブロンプトンのシートポストを錆びさせると、走行中にズルっと下がる癖が出るようになるのは、既に経験しています。
朝に小雨程度で、その後に晴れてくる予報なら、合羽を着て二種原付のハンターカブで往復するのですが、一日中強い雨の予報の日は、やはり安全のために車で往復します。

(藤沢宿)

それから、大きな荷物を持っていかねばならないときも、やはり車が無いとどうしようもありません。
自転車やオートバイに乗って背負うにしても、限度がありますから。

最近お寺では主な法要をネット中継するようになりましたので、パソコンやケーブルその他必要な機材は車でないと運べません。
YouTubeにのせるために動画を撮る場合も同様です。
今作成している、旧街道を忠実に辿る動画のように、車で走れる道、自転車でないと走れない道、自転車でも無理で徒歩で辿らねばならない道などすべて撮影するためには、ブロンプトン、撮影機材を積んだうえで、2人以上の人間が必要になりますから、車でないと無理です。

(平塚宿)
先日の故障は、撮影のためにブロンプトンを積んで旧東海道を西上しているときに、起こりました。
箱根の山は問題なく越えて、沼津で1泊し、浜松へ向かっている時のこと。
回転数があがる割にはスピードが出なくなり、静岡の手前にてこれ以上車で進むのは危険と判断し、家へ戻って修理に出すことに決めました。
新東名高速道路の上りに乗ったものの、やはりエンジン不調のままです。
時速80㎞で走行していると、みるみるうちに水温計の針があがりだしました。
これはさすがにまずいと、次のサービスエリアに入ろうとしたところ、今度は油圧迄おかしくなったらしく、ハンドルが重くなり、ブレーキも僅かしか利かなくなりました。
それでも何とか駐車場に止め、そこから保険会社に連絡して、引き取ってもらうことに。
レンタカーの代車を用意してもらい、車はキャリアカーでディーラーに運んでもらいました。
ただ、レンタカー特約に入っていたおかげで、そのまま撮影を続けられたのは不幸中の幸いでした。
前々から計画をして休みを取っていたため、中断すると次の機会は季節跨ぎとなり、動画がおかしくなってしまうと感じたからです。

(大磯宿)
さて、修理見積は2週間後に出ました。
原因は冷却水タンクが脱落しかけ、ラジエーターに接続しているファンベルトやプーリーを圧迫したこと。
最終的には冷却水がまわらなくなり、エンジンがオーバーヒートしてその影響で油圧も低したということで、そのまま走っていたら焼き付きを起こしてエンジン自体がオシャカになっていました。
かなり重篤な状況に、予算以上であれば車を手放す覚悟でしたが、ぎりぎり予算以内で収まるとのこと。
この車には20年間の思い出が詰まっているので、できれば手放したくないと思っていたため、胸をなでおろしましたが、修理期間は最低でも1か月以上、それも、部品を取り寄せる状況によってはかなりのびるとのことです。
20年前の車に部品があるのかと疑問に思う方もいらっしゃると思いますが、日本の車に比べてモデルチェンジまでの期間が長く、さらにほかのメーカーに兄弟車があって、部品を共有していたのが幸いしたようです。
日本の耐久消費財よりも外国、とくにヨーロッパの製品は長く使うことを前提に造られているというのは、向こうでレンタカーを借りて走ってみると分かります。
日本では絶対に見かけないような古い車も、普通に走っていますから。

(小田原宿)
車以外にも、たとえば海外旅行に使うトランクとか、大事な集まりに着てゆくドレスとか、修理しながら、繕いながら三代にわたって使い続けるなんて、そんなに珍しい話ではないというのも、個人のお宅にお邪魔すればよくわかります。
そういう意味で、旅行者に部屋を貸してくれる個人の方からは、暮らしぶりについて色々教わりました。
日本にも勿体ないの文化があるという人がいますけれど、それは戦前までの話で、高度成長期になってからは特に、使い捨ての文化が浸透しています。

昔は耐久財だったものが、どんどん消費材へと変貌しています。
しかし、たとえ安物のビニール傘であっても、どうせ使い捨てなのだからと最初から乱雑に扱っていては、心まで荒んでゆくような気がします。

車については、ここのことろ、調子が悪いのも手伝ってかなり丁寧に運転していたおかげで、仕事などで乗るほかの車の運転もじっくりするようになり、また自転車やオートバイに次いで、車もひとりの時は祈りながら運転するようになっていたため、この車が帰って来たなら、感謝の気持ちをもちながら運転できるよう、気持ちを新たにしているところです。

(箱根関所)