『大貫妙子コンサート 🐰 ピーターと仲間たち2024』
恵比寿ザ・ガーデンホール、2024年7月3日(水)
梅雨入りしてから不安定な天気続きだったが、東京が今年初の猛暑日の予報だった先日、1年半ぶりに大貫妙子さんのコンサートに行った。このタイトルのコンサートは昨年8月に開催されていて、内容から、昨年ぜひ行ってみたかったが、昨年は春先に身内に不幸があり(ちょうど坂本龍一さんが亡くなる1か月くらい前)、喪中でまだ半年もたっていなかったことと、8月の猛暑の時期に出かけて行くのも躊躇われ、それでも直前までチケット取ろうかどうか迷っていて結局行かなかった。そして今年春先にコンサートの告知があったとき、7月初めで猛暑の懸念もあったけれど(近年の酷暑の経験から、だいたい7月から9月上旬は電車で出かけるイベント入れない方針)、とりあえずチケットをとっておいた。
場所は恵比寿ガーデンホール。出かけて行った昼間は暑かったものの、7時開演なので会場に着く頃は陽が落ちて日中よりは暑さもやわらぎ、ガーデンプレイスの屋外のベンチに座ると、湿気はあるけれども、わりと心地よい風が吹いていた。
ホールに入ると、自分の席は10列目以内(ステージ向かって左端)だったが、ステージの前の段差のない平らなフロアに仮設の椅子が繋げてある場所だった。木の椅子なので、座面にかろうじて薄い滑り止めのような布素材が貼ってあったが、背もたれがそのままの固い木なので座り心地はあまり良くなかった。後方のスロープになっている座席の方が、通常ホールに設置されている指定席のようにクッションのある椅子で、座り心地良さそうだった。椅子はさておき、今回はキョードー東京の最速の先行抽選で購入できたので、前方が取れたかも。結果的には、ステージ上で演奏するメンバーや大貫さんの姿が良く見えて、おしゃべりも良く聴こえてよかった。サウンドの聴こえ方は、音量が思った以上に迫力があった(ステージに近かったから?)。しかし、冷房が良く効いていて、会場の一番低い位置のせいか、防寒対策(アームカバーや大判のスカーフなど)していったけれども、座席に座って静かに聴くコンサート、途中から身体が冷えて寒く感じ快適と言う感じではなかった。幸い、ポップなノリの良い曲が多かったので、なるべくリズムにのりながら体を揺らしたり、手拍子したりしてなんとか寒さをしのいだのだった(笑)。自分は特に寒暖差に敏感なので、夏は屋内でも座ったまま動けないシチュエーションだと、本当にエアコンの冷えが身体にこたえるのだ。
開演前に会場に流れていた音楽が、アンビエントか何かのようなサウンドで、時折「ピーターラビットとわたし」の曲の中で聴こえるピーターの笑い声のような音が聞こえた。なんの曲だろうと検索してみたら、Xで投稿されている方がいて、坂本龍一さんの「Exibition」というトラックだそう。ピーターラビットの笑い声(鳴き声)ってこれだったのか?(笑)。
そして、開演時間になると、バックバンドのメンバーが登場し、楽器だけの演奏が始まった。1曲目はなんと「カイエI」。懐かしい!ライブでは初めて聴いたかも。いや、80年代末のアコースティック・クラッシックコンサートで聴いたかも?記憶がないけれど。インストの演奏が終わると、いよいよご本人が登場。次の曲はイントロのベース音が、ちょっとカルナバルを思わせる、アルバム『Lucy』からの「LULU」だったと思う(セットリストが見つけられないので、うろ覚え)。続いて「ピーターラビットとわたし」のイントロが流れ、早々とピーターが登場し、アップテンポの楽しい音楽で観客の心を掴んだ。大貫さんがLULUについてのエピソードを話してくれて、LULUという本(調べたらゲームのマルチメディアCD-ROM)の朗読を大貫さんが担当したそうで、そのときに作った曲だったそう。検索してみたら、朗読の部分が聞ける動画がアップされていた。
今回のコンサートは特に、80年代に出したアルバムから、坂本さんがアレンジを担当した曲を中心に構成されているとインタビューやラジオで何度か聞いていた。当時の録音の音源を流しながら、演奏するという。それらのライブ演奏は音の層に厚みがあり、確かにアルバムを再現したようなクオリティの高い贅沢なサウンドだった。10代後半の頃、レコードやテープで聴いていた親しみのある曲が盛りだくさん、歌も覚えているものも多く、演奏中ずっと小声で口ずさんでしまった。80年末に数回コンサートに行っていたとはいえ、あの頃はちょうど大貫さんのアコースティック・クラシック期だったようで、バックバンドはアコースティックピアノ(当時からレザ・パネさんだった記憶が)と弦楽器編成だったので(一回、ラジオの公開録音でバンド形式で数曲聴けたことがあった)、当時のレコードの様なサウンドでライブを観られたのは初めてだったので感激した。
主な演目は、演奏の曲順が正確でないけど、「ぼくの叔父さん」では、ジャック・タチの映画知ってますか?と大貫さん。観客の知っている人、拍手で応える。自分も当時BSで放映したシリーズ作品をビデオに何本か録画して未だに持っている。ジャック・タチ、大貫さんが雑誌か何かで紹介していて知った作品だったかもしれない。また「Patio」を紹介されたとき、最初どんな曲だか思い出せなかったけれど、イントロが流れたらすぐに思い出した。ライブで聴けるなんて意外だったけれど、レコードの音そのもので、演奏の細かいフレーズまで正確で、弦楽サウンドのお気に入りのパートがあり、それを聴いて心が震えるというのはこういうことかと感動した。パティオは中庭という副題がついているが、ガーデンホールならではの選曲なのか?後の大阪公演やEXシアターでも演奏されるのか?
シンセサイザーとシンセドラムのイントロですぐにわかる「テディベア」。プー横丁とか歌詞に出てくるし、ポップで楽しい曲で、自分の中で(キターーーッ!)と思ったのは言うまでもない(笑)。ピーターラビットのほうはこの数年ライブでは定番だったが、テディベアのライブ演奏は初めて聴いたかも。思わず一緒に歌ってしまった。そういえば、大貫さんの大ファンだという米国のシンガーソングライター、Ginger Rootさんが来日していて、ちょっと前にSNSでテディベアのレコードをかけてDJをしていた動画を見かけて、ライブでやってくれたらいいな‥と思っていたのだった。
また、ライブで聴きたかった念願の「CARNAVAL」も、昨夏のコンサートのセットリストにあったのを知ったときは、行けばよかったと後悔したものだったが、今回もライブで演奏してくれた。アップテンポでシンセサイザーの音が際立つ曲だけど、座席がシンセサイザーを操る網守さんが良く見えるところだったので、じっと見てしまった(笑)。ちょっとロックっぽい感じのする曲なので、しっとり歌うことが多い大貫さんのコンサートで聴けるとは希少な機会だった。レコードを忠実に再現したシンセは最後まで聴き応えがあり(最後、ちょっと爆音ぽくなる?)、大貫さんの歌声も年月を経て熟成されたボーカル、オリジナルよりももっと芯のある歌声で、本当に演奏してくれてありがとう!と心から感謝。そして間奏に乗せてのメンバー紹介もかっこよかった。
コンサートでは定番の「幻惑」は、変わらず、フェビアン・レザ・パネさんのピアノと網守さんのシンセの音が繊細に美しく重なり、キーボード奏者側の座席で演奏する姿をじっくり見れて良かった。
また、Rainでは、曲作りのインスピレーション源となった映画が『ブレードランナー』の最後の雨のシーンだということも教えてくれた。
コロナ禍に作られた最近の曲「朝のパレット」、「ふたりの星をさがそう」も、高橋幸弘さんがドラムで参加してレコーディングした曲だったと思い出して、、ドラムのビートを意識して聴いてみて、なんだか感無量になった。
「色彩都市」もここ数年のコンサートではよく歌ってくれて(少なくとも自分がコンサートに再び行き始めた2020年代になってから)、一緒に口ずさめる一曲。2020年12月の人見記念講堂で教授がスペシャルゲストで登場したときに、この曲でピアノに座って演奏する教授をかなり間近で観られたことを思い出しながら聴いていた。
アンコールでは、なんと「地下鉄のザジ」!曲名聞いた時に思わず拍手してしまった。これは当時、原田知世さんに提供した曲という記憶があるが(CMソングになっていたみたい)、私はラジオ放送のスタジオライブで大貫さんが歌っているのをテープに録音して聴いていたので、断然大貫さんの歌という印象が大きい。ぼくの叔父さん同様、大貫さんの歌からこのフランス映画を知って、観たような気がする。そう思うと、大貫さんの楽曲からいろいろと影響を受けていたんだなぁ・・と。フランス語の歌詞もあったりして、当時フランスに憧れ、フランス語を学びたいと短大で第二外国語として専攻したのも、50%くらいは大貫さんから影響を受けていたかもしれない。
そして終盤、今回のポップな構成のコンサートいかがでしたか?と大貫さんが観客に聞くと、みんな大きな拍手で応えていた。ラジオでも何度か聞いたけど、今年のフジロック出演について、「呼ばれちゃったんですよ、、」と茶目っ気たっぷりに話し、「私がロック(音楽ではなく生き様が)だとやっと気づいてくれたみたい」と言っていた(笑)。
音楽活動歴50年となる大貫妙子さん、80年代から現代までのどの曲も美しい歌声は相変わらず健在で、今回のポップな曲のセットリストにした理由として、元気なうちにライブでやっておきたいと言っていたのが印象的だった。本当に末永くお元気で活動を続けられますよう願うばかり。
大貫さんのコンサートを再び観るようになったのはコロナ禍の2020年でおよそ30年ぶりだった。そして、2022年末までの約3年の間に4回もコンサートを観ることができたが、かなりのブランクがあったので知らない曲も多かったけれど、アルバムを持っていなくても昨今の音楽配信や動画配信プラットフォームのおかげでキャッチャップできるのは良い時代だなと思う。個人的にはやはり80年代の学生の頃に聴いていたアルバムの曲のほうが親しみがあり、今回のポップなコンサートは念願のセットリストで本当に聴けてよかった。
↓ 2023年に開催されたコンサートのCD、レコード、映像も発売されている。