all is full of beautiful love -2ページ目
破り捨てた厚手のキャンパス
向こう側から淡く香るパステル色
目に映る景色が日毎に移りゆくなか
君がいた15秒間に恋をした
振り返っておいで
夏がくる前に
駆け上がった丘に
まだそこに居てね
少しだけ触れた柔らかな風が
攫っていってしまう
日常に
もう思い出せない街角の景色
次々とせわしなく入れ替わるテナント
記憶に残ることのない無関心のなか
君がいた15秒間に恋をした
振り返ってみせて
朝が来る前に
悲しかった夜に
また戻さないで
息をするのも忘れるくらいに
攫っていっておくれよ
心に
痛い悲しい嫌なことが
僕はただゆっくりと眠りたいだけなのに
熱い苦しい閊える鉛みたいに
気道を塞いで声にならなくて
思いに名前をつけておくれ
この夜に名前の無い独りきり
遠くの彼らの流したこと
流れ込んで僕をうめてしまう
ただ安らかな眠りの最中で
夢ならば見ないよ
明日を生きたいだけさ
ただ儚さに寝返りも出来ない
冷めない熱帯夜
朝を願うだけさ
毎日食べたものが身体をつくり
毎日学んだことが思考をふかめ
毎日感じたことが感覚をみがく
たくさん笑って
たくさん泣いて
たくさん愛して
そういう事は魂に刻まれる
簡単に投げられた紙屑みたいな悪態に
迷うな
惑うな
いつも素気無いそぶりで珈琲を淹れて
カップはふたつ並べてる
まるでルーティンのように
玄関に置かれた踵の潰れた靴を直す
僕が今何をしてるなんて
きっと君にはどうでもいいことなんだろう
夜の雨は長くて降りてくる一粒一粒が
ただいまとおかえりを繰り返し囁く
少し煩くてとても心地良い
なんて言ったら君は怒るかな
季節が昨日よりも少し冷気を帯びるたび
嬉しそうに目を細めて
丸く小さくなっている僕に
退屈なのは貴方が見ていないからだよと
この上ない説得力のあるトーンで
立ち昇る湯気に揺らぐ唇で笑う
そして素気無いそぶりで扉を押さえて
僕の準備が整うのを今は待っている
しばらく袖を通していなかった外套を羽織り
君の腕をくぐりながら
その向こうに踏み出そうとするなか
そよ風のような
聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で
君が言った
どこに住もうと君の自由だけれども
ここにいてくれたら嬉しい
遠くの空に光る稲妻の反射した空を見て
夜に鳴く虫の声が耳の奥で
何度もリフレインしてディレイする
風はもう随分と涼しくなって
また心が締め付けられるような季節が来る
季節と季節の狭間には何かが棲んでいる
心のちょっとした隙間に
ふとした瞬間に忍び込んで
訳もわからないまま何処かへ帰りたくなる
一斉送信で送られてきたような
心無い共感の嵐には
本当に言葉なんてあるのだろうか
それでもひとつひとつには日々があり
まだ見えないところには心があり
そういうものに気付いたなら
またひとつの世界が開いたみたいに
歩いて行けるんだって信じたい
心をぐるぐると撹拌して
濁らないよう淀まないよう
冷えて固まった結晶が
幾重にも美しい模様を描いて
この夜を越えて行ける力となりますように

