いよいよ今年も終わりに近づいています。
思えば、今年はプライベートで変化がたくさんありました。
その中でも、自分自身で「もの」を制作する機会に恵まれました。

今までも趣味で金継などは行っていましたが、
今年は写真や陶芸の制作に携わる機会がありました。

写真では、奥田美紀さんの作品を撮影して、ハガキにしました。
これがその写真です。



この時から、Anthropological Art Projectが始まりました。
日本語にすると、人類学的アート・プロジェクトとなります。

写真を本格的に撮影するのは、15年ぶりです。
2000年に清里フォトミュージアム主催のヤングポートフォリオで、
自分の作品がパーマネントコレクションとして購入されてから、
写真を撮ることを止めていました。
本業で身を立てるべく、写真を封印したわけです。

ようやく、今になって写真を撮る余裕が出てきました。
で、久々の写真が奥田さんの作品を撮ることでいた。

奥田さんは、生命を表現するのに陶器を用いて作品を制作しています。
こちらの作品は、人体の内部の血管を表現しています。
そこで、内視鏡的な写真を撮影することにしました。
技術的には、逆光で焦点深度を浅くして、
一点にだけピントが合うようにしています。
これによって「入り込んで行く」ような視覚効果を演出しました。

さて、この写真ですが、
奥田さんを通じて神戸のギャラリストの目に止まりました。

そこから、あれよあれよと話が進み、
この年末に「コンクリート・ニ・モル」展で、
写真を出品してもらえることになりました。

この展覧会は、作品の大きさが20×20cmとの規程がありました。
どんな作品にするか、けっこう考えたわけです。
自分しか撮れない写真。
アートの世界にいない自分にしか撮れない写真。
しかもサイズは限られている。

で、制作したのがこちらの作品となります。





これが写真?・・・ですよね。
被写体はフランスのエクサンプロヴァンスの公文書館で見つけた公文書です。
実は、この公文書、フランス植民地期のベトナムで作成されたものです。

ベトナムのバクニン省で1907年に11名の日本人娼婦がいて、
外国人監視のために当時の警察が作成した調書なんです。

一枚一枚の調書には、女性の氏名や出身地、両親の名前、
入国地、入国年度が記載されています。

エクスの公文書館の警察資料の中からこれを見つけたときは驚きました。
だって、1907年といえば、明治40年ですよ。
明治時代にベトナムの片田舎で娼婦をしていた日本人が11名もいたわけです

どのような事情があって、ベトナムの娼館で働くようになったのか?
その後、この女性達はどうなったのか?
いろんな疑問が生まれます。

こうした断片的な史料では、論文など書くことはできません。
ひょっとしたら、私しか日本では、この事実を知らないかもしれません。

だったら、これをアートとして今を生きる人に見てもらおう。
私の本業である人類学の一つの作品として見てもらおう。
人類学の仕事は「生が多様に営まれうる」ことを伝えることだから。

エクスで撮影した公文書をPhotoshopで加工して、
一人一人の名前と生年月日、出身地だけ読み取れるようにしました。

これをアクリル版に挟み込み、
アクリルのBOXに6枚収納しました。

公文書館のBOXから出てきた調書を、
アクリルのBOXで再構成したわけです。

女性たちの調書は4枚です。
残りの2枚のうち1枚は、
調書を作成した官僚が上司に当てた報告書で、
もう1枚はそれを私が日本語に翻訳したものです。

何人の人が、ちゃんと見てくれたのか分かりません。
何も気づかなかった人がほとんどでしょう。
でも、一人でも「なんで?」と思ってくれた人がいれば、
Projectは成功したと考えています。

来年もまた、Anthropological Art Projectを継続していきたいと思います。



先日、アートサロン山木で行われた仲岡さんの個展にお邪魔しました。
仲岡さんも在廊され、とても楽しくお話ができました。

仲岡さんと言えば、淡い色調の釉薬を思い浮かべます。
しかし、最近はその淡さが徐々に変化してきています。

今回、私が求めたカップもそうした変化を如実に表した作品です。



引出し黒の渋い黒です。
見込はもっとギラギラした黒です。



このカップの面白さは、階調にあります。
ほとんど灰釉のようなトーンから焼けただれた黒まで。
まるで白黒写真のようにトーンが多様なのです。

前回、wadで開催された個展では、
色の散逸が景色を構成する作品が出品されていました。



このカップをみたときも、
それ以前の作品との違いに興味を覚えました。
それまでは、フラクタルな色の構成だったからです。

ところが、今回の引出し黒では、
色から一転して階調へと変化していました。

色の散逸から、白黒の階調へ。



ますます進化する仲岡さんは、今後も楽しみです。
涌井さんは陶芸家ではなくアーティスト。
ライブペインティングなども各地で行われています。

さて、今回、wadで開催された個展を訪れました。
涌井さんの作品を見るのは初めてです。

お店に入ると、まさにWAKUI Worldでした。
個展の開催中はwadでも涌井さんの作品が使用されていました。

当日、私は日本茶をオーダーしたのですが、
そこに現れたのがこれらの器たちでした。






真ん中の宇宙人にようやものがカップです。
「どないして飲むねん」と思ったのですが、
なんと頭と胴体部分が分割できるようになっていました。

涌井さんの器たちはどれもユニーク。
う~ん、器といっていいのかも分かりません。

陶芸家が創る器とはまったく性質が違うように思えます。
たぶん、ご本人も陶器を創っているとは思ってないのでしょう。
たまたま、土を用いて作品を創っただけかと思います。

だから陶芸家のような器そのものに対するこだわりは感じません。
あくまでアートの一環で器チックなものを創っただけでしょう。
この焼物に対するこだわりのなさが「おもろい」のです。

店内には、さまざまな正座人がおられましたが、
私が迷いに迷って購入したのはこちらの正座人です。



一輪挿しの形をした正座人。
遊びでちんまい花を活けてみても面白そうです。