30分後、八頭のドーベルマンを全て捕獲し鬼夜子は屋敷に戻ってきた。

そして何事もなかったようにまた、葉巻を吸いながら釜戸の薪を調節しはじめた。


2時間後トンケは…。


異様な息苦しさで目覚めたトンケは驚いた。

目を開けると屋敷の土間の天井から逆さまに吊されていたのだ。


『鬼夜子さーん!!鬼夜子さーん!!』


ガラッ

障子が開くと鬼夜子が入ってきた。


『なんや。』


『すいませんでした!降ろしてください!』

『今後気を付けろよ、今から廊下掃除。』


チョキ


ドサッ


『痛!なにするんですか!いってぇ~』

ロープをハサミで切ったあと、何も言わず鬼夜子は部屋を出ていった。


トンケは廊下の雑巾掛け100往復を終え裏庭に行ってみた。

ドーベルマンが八頭とも無事に帰ってきているのを確認しホッとしていた。

そして

『鬼夜子さんは本当に凄い人だ…』

と鬼夜子に対する憧れを一層募らせるのだった。

ガチャ…


鍵の開く音と同時に、八頭の巨大ドーベルマンは一斉に此方に注目した。


(大丈夫。。大丈夫。。)

脂汗をかきながらもトンケは自分に言い聞かせ、そっとドアを開けた。


幸い襲っては来ない。

トンケは檻の中へ入ると、リールを取り出した。


『ヨーシヨシヨシヨシ…こ、こっちおいで…』


すぐに一匹が近付いてきてリールを取りつけることが出来た。
すると次々と順番にやって来て意外と簡単にリールを取り付け終った。


『な~んだ。意外と簡単だったな~。みんな散歩を楽しみにしてたんだな。』

トンケは安心して八頭を散歩に連れ出した。

八頭は行儀良く、キレイに並びトンケと一緒に歩いていた。


すっかり安心し気を許していたトンケは調子に乗って


『よ~ぅし!少し走るぞぉ~!』

と言い小走りを始めた。
それに続きドーベルマンたちも小走りになった。

『イイゾ。イイゾ~』
走るスピードを少し早くした。


ゴ~~~ン。ゴ~~~ン。

何処からか朝5時の寺の鐘がなり始めた。

その瞬間!!!



ワオーンワオーンワオーンワオーン
ギャオギャオ
ギャンギャンギャンギャン ワオーンワオー

いきなり八頭が八頭とも興奮し吼え始め、猛スピードで走り始めたのである。


「うわー!」


トンケは引っ張る力に敵わず、思わず手を離してしまった。



八頭はそのまま四方八方に散り散りになり、分からなくなってしまった。


(大変だ!鬼夜子さんに何て言われるか…どうしよう…)


トンケはトボトボと屋敷へと戻っていた。




門の前に黒い影。


時、既に遅し。


鬼夜子は何と屋敷の屋根の上から散歩の一部始終を見ていたのだ。



「あ、あ、あ、あの、、ごめ「じゃかましい!!馬鹿かキサマ!!だから4時ってゆっただろうが!!」


びったーん!!


ビンタをまともにくらったトンケは気を失ってしまった。




鬼夜子はそんなトンケを無視し、小屋から馬を出し、それにまたがった。


「ハイヤー!!!」


そして手綱をしばきながら、早朝の住宅街へと消えていった。


『は!』

目の前に広がる光景に、トンケは息を飲んだ。


ガルルルルル…
むしゃむしゃむしゃ
ガルル…ガルルルルル…

大きな檻のなかに、鶏を食いちぎりながら奪い合っている、八頭のドーベルマンがいたのだ。


『絶対!無理です!』

トンケは走って屋敷に戻った。


『鬼夜子さん!無理です。あんなの殺されますよ!』



葉巻を吸いながら釜戸に薪を投げ込んでいた鬼夜子にトンケは息を切らしながら訴えた。


すっぱーー。

鬼夜子は葉巻の煙をゆっくり吐き出しながら振り向くと


ジュー!!


『ギャァァア!!あぢぢぢぢ!』


葉巻の先をトンケの額に押し付けた。


『散歩が終わったら廊下掃除。』


鬼夜子はそれだけ言い、また釜戸に薪をくべ始めた。

鬼夜子の言うことは絶対なのだ。


トンケは脅えながらも裏庭に向かった。

ガルルルルル…
ガルルルルル…

(餌を食べたばかりだから噛みついたりはしないだろう。大丈夫。)

檻の前に立ち、トンケはそう自分に言い聞かせた。

そして鍵をゆっくりあけた。