Annette | Have a cup of tea

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個人的なお正月映画鑑賞(自宅にて)の第2段は、『アネット』。監督はレオス・カラックス、主演はアダム・ドライバー、マリオン・コティヤール。そして、原案・音楽はスパークスという。こちらもプライムビデオで鑑賞した。

舞台は米国ロサンゼルス。過激なユーモアで人気のスタンドアップコメディアンのヘンリーと、国際的にも有名な美しいオペラ歌手のアンが恋に落ち、二人はアネットという子を授かるが、アネットはまだ赤ちゃんであるにもかかわらず、光にあたると歌を歌い出すという、世にも奇妙な才能を持つ子どもだった。

 

 

あまり予備知識を入れずに観た作品だったが、これはミュージカル映画だった。休日の昼下がりに観たせいか、最初の20分くらいはすぐに寝落ちしてしまい、何度も巻き戻して見直す始末だった。主人公のコメディアンのハリーはまるでボクサーのごとく、緑色のガウンをまといステージに上がる。身体を使って表現しながら、手に持つマイクをぐるぐる振り回す仕草を見て、つい昨年ライブを観たSuedeのブレット・アンダーソンを思い出した(その前にも、ソーシャルメディアで見た、The Smithsのカバーを歌うリック・アストリーも、そんなマイクアクションをしていたが、シンガーの間では流行りなのか?マイクが人に当たりそうで怖っ!)。ミュージカルなだけあって、ストーリーとともに出演者が歌う歌が面白く、笑ってしまうシーンもあったが、楽曲を提供したSparksの曲をちゃんと聴いたのは初めてだった。なかなか鋭い歌詞で、異色な感じもしたが、どれもシーンにマッチしていて、ミュージカルの独特な雰囲気も感じられ、寝落ちしていた最初の20分を除いたら、最後まで物語の世界に引き込まれたのだった。

アネットが生まれたところでは、度肝を抜かれた。なんでパペット?!と思い、奇妙でちょっと怖いと思ったが、観ているうちにそのパペットの独特な表情や動きにも慣れて来たのだった。アンと共演していたピアニスト(後に指揮者)を演じた、ドラマ『ビッグバンセオリー』にユダヤ系の学生役で出ていたサイモン・ヘルバーグもなかなかよかった(以前、メリル・ストリープとヒュー・グラントの映画でもピアニスト役で出演していた)。全体的にシリアスなストーリーでありながら、どこかコミカルで、特に主人公のハリーについては失笑というか笑ってしまうところもあり、ブラックユーモアな部分もあり、それが引き込まれた要素かもしれない。感情をコントロールできない主人公が幸せの頂点を経験するが、その性格ゆえに、人知れず過ちを犯し、取り繕っていても、後は落ちて行くだけという、モラルというか哲学というか、、そんなものが観ていて感じられた。かつては愛の巣だったプール付きの立派な邸宅が、事件発覚後に放置され朽ちていく光景も胸に迫った。

 

すっかり見慣れたパペットのアネットが、有名なスーパーボウル(劇中では違う名称だった?)のハーフタイムショーに出演するシーンは、今思い出しても笑いがこみあげてくる。真面目に考えたら悲劇のストーリーなのだが、パペットだから、ちょっと非現実的にコミカルに見えたのかもしれない。

 

レオス・カラックス監督の作品は、90年代に『ポンヌフの恋人』や『ボーイ・ミーツ・ガール』をレンタルして観た記憶があり(記憶がおぼろげだが、どちらも暗くて激しい内容だったような・・・)、また数年前にはDivine Comedyことニール・ハノン氏が楽曲を提供し、カイリー・ミノーグが歌うシーンがあった『ホーリー・モーターズ』もDivine Comedyファン友さんに教えてもらい観たのだが、自分がパリ好きなこともあり、映像の中にパリの風景が出てくる点は好きなのだけど、奇妙で独特な雰囲気、時には暗すぎて救いがなかったりするエピソードがあるとちょっと苦手。それでも、若い頃に観た監督の過去作品に比べると、この『アネット』はミュージカルということもあり面白かった。